005
境鳥村立中学および小学校
野咲ミク 中学担任
相原リョウコ 小学担任
霧山ユリ 中2
藤アラシ 中2
藤タイスケ 中2
星ホクト 中1
霧山アン 小6
藤サクラ 小5
星ミナミ 小4
天城マヤ 小2
射手ヒロ 小1
「都会だと美味しい物もたくさんあっていいですよ。的な話しは?」
「外食はあまりしませんでした。給食はこっちのが全然美味しいです。」
「特にパンが美味しい。ロールパンなのは驚いたけど。」
「ほほう判るかね。」
「休みの日は小遣い渡されてお昼を買いに行くことが多くて結構パン屋さんを巡りましたが」
「あのパンはそれなりの値段で売れます。」
「そりゃあそうだよ。売り物だし。」
「あ、いや給食パンとしては」
「温泉街にホテルあるだろ?シエルシャトー。」
「え?はい。霧山荘の上の。」
「あそこの朝食で出されるパンだ。で、それを焼いているのは」
「1年の、いや2年生になったのか。そこの娘の天城マヤ。」
月曜に登校すると、藤弟ダイスケがそろっとホクトに近寄り
「土曜にユリと何処行ったんだ?」
突然声をかけられビクっとなる。
「ヨリシロ?ってところの神社?です。部活の参考に山を見せたいからって。」
「そうか。」
それだけ言うと自分の席に戻った。
するとすぐに藤兄アラシもやっててきて、
少しニヤニヤしながらホクトの肩をポンポンと叩いて
何かを言う前に席に着いてしまった。
給食の時間に霧山ユリが小学生天城マヤに
「マヤ、ホクト君がお前のパンを褒めていたぞ。」
「都会のパン屋でも充分通用するってよ。」
ホクトにも聞こえるように言うと天城マヤは態々立ち上がり
「ありがとうございますっ」
照れながらもとても嬉しそうに頭を下げた。
ホクトは突然の事に驚き声も出せない。
「マヤ、ホクト君は都会でパンを食べ歩いていたそうだから新作の協力してもらったらどうだ。」
「はい。ぜひお願いします。」
天城マヤは「早速次の土曜日」と提案するのだが霧山ユリが答える。
「その日は部活があるから。」
放課後に家業の手伝いをするから部活はできない。
この言い分は判る。
では土曜、日曜はいいのか?
ホクトがそれを霧山ユリに尋ねると
「学校側がそうしろって言ったって。詳しい事はミクちゃんにでも聞いたら?」
言われるまま担任野咲ミクにそれを聞くと
「土日に仕事させたら本当に労働になるだろ。」
「言っている意味が」
「そもそも飲食店やら旅館は小中学生働いちゃ駄目だから」
「手伝い名目でタダ働きとか可哀想じゃん?」
「はあ。」
「せめて土日だけは部活を理由に解放してやろうと。」
「だから部活の活動報告だけはきちんと提出するように。」
店側としては土日のが忙しくなるだろうからとの配慮らしい。
感心するホクト
「先生の事を誤解していました。」
「どう誤解していたのか聞くのが怖い。」
「てっきり怠惰な」
「なんで言うの?怖いって言ったよね?なんなの?」
天城マヤとのパン作りはゴールデンウィーク中でと先延ばしになり
次の土曜は霧山ユリの宣言通り部活の予定らしい。
集合場所が学校だったものの、
「歩きやすい格好」「両手が開くリュック」「飲み物持参」との指示があり
また何処かに連れて行かれるのだろうなと覚悟していた金曜の放課後帰り際。
「今夜、そうね6時頃迎えに行くから家にいてね。」
「え?何?今日の?部活って合宿?」
「いいえ明日の部活とは別の件。今日のはとくに準備する必要はないから。」
帰宅して祖父母に話をすると
「今日は天気もいいから。」
なんの事だろう。
明日の支度をしているとすぐに午後6時30分を過ぎた。
車のクラクションが鳴っている。
それに合わせて祖母がホクを呼びに
「迎えが来たよ。行っておいで。」
店舗前の駐車場に車。
後部座席の窓が開き顔を出したのは霧山ユリ。
「行きましょう。ホクト君はそっちから乗って。」
何処かで見た車だと思ったのも当然で
運転席には担任野咲ミク。
「遅くなってすまんな。でもまあやっと暗くなってきたしちょうどよくね?」」
「まあそうですけど。」
「仕方ないじゃん。学校で片付けてたら」
「判っているから。私責めてませんよね。」
野咲ミクと霧山ユリの間では既に話しが通っているようだった。
出発すると温泉街の上にある学校からさらに山を登り、
それでもすぐにダムが見える。管理棟と資料館のある駐車場。
道はさらに続いているが
「関係者専用」と書かれたプレートの下がったパリケード。
「ホクト、ちょっとあれ避けてきてくれ。」
ホクトは言われるまま車を降りて端に寄せる。
野咲ミクが車を走らせ少し先で止まり
「バリケード元に戻して。」
何の関係者なのか判らないがそれに従い車に戻るホクト。
街灯の無い片側一車線ずつの曲がりくねった道をしばらく走り
山頂まで登るとそこには天頂部の一部がドーム型の建物と大きなパラボラアンテナ
「天文台?ですか?」
「よく判ったな。」
「あ、いえ、気象観測所かと思いました。」
「今天文台だって言ったじゃん。」
「そうだったらいいなと思っただけです。」
施設横の駐車場に止め、車を降りた野咲ミクが慌ててもう一度車に戻る。
助手席をガサガサと漁りネックストラップの付いたパスケースを2人に渡す。
「首からかけて見えるように。」
ホクトは正面の出入口に漠然とした違和感があった。
野咲ミクは自身の入館証をセンサーにあて
ドアのぶを回し少々重そうではあるが普通のドアを開ける。
「ミクちゃんはここの研究員でもあるから。」
ホクトの疑問を見抜いたかののように霧山ユリが話す。
「ミクちゃんが打ち合わせあるって聞いたから」
「そのついでにホクト君を案内しようと思ってね。」
中は研究室と言うより事務所のようで
事務机がいくつかと書棚とホワイトボード。
机の上には書類とファイルが乱雑に置かれ
お世辞にも整然としているとは言い難い惨状。




