022
境鳥村立中学および小学校
野咲ミク 中学担任
相原リョウコ 小学担任
霧山ユリ 中2
藤アラシ 中2
藤タイスケ 中2
星ホクト 中1
霧山アン 小6
藤サクラ 小5
星ミナミ 小4
天城マヤ 小2
射手ヒロ 小1
6月に入ってすぐ中学担任野咲ミクが告げる。
「来週から2年生には職場体験に行ってもらいます。」
霧山ユリが代表して手を挙げて発言。
「純真無垢な子供達に大人のドス黒い世界を見せる行事ですね!?」
「その通りだ。」
野咲ミクは一度深呼吸してから
「普段とは違う業種を選択する事。」
「候補はいくつか用意した。期間は3日間。」
詳細と候補地の記されたプリントを受け取る3人の2年生
霧山ユリは「頼代市・神社」の名を見て
「ミクちゃん先生。この神社って丘の上の?」
「そうだよ。」
「何するの?巫女さん?」
「多分そう。」
「やります。やらせていただきます。」
藤アラシは「霧山荘」を希望し
藤ダイスケば「ホテル大太楼」を希望した。
「却下だ。」
「俺たちが入れ替わってバイトするとでも?」
「いや、楽したいだけでバイトするつもりとは考えなかった。」
呆れる野咲ミク。
「そもそも候補リストにない。」
「だって蟹工船もマグロ遠洋もないから。」
「3日で帰ってこられないからリストにはありません。」
職場体験当日、中学1年生星ホクトはまたも小学生達と机を並べる。
「今日から3日間、お前にはこのドリルをやってもらう。」
机の上にドサリと積まれたのは
小学1年から4年までの各教科の問題集。
国語、算数、理科、社会合わせて16冊。
付随して各学年各教科の参考書10冊。
「こんなに?」
「心配するな。足りなければまだある。」
担任は一体何を言っている?
妹星ミナミもその量に驚きはしたものの
それが兄ホクトの事故以前の学年だと気付いた。
朝のHRを終えて職員室に戻る野咲ミクの後を追い
「ミクちゃん先生。」
野咲ミクは星ミナミが自分を呼び止めた理由を察している。
そう答えようとしたのだがミナミの問いかけは少し予想外だった。
「先生はどこまで事情を知っていますか?」
野咲ミクは職員室で相原リョウコにミナミの台詞をそのまま伝える。
「で?何て答えたの?」
「事情?事故で小5だか小6以前の記憶が曖昧だって事くらいしか知らんよ。」
「納得した?」
「そうですか。とは言っていたがどうかな。」
「ところでホクト君には3日であれ全部させるつもりなの?」
「まさか。夏休みの課題にでもするよ。」
学校では黙々と取り組み、とくに質問されるような事もなく
夏休み中には終わるな。もう少し増やそうか。
などと考えていると
2年生の職場体験が終わり、つまり4日目の朝
ホクトは全ての問題集を提出した。
「いや、夏休み中に終わらせればいいよ。」
とりあえず出来たところまで、的な意味で提出したのだろう。
「終わりました。」
「は?」
「全部埋めました。参考書見ながらなので遅くなっ」
「いやいや、いやいやいや。」
提出されたドリルをパラパラとめくりながら
解答欄が全て埋まっているのを確認しホクトを見ると
明らかに瞼を重そうにしていた。
野咲ミクは2年生達に
「しばらく自習にする。職場体験の報告と感想を書いておくように。」
「ホクト。お前は私と来い。」
野咲ミクはホクトの手を取り車に乗せ
居候先である饅頭屋「湯の星」に連れて行く。
到着してすぐ玄関先で
「二人を、タツゴロウさんとノリコさんを呼んで一緒にきてくれ。」
ホクトは「上がって中で」と言いかけたが
野咲ミクはそれを制し「ここで待つから」と立っていた。
登校してまだ間もなく戻った孫に
「先生が二人を呼んでくれって。」
などと言われたら「孫が何かやらかした」と思うのは当然で
玄関で神妙な顔をして立っている教師に何事かと尋ねようとすると
「本当に申し訳ありませんっ」
いきなり深々と頭を下げそれなりに大きな声で謝罪をしてきたので
祖父母はさらに混乱してしまった。
事情を説明した野咲ミクに
居間でお茶を啜りながら
「まああの三人を受け持っていたらねぇ。」
ホクトの祖母星ノリコが笑い、祖父である星タツゴロウもそれを聞いて笑うので
「不憫だ」とホクトは心の中で呟いた。
野咲ミク自身が「まさか本当に」だとか「冗談のつもりで」だとかは一切口にせず
ただ「不適切な指導をしてしまった」と謝罪したので
二人も笑って済ませるのだろうと思い
「僕がいつまでってちゃんと聞かなかったから」と言うと
野咲ミクは正座したまま改めてホクトに向き直り
「本当にごめん。今度から気を付ける。」
「今日は休め。出席扱いの自宅学習って事にするから少し寝なさい。」
ホクトは判りましたと自室へと。
居間の襖が閉じられ、ホクトの足音が聞こえなくなるのを待って
野咲ミクがもう一度口を開く。
「お二人はテストの結果をご覧になりましたか?」
祖父母は顔を見合わせてから頷く。
「どう、思います?」
まだ何か話しているのかな。
車の音が聞こえてこないな。
ホクトは制服のまま布団の上に倒れそのまま眠った。




