第十五話
朝の風が森を抜け、広場に柔らかく差し込む。
ルシアは胸元の光を抱え、足を止めずに進む。
周囲の木々や草が、微かに光を反射して揺れる。
神界――アウレアの圧力が、確実に現実に影響しているのを感じる。
「……ここ、本当に大丈夫かな」
ミカが小さな声でつぶやく。
肩までの茶色い髪が朝日に輝き、瞳は光に映り込む。
小さな手を少し前に出すが、触れることはせず、ただ見守る。
心配と覚悟が混ざった複雑な表情だ。
ルシアは微かにうなずく。
胸の奥で痛みと覚悟が絡み合う。
光は手の中で揺れ、守らなければ消えてしまう。
握れば痛みが走る。手を離すことはできない。
川向こうにヴァルの影。
距離を保ち、視線だけで二人を見守る。
言葉はない。存在感だけで緊張を作る。
光が手の中で激しく震えた。
――神界の圧だ。
冷たく理屈のない力が、世界の端から押し付ける。
ルシアは息を整え、手を閉じて光を抱え続ける。
胸の奥で痛みが燃え、全身に力が走る。
それでも、手を離すわけにはいかない。
ミカは一歩近づき、視線で光を追う。
触れずとも、共感と信頼がその瞳に宿る。
「……一緒に、やろう」
短い言葉に力がある。
ルシアは振り返らずうなずく。
二人の決意が光を通して世界に伝わる。
光が胸の中でさらに輝き、広場全体を柔らかく照らす。
空気が震え、木々の影が揺れる。
村の遠くで、小鳥が飛び立ち、葉がわずかに揺れた。
――光の力が現実に届いたのだ。
ヴァルは影のまま、一歩も動かず見守る。
距離と視線だけで、二人の行動を確認する。
世界はまだ途中で止まったまま。
しかし、少しずつ前に動き始めている。
ルシアとミカは歩みを止めない。
胸の奥で痛みと覚悟が絡み合い、互いの存在を確かめながら前へ進む。
今日、ここから、光と祈りの力が世界を変え始める。




