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第十六話

 昼下がりの広場。

 太陽が真上に昇り、石畳や木々を鮮やかに照らす。

 ルシアは胸元の光を抱え、歩幅を揃えて進む。

 しかし、空気は依然として重く、神界――アウレアの圧力が確かに感じられた。

 「……ルシア、準備はいい?」

 隣に立つミカは小さく頷く。

 肩までの茶色い髪が日差しで揺れ、瞳は光を真っ直ぐに見つめる。

 小さな手は前に出すが、光に触れず、守る覚悟を示す。

 ルシアは胸元の光を握り直す。

 手を緩めれば消えてしまう。握れば痛みが胸を焼く。

 光を守ることしかできない。

 だが、後戻りはもうできなかった。

 川向こうにヴァルの影。

 距離を保ち、視線だけで二人を追う。

 声はない。存在だけで空気を張りつめさせる。

 光が手の中で激しく震えた。

 ――神界の干渉が限界を試すように強まったのだ。

 冷たく理屈のない力が、世界の端から押し付けられる。

 ルシアは息を整え、手を閉じて光を抱え続ける。

 痛みが胸の奥で燃え上がる。

 それでも、守る。手を離すわけにはいかない。

 ミカは一歩前に出る。

 触れず、視線で光を追うだけ。

 恐怖はない。信頼と共感が瞳に宿る。

 「……大丈夫、私たちなら」

 小さな声に力がある。

 ルシアは振り返らずうなずく。

 二人の決意が光を通して世界に伝わる。

 光が胸の中でさらに輝きを増す。

 広場全体に淡い光が広がり、周囲の木々や石畳が柔らかく照らされる。

 小鳥が飛び立ち、葉がわずかに揺れた。

 ――光の力が、現実に影響を及ぼした瞬間だ。

 ヴァルは影のまま、一歩も動かず見守る。

 距離と視線だけで二人の行動を確認している。

 世界はまだ途中で止まったままだが、少しずつ前に動き始めている。

 ルシアとミカは歩みを止めない。

 胸の奥で痛みと覚悟が絡み合い、互いの存在を確かめながら進む。

 今日、この光と祈りが、世界を少しずつ変え始めたのだ。

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