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第四話 

 朝の風が、広場の石畳をかすかに撫でる。

 ルシアは、胸元の光を手のひらで抱え、村を見渡していた。

 昨日と同じ光景。家も畑も壊れていない。

 でも、生活の気配はない。途中で止まった世界。

 光が、わずかに震えた。

 胸の奥が、ぎゅっとなる。

 昨日と同じ痛みだが、少し鋭くなっている。

 突然、空気が変わった。

 振り返らずとも分かる。世界の端で何かが動いた。

 ――神界からの観測。

 姿は見えない。羽音も足音もない。

 冷たく、理屈のない判断の気配が降りてくる。

 村を、ルシアを、光を――評価する何か。

 ルシアは、胸元の光を握り直す。

 手を緩めれば消える。握れば胸が焼ける。

 選択肢は一つも残されていない。

「……どうして」

 声は風に溶ける。

 問いかけではなく、空気に浮かぶだけ。

 背後で影が動く。ヴァルだ。

 川沿いに立ち、月明かりの中で顔を少し傾ける。

 声は出さない。視線だけで伝える。

「……まだ迷ってるな」

 軽く笑う。

 安心させる笑いではない。逃げたくなる笑い。

 ルシアは答えない。

 目は胸元の光に落ちたまま。

 揺れる光――「たすけて」。

 手を丸める。守るでも閉じ込めるでもなく、そっと。

 空気が重くなる。視線が揺れた瞬間、胸がぎゅっとなる。

 決断は予告なしに訪れる。

 言葉も理由も理屈も、何も要らない。

 光を手放すか、抱え続けるか。

 それだけ。

 ルシアは手を固く握った。

 押し込むでも逃がすでもなく、光を落とさない。

 上空からの視線がわずかに揺れる。

 迷いが神界の評価を変える。

 目は閉じない。閉じれば逃げ道になる。

 胸の奥で痛みと熱が絡み合う。

 けれど手を離さない。

「……あとで、考える」

 小さく、確かに。

 世界の端に届いた。

 ヴァルは、一歩も動かない。

 腕は組まず、表情も変わらない。

 ただ存在だけで空気を震わせる。

 ルシアは息を吐く。

 決断の重さを全身で受け止めながら、光を守る。

 今日、この選択が何を生むのかは分からない。

 それでも、手を放すことはできなかった。

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