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Grimoire of Gaia  作者: wisemanjr4


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1/3

Trigger Pull

世界の理は、とうに人の手を離れていた。


《グリモア・オブ・ガイア》――

世界の外側から“契約”をもたらす存在たち。

契約を交わした者は理の束縛を逃れ、異能を得る。


やがて各国は、異能者《グリモア能力者》を戦略兵器として抱え込んだ。

彼らは国の境を守る盾であり、他国を威圧する矛でもあった。

そしていつしか、政治は正義を捨て、理そのものを数値化していった。


――国家は、神をも兵器に変えた。


それに抗う者たちがいる。

滅びかけた思想と自由の残滓を掲げ、

国家の腐敗を焼き尽くすために立ち上がった者たち。


彼らは自らを「再誕者リ・ジェネシス」と名乗る。

世界を壊し、もう一度“正しい理”を築くために。


その中心に立つのが、一人の青年――レクだった。



雨が、焼けた鉄を冷やしていた。

砕けた街路の向こう、国家軍の小隊が瓦礫を越えて進軍する。


「目標は“グリモア能力者”。名前はレク。交戦許可は下りている。」

「対象を発見!撃て!」

通信が途切れる瞬間、指揮官の首が軽く跳ねた。


一瞬後、隣の兵士が突然引き金を引き、味方の頭を撃ち抜く。

次の瞬間、別の兵士が何かを叫ぶように口を開いたが、

声を発するより早く、自分の足に弾丸を撃ち込んで崩れた。


敵影はない。

だが、兵たちは次々と“誤射”し、倒れていく。


「……また、始まったな。」


崩れた壁の上で、フードを被った青年が静かに笑った。

レク――《トリガー》の契約者。


彼の指先が宙を弾くたび、どこかで銃口が揺れ、

誰かの意識が“別の行動”に書き換えられていく。


たったそれだけで、分隊は内部から崩壊した。


レクは、冷めた目で最後の兵士を見下ろす。

「理の兵器なんざ、理性を止めればただの鉄屑だ。」


「第二小隊、全滅です!」

「ええい、第三中隊を投入しろ!」

「サー、イエス、サー!」

国家軍第3中隊、三十名が瓦礫の街区で行軍を再開する。

前方警戒が一歩踏み出した瞬間、どこかで何かが“条件を満たした”。


「なっ――!?」

先頭の兵が、仲間に銃を向ける。

後列が慌てて制止するより早く、弾丸が二人を貫いた。


「発砲者確認!前列の……うわッ!」

次の瞬間、無線士が自分の手榴弾ピンを引き抜いていた。

爆音。粉塵。

そこに敵影は――ない。


わずか十数秒のうちに、戦線は混乱と誤射で崩壊した。

誰もレクを見ていない。誰も彼に近づけない。

まるで“敵陣そのもの”が意志を持って自壊しているようだった。


「……お前らの信念は、“命令”に従うことだろ。」

彼は小さく呟く。

「ならその命令を書き換えただけだ。――理に従った結果だよ。」


レクは笑みも浮かべず、瓦礫を踏み越えた。

背後で煙を上げる街を見ずに、ただ前へ進む。


そこに、微かな違和感が走った。


――“観測されている”。


光学スコープの反射。

レクの瞳がわずかに動いた瞬間、

周囲の兵士たちの意識に新たな命令が刻まれる。


レクの姿がビル影に消えた瞬間、

一斉に火線が――“敵のスナイパー位置”を焼いた。


高層ビル屋上で、煙が上がる。

狙撃手、ひとり戦死。


「……一手、削ったな。」

レクは無線機を耳に当てる。


『レク、敵の主力部隊、反応消失。……またお前の仕業か?』

「“理”は、いつだって脆いもんだよ。」

彼は淡々と答える。

「壊してみりゃ、ただの紙だ。」



爆煙が雨に溶けていく。

焦げた金属の匂いと、湿った土の匂いが入り混じる。


レクは歩を止め、廃墟の影に腰を下ろした。

瓦礫の隙間から水が滴り、破れた布が風にたなびく。

やがて、通信端末の向こうから軽いノック音が聞こえた。


『……終わった?』


レクは短く息を吐く。

「見ての通り。三中隊が無人の街に消えた。」


『またグリモア、使ったの?』

「使ったというより、“動かした”だけさ。」


映像越しに、少女の声がわずかに曇る。

『あんたのやり方、正直……怖いのよ。

 人の意思を、条件分岐みたいに書き換えるなんて。』


レクは笑わない。

「命令に従う人間を、命令で壊しただけだ。

 彼らは自分で考えることをやめた。

 俺は、それをちょっとだけ利用しただけさ。」


沈黙が落ちた。

雨音だけが会話を埋める。


やがて、少女が小さく息を吸った。

『ねえレク。グリモア・オブ・ガイアって、結局なんなの?』


レクは少しだけ空を見上げた。

灰色の雲の切れ間――そのさらに上に、何かがある気がした。


「わからない。

 ただ、“外の世界”の存在ってのは本当らしい。

 ガイアはそこから“契約”を投げてくる。

 選ばれた者だけが、理を外れて力を得る。」


『神様、ってこと?』


「神って呼ぶには、あまりにも機械的だ。

 契約のとき、祈りも赦しもなかった。ただ、選択肢が提示される。

 “理に縛られるか、外に立つか”。

 俺は――後者を選んだだけだ。」


少女が黙る。

レクの片目が、微かに光を帯びた。

灰色の瞳の片方だけが、淡い金色に染まっている。

それが契約の証。


「お前も知ってるだろ、契約者の印。」

『ええ……目。変わっちゃうんでしょ。』

「理の内側にいられなくなる。

 だから国家は俺たちを“異端”と呼び、兵器にした。独裁を繰り返してさ。」


レクは小さく笑う。

その笑みには勝利の色も、悲哀の色もない。

ただ、確信と倦怠だけがあった。


『……もしそれが間違っていたとしても、それでも止まらないの?』

「止まらないさ。」

彼は立ち上がる。

「止まれば、“理”に飲まれる。

 俺たちは、壊れた世界のデバッガーだ。

 止まった時点で、再構築もできなくなる。」


遠くで雷鳴が響く。

雨脚が強まり、視界が白く煙る。


レクは一度だけ背後を振り返った。

そこに広がるのは、壊れた都市と、沈黙した兵器たち。

彼が壊した“理”の亡骸。


その先――

まだ見ぬ“外”の世界から、誰かの視線を感じた。


まるでガイアが、次の契約者を選び始めているかのように。

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