008
境鳥村立中学および小学校
野咲ミク 中学担任
相原リョウコ 小学担任
霧山ユリ 中2
藤アラシ 中2
藤タイスケ 中2
星ホクト 中1
霧山アン 小6
藤サクラ 小5
星ミナミ 小4
天城マヤ 小2
射手ヒロ 小1
「次体育よね。着替えてくる。」
二時間目が終わると霧山ユリは小学生の教室へ。
入れ替わるように射手ヒロが体操服を持って現れる。
「どうだヒロ。虐められたりしていないか?」
藤(兄)アラシが声をかけると
「はい。皆さんとても親切で」
射手ヒロが答えるが聞いていなのか
「女子の中に男子1人で居心地悪いだろう。何かされたらすぐ言えよ。」
藤(弟)ダイスケはぼそりと
「言ったところで何がどうなるでもないけどな。」
「いや、言ったヒロはスッキリするだろ。」
「お前から女子に何か言ってやるんじゃないのかよ。」
「言えるわけねぇだろ。お前言えるのかよ。」
「言えるわけねぇだろ。」
双子が何やら揉めだしてホクトが止めようとするその前に
「僕なら大丈夫ですよ。でも何かあったら相談させてくださいね。」
射手ヒロはにっこり笑いその場を治めてしまう。
3時間目は小学、中学の合同授業となり
当然のように霧山ユリが全てを仕切っている。
同学年の藤兄弟のみならず、
各担任の野咲ミク、相原リョウコもその采配に従っている。
「生徒の自主性なんたらかんたら」
ホクトが何かを言う前にその何かを察したのか
野咲ミクは何やら言い訳をしているが無視することにした。
とは言っても体育以外の合同授業には
美術、音楽、家庭、技術と科目は限定されているので
担任の言い訳もあながち的外れでもないのかなと。
4時間目が終わると小学生達は清掃を挟み中学生達と共に給食時間になる。
ここでも射手ヒロが呼ばれホクトと机を向かい合わせる。
「去年まで男子は俺達しかいなかったんだよなぁ。」
藤アラシがしみじみと言う。
「肩身が狭かった。と言うか虐げられていた。」」
「そうなんですか?」
「男子だからと何かと押し付けられる。」
「男子だからと何かと我慢させられる。」
2人揃って
「そのくせ都合の悪い時ばかり男女平等を訴えるっ。」
人数少ないと大変なんだな。
などとホクトは悠長に考えているのだが、そもそも
自分とヒロ君が増えたところで状況が変わるとは思えないなと。
その日の放課後、帰り支度をしながら
「中学って帰りの会ってやらないの?」
ホクトの質問に霧山ユリは
「学活ならやったじゃん。実際はホームルームだけど。」
「学活とホームルームって何か違うの?」
「詳しくは知らないけど」
学活は学級活動の略で教員が提案や提言、問題提起や課題を与え生徒がそれを考える。
ホームルームは生徒自らが問題提起し生徒自身が片付ける。
「って認識している。で、帰りの会って何?」
ホクトはうーんと唸ってから
「裁判?」
児童が被告であり加害者であり被害者であり、
「先生が裁判官?」
「どちらかと言えばお奉行様的な。」
〇〇さんが掃除さぼっていました
□□さんが給食の人参残していました
△△さんが石をひっくり返してダンゴムシに日を浴びせていました
☓☓さんが犬の散歩をしていました
「犬の散歩はいいだろ。」
「授業中は駄目でしょ。」
「つまり生徒が密告に」
「報告です。」
「報告に対して先生がその処分を決める場ってことか。」
「大体あってます。」
「それこそホームルームでよくね?というか、何か密告したいことがあったの?」
「ああ、いえ違います。」
ホクトは慌てて否定して
「ちよっと気になっただけです。」
「何?何があったん?言ってみ?他に言わないから言ってみ。」
帰宅してすぐに「割烹着」に着替え、
祖父の補助として翌日の仕込みの手伝いを始める。
2週間ほど経って
「学校には慣れたか?」
普段は作業のことしか口にしない祖父に戸惑いながらも
「教室に猫がいて驚いた。」
中学生になった自覚としては
私服から制服になったことと授業時間が長くなったこと、
それから科目が少々増えたことくらい。
そんなことより、
そこそこの都会の学校から
それなりの田舎の学校へと移ったことで
「中学生になった」事実以上の戸惑いが続いている。
「そうか。」
祖父は目を細めて笑い
「子供達が少なくて驚いただろう。」
場所取りに躍起にならない昼休みの開放的な校庭は新鮮だった。
クラスどころか校内全員の名前を知っている。
「前はもっといたの?」
一瞬、祖父の手が止まったように見えた。
「そうだな。いたりいなかったり。」
それきり学校の話はなく、手伝いを続けていると
「おっと、時間だな。今日はもういいぞ。」
「もう少しできるよ。」
「そうもいかん。学校から時間決められているからな。」
「そうなの?」
「学校と保護者会で土日は原則禁止、平日も2時間以内。しかも」
「テスト前テスト期間中は禁止と決められた。」
保護者達も学業優先を認めた妥協案なのかな。
ホクトが「それじゃあ」と片付け始めると
祖父はニヤリとして言った。
「祝祭日は何も言われていないからな。」
そしてゴールデンウィークに突入する。