021
境鳥村立中学および小学校
野咲ミク 中学担任
相原リョウコ 小学担任
霧山ユリ 中2
藤アラシ 中2
藤タイスケ 中2
星ホクト 中1
霧山アン 小6
藤サクラ 小5
星ミナミ 小4
天城マヤ 小2
射手ヒロ 小1
倉庫に戻る途中、ホクトの姿がないと気付いた霧山ユリは
片付けを手伝う彼の元へ。
「二度寝しないの?」
「もう眠くないかな。」
霧山ユリは渋い顔をしている野咲ミクではなく小学生担任相原リョウコに
「朝食まで散歩してきていいですか?」
「何処行くの?」
「昨日の広場かな。」
相原リョウコは空を見上げ
「まあ明るくなってきたし、くれぐれも気を付けてね。」
「行くぞホクト。」
返事をする前に手を取られた。
薄明りの中、手探りで昨日通った岩場を歩き
円形に開けた場所へ出る。
「ここって、自然にこんな形になったんじゃないよね。」
ホクトも感じていた違和感。
風化で崩れたのではない。
意図したのかは判らないが
何かによって抉られたような場所。
「ぐるっと回っていいたらね」
「ちょっと面白い、面白そうな物を見付けたの。」
霧山ユリは正面の崖ではなく
左手に回って同じように立ち並ぶ岩壁の「窪み」を指差す。
「ここ。」
「あ。」
覗き込んだホクトが声を上げたのは、
その岩に薄っすらと積もる砂が
靴底の模様に見えたからだ。
霧山ユリは手を付き、その岩に飛び乗る。
「行きましょう。」
ホクトは黙って頷いてそのあとに続いた。
そしてそれはすぐに見付かった。
「何もないわね」
上がって、すぐに下って、周囲が同じ景色になる。
「この先も崖になっているかも。と考えながらなので慎重に歩きましょう。」
ユリの言葉に足元を見て、
帰り道が判らなくならないように振り返ったホクトは目にした。
「待って。これって。」
足場にした岩肌に削り跡。
「文字?絵?」
ユリは砂を払うように何度か軽く手で撫でる。
「スマホある?写真撮って。私も撮っておくから。」
「ガラケーですけど撮れます。」
「まじガラケー?ちょっと見せて触らせて。」
ホクトから受け取ると
「すげーパカパカ携帯っ。なんで?なんでカララケー?」
「じ、祖父のです。」
「これで撮っていい?私に撮らせて。」
縦に横にと何度か繰り返し
「ここまでにしましょう。まさか本当に何かあるとは思わなかった。」
ホクトはじっと壁を見て
「前にどこかで見たような?」
「ディスカバリーチャンネルでも見たんんじゃない?」
「まあ誰かの悪戯でしょうけど。」
悪戯?誰が誰に?
戻ったユリは「いい景色だった」的な事を言うだけで
壁の「絵」については誰にも何も言わなかった。
口止めされたわけでもないがホクトもそうした。
仮に悪戯だとしたら仕掛けたのは教師のどちらかで
僕達が騒ぐのを心待ちにしているだろうから。
朝食の片付けを終え、帰り支度の中
「お肉もたくさん食べてリフレッシュもできただろう。」
「これで中間テストもバッチリだな。」
野咲ミクの笑顔に中学生達の手が止まる。
翌日から放課後の奉仕活動と称したアルバイトは全面禁止となり
中学生4人は中間テストの対策に追われる。
それなりに必死になるのはテストの結果によって
放課後の行動か「アルバイト」か「補習」が決まるからだ。
頭を抱えながらもテストの全日程が終わり
ぐったりする生徒達を思い出しニヤニヤしながら採点を開始する担任。
確認するからと言いつつ興味本位で小学生担任相原リョウコが採点済テストを奪う。
野咲ミクが意図してそうしたのか
最後は一年生星ホクトの答案用紙。
相原リョウコは何度か答案を見直して
「優秀ってほどでもなくない?」
国語62点。数学98点。社会42点。理科58点。英語88点。
「数学と英語はいいけど。」
他3名のテスト結果と比較しても同様。
「比較的簡単な問題ばかり間違って。」
「慌てるような問題でもないし。」
言いながら相原リョウコはもう一度英語のテストを眺める。
「単語も出来ているから暗記が苦手ってわけでもなさそうね。」
次に数学の答案を見ながら
「数学は簡単な問題も解いてる。」
「傾向、と言うより教科の好き嫌いとか?」
首を傾げる相原リョウコに
野咲ミクはホクトの答案を指差しながら
「間違えたのは某大学の入試問題。」
「勿論採点対象にするつもりは無かったよ。」
「減点は負数の解もあるって事を気付かなかっただけなんだけど」
「見るとホクトは公式とか使って解いてない。」
「多分だけど、三角形の面積の公式とか内角の和も覚えていない。」
担任野咲ミクは大きく深呼吸して
「半分近くは小学生の問題にした。」
相原リョウコが口を挟まないので続ける。
「数学以外のテスト、ホクトが間違えたのは」
「『アレ』以前に習っているはずの箇所なんだ。」
幸か不幸か全員補習参加は免れた。




