第三十話
空は夕焼けで真っ赤に染まり、村全体が黄金色の光に包まれていた。
ルシアは胸元の光を抱え、石畳の道を歩く。
光は手の中で強く震え、守るべきものの重みを伝える。
空気には神界――アウレアの圧が濃く漂い、世界が今にも変わりそうな気配を帯びていた。
「……ルシア、行くしかないね」
隣のミカがつぶやく。
肩までの茶色い髪が夕陽に輝き、瞳には覚悟と決意が混ざる。
小さな手は光に触れず、守るように前に出している。
ルシアは胸元の光を握り直す。
握れば胸が焼けるように痛む。手を離せば光は消える。
全身で責任と重さを受け止めながら、一歩を踏み出す。
川向こうにヴァルの影。
動かず距離を保ち、視線だけで二人を見守る。
声はないが、その存在感だけで空気を締めつける。
光が手の中で激しく震えた。
――神界の干渉が、二人の限界を試すかのように強まった。
冷たく理屈のない力が世界の端から押し付ける。
ルシアは息を整え、光を胸に抱えたまま踏み出す。
胸の奥で痛みが走る。
それでも守る。手を離すわけにはいかない。
ミカは一歩前に出る。
触れず、視線で光を追う。
恐怖はない。信頼と共感が瞳に宿る。
「……私も、絶対一緒だよ」
小さく、力強い声。
ルシアは振り返らずうなずく。
二人の決意が光を通して世界に伝わる。
光が胸でさらに輝きを増すと、村全体が柔らかく照らされる。
木々の影が揺れ、小鳥が飛び立ち、川面が光を反射する。
――光の力が現実に届いた瞬間だった。
ヴァルは影のまま、一歩も動かず見守る。
距離と視線だけで二人の行動を確認し、世界の変化を観察する。
ルシアとミカは歩みを止めず、胸の奥で痛みと覚悟を絡ませながら進む。
今日、この光と祈りが世界を少しずつ変えていくのを感じた。




