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第十九話

 夕暮れの村は、いつもと少し違った空気に包まれていた。

 光を胸に抱えたルシアが石畳を歩くたび、周囲の草木や小川が微かに揺れる。

 風は穏やかだが、どこか神界――アウレアの圧力が混じったような感覚があった。

 「……ルシア、すごい……」

 ミカが小さくつぶやく。

 肩までの茶色い髪が夕日に光り、瞳は光に映える。

 小さな手を前に出すが、触れることはせず、ただ見守る。

 驚きと信頼が混ざった表情だ。

 ルシアは胸元の光を握り直す。

 手を緩めれば消えてしまう。握れば痛みが走る。

 光を守ることしかできない。

 だが、後戻りはできなかった。

 川向こうにヴァルの影。

 動かず、距離を保ち、二人の動きを視線だけで見守る。

 声はないが、その存在だけで緊張が増す。

 光が手の中で激しく震える。

 ――神界の干渉がさらに強まったのだ。

 冷たく理屈のない力が世界の端から押し付ける。

 ルシアは呼吸を整え、光を胸に抱え、踏み出す。

 胸の奥で痛みが走る。

 それでも守る。手を離すわけにはいかない。

 ミカは一歩前に出る。

 触れず、視線で光を追う。

 恐怖はない。共感と信頼が瞳に宿る。

 「……私も、一緒に」

 小さく力強い声。

 ルシアは振り返らずうなずく。

 二人の決意が光を通して、世界に伝わる。

 光が胸で強く輝き、村全体に淡い光が広がった。

 木々や石畳が柔らかく照らされ、遠くの家々も微かに揺れる。

 ――光の力が現実に届いた瞬間だった。

 ヴァルは影のまま、一歩も動かず見守る。

 距離と視線だけで二人の行動を確認する。

 世界はまだ途中で止まったままだが、少しずつ前に動き始めている。

 ルシアとミカは歩みを止めず、胸の奥で痛みと覚悟を絡ませながら進む。

 今日、ここから、光と祈りの力が世界を少しずつ変えていく。

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