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第三十二話

 村の空は薄紫色に染まり、風が静かに草木を揺らす。

 ルシアは胸元の光を抱え、石畳の道を進む。

 光は手の中で震え、守るべきものの重みを伝える。

 空気には神界――アウレアの圧が強く漂い、世界の形が微かに歪むのを感じさせる。

 「……ルシア、ここからが本当の試練だね」

 隣のミカがつぶやく。

 肩までの茶色い髪が夕闇に揺れ、瞳には決意と緊張が混ざる。

 小さな手は光に触れず、守るように前に出している。

 ルシアは胸元の光を握り直す。

 握れば胸が焼けるように痛む。手を離せば光は消える。

 全身で重さと責任を受け止めながら、踏み出す。

 川向こうにヴァルの影。

 動かず距離を保ち、視線だけで二人を見守る。

 声はないが、その存在感だけで空気が張りつめる。

 光が手の中で激しく震える。

 ――神界の干渉が、二人の限界を試すように強まったのだ。

 冷たく理屈のない力が世界の端から押し付ける。

 ルシアは呼吸を整え、光を胸に抱えたまま踏み出す。

 胸の奥で痛みが燃え上がる。

 それでも守る。手を離すわけにはいかない。

 ミカは一歩前に出る。

 触れず、視線で光を追う。

 恐怖はない。信頼と共感が瞳に宿る。

 「……私も絶対に一緒」

 小さく、力強い声。

 ルシアは振り返らずうなずく。

 二人の決意が光を通して世界に伝わる。

 光が胸でさらに輝きを増すと、村全体が柔らかく照らされる。

 木々の影が揺れ、小鳥が飛び立ち、川面が光を反射する。

 ――光の力が現実に届いた瞬間だった。

 その瞬間、空の端から黒い影が立ち上がる。

 神界の干渉が形を成し、二人に向かって押し寄せてくる。

 初めて、目に見える形で“試練”が現れたのだ。

 ルシアとミカは互いに視線を交わし、胸の奥で痛みと覚悟を絡ませながら、次の行動を決める。

 光と祈りが世界を変える力であることを、二人は確信していた。

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