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006

境鳥村立中学および小学校

野咲ミク 中学担任

相原リョウコ 小学担任

霧山ユリ 中2

藤アラシ 中2

藤タイスケ 中2

星ホクト 中1

霧山アン 小6

藤サクラ 小5

星ミナミ 小4

天城マヤ 小2

射手ヒロ 小1


「私は打ち合わせがあるからユリに案内を任せる。」

担任野咲ミクはそう言ってとっとと奥へと進んだ。

「それじゃあ行きましょう。」

霧山ユリもとっとと別のドアへと向かう。

ホクトは戸惑いながらも後に続く。

勝手に薄暗い通路を想像していたが全くそんな事はなく

照明は明るく、薄い緑の床とクリーム色の壁。

通路には一切の物が無く、事務所とのギャップを感じずにはいられない。

「資料室」「映像室」のプレートのドアを素通りし

霧山ユリは「70」と書かれたプレートのドアを開ける。

中には大きな反射望遠鏡。

「大きいですね。」

「大きいってどうして判るの?」

「表の70って口径ですよね。70cm望遠鏡は大きいですよ。」

それを聞いた霧山ユリはニヤリと笑う。

その隣はドアと言うより扉のある部屋。

その扉には「液体窒素」と何やら細かな注意事項のプレート。

霧山ユリが慣れたようにその扉を開けると

何やら「シュー、コー」と機械の呼吸音が響く。

複数のパイブ配管。何かの信号を伝送する色とりどりのコード。

いくつかの制御パネルと多くのアナログな物理ボタン。

機械の呼吸音は宇宙戦艦に積んでいるレーザー兵器のような造形のそれから鳴っている。

パネルの裏から白衣の女性が2人の入室を待っていたように歓迎する。

「やっと来たわね。」

霧山ユリがその女性の紹介をする。

「この天文台の副施設長の藤アキさん。」

「察しの通り藤双子と藤サクラの母。」

藤アキが2人の前に歩み寄り、ホクトに向かって

「久しぶりねホクト君。」

「ご無沙汰しております。」

ホクトの返答に藤アキは驚いた顔をするが

「気を使わせてごめんなさい。事情はノリコさんから聞いている。」

ホクトもその言葉に申し訳無さそうに頷く。

「遅いから調整しなおしていたところ。さあこっちへ。」

藤アキがホクトの手を取る。

「どうせミクちゃんの仕事が遅れたのだろうけどそれならそれで連絡してほしいわ。」

「ホクト君もあまりあの人に振り回されないようにね。」

今のところ振り回しているのは隣でニコニコしている霧山ユリだ。

「70cmで感心していたけどこっちはなんと250cm。」

ドヤる霧山ユリ。

「このサイズで接眼部があるのは珍しいかもね。」

「大抵は撮影機器に直結してコンピュータ処理するから。」

「さあ覗いてみて。合わせたばかりだから。」

機械の呼吸音が気になりつつも接眼部に目を寄せる。

映し出されている星を見てホクトは目を離す。

「これ、これって。」

ホクトはもう一度覗き込む。

木星だ。

薄いベージュと赤茶色の縞。そして大赤斑がはっきり見える。。

「生ですよね。生木星ですね。」

霧山ユリはホクトが興奮している事に少々驚きながらも

「塩焼きの木星とか味噌煮込み木星とかもあるのか?」

「新幹線で300年くらいかかる木星の生。」

「銀河鉄道ならもうちょっと早く到着するけど。」

副施設長の藤アキも笑いだし

「こっちのモニター見て。」

ホクトは目を離し脇のモニターを覗く。、

中央に白く光るようにラインが走り

それ以外が赤黒く錆びたように見える。

「これは赤外線カメラの映像。」

「中央が白いのはメタンの雲が厚くで赤外線が反射されているから。」

ホクトは慌てたようにもう一度望遠鏡を覗く。

「どうした?」

「いえ、右下に影が見えて、これって衛星ですか?」

「よく気付いたわ。ちょうどイオが通っているところね。」


どうにか興奮を抑えつつ事務室に戻ると

所用を済ませた野咲ミクが待っていた。

「どうだった?」

「木星を見せていただきました。感動しました。」

ホクトの返答に野咲ミクも満足したように頷く。

隣の大きなアンテナのある施設には立ち寄らずに

そのまま車に乗り込み帰路へ。


そして翌土曜。

支度を済ませ、少し早いかなと思いながらも家を出ると

ちょうど霧山ユリが歩いているのが見えてホクトはその場で待つ。

「おはようホクト君。言われた通りリュックね。飲み物は?」

「おはようございます。飲み物はリュックの中に。」

「そう、じゃあそれ出して。代わりにこれ入れて。」

霧山ユリは自分のリュックを下ろし

おそらくお弁当が入っているであろう巾着を一つホクトに渡す。

言われるまま受取り自分のリュックに詰めると

「このまま出発しましょう。」

やはり2人の副部長は参加しないようだ。


2人は昨夜車で揺られた道を歩く。

また天文台に行くのだろうか。昼から行くとなると太陽観測か?

「不思議だと思わなかった?」

突然霧山ユリがボソリと呟く。

「何をです?」

「村立天文台。村立って。村であんな立派な天台を造った事にだよ。」

「さあ。どうなんでしょう。」

その昔隕石が落ちたとか

この村の出身者が宇宙飛行士になったとか

霧山ユリが言うには何かそれらしい「いわく」がないと不自然だと。

「wikiもなければホームページすらないからね。」

「昨日通った道のバリケードに関係者専用ってあったの覚えている?」

「ああ、はい。」

「じゃあ一般の人は何処から行くの?」

ああそれでか。

ホクトは天文台の出入口の違和感を思い出す。

霧山荘やテングランドのような

商業施設によくあるガラスやアクリルの自動ドアではなく、

頑丈で重そうではあったが

裏口や事務所にあるようなドアだった。

村立で、中学教師が研究員で、しかも一般非公開の天文台。

うん?

どうして僕は案内されたのだろうか。


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