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境鳥村立中学および小学校
野咲ミク 中学担任
相原リョウコ 小学担任
霧山ユリ 中2
藤アラシ 中2
藤タイスケ 中2
星ホクト 中1
霧山アン 小6
藤サクラ 小5
星ミナミ 小4
天城マヤ 小2
射手ヒロ 小1
宿泊場所の倉庫から無理やり追い出される子供達。
「虐待だ」「パワハラだ」と騒ぐ5月の山の上。
ミナミは腕をさすりながら「さむっ」と呟く。
「ミナミ。」
呼ばれて振り向くとホクトが服を抱え持って差し出している。
「なに。」
「おばあちゃんに持たされた。」
見るとホクトは「湯の星」スタッフジャージを羽織っている。
「私もそれ着るの?」
「いやおばあちゃんが山登るのに着ていたやつだって。」
受け取るとアウトドア用のウインドブレイカー
「スタッフジャンパーのがよければ」
「これで、これがいい。」
サイズはかなり大きいがまあ仕方ない。
「ばあちゃん山登りするんだ。」
「おじいさんが膝を悪くして行かなくなったって。」
「ふーん。」
そんな話してるんだ。
羽織ると先に行った霧山アンの元へと走る。
「大きくね?」
「ばあちゃんのだから。」
「ノリコさん山ガールかよ。」
「ガール?」
「山おばあ?」
「それもう違う生き物じゃね?」
昨夜の望遠鏡には専用のケースが被せれ
「すぐ明るくなるからね。」
藤アキと相原リョウコがセッティング。
少し遅れて現れた野咲ミクは眠そうに
東の空を指差す。
「明るい星があるな。判る人。ホクトは黙ってろ。」
「あれは、ルシファー。」
何故か驚いたように大きな独り言の霧山ユリ。
ああこれがなければ完璧な姉なのに。
嘆き俯く妹栗山アンに対し藤サクラは
「誰かの姉が何か言っているけどいいの?」
「正解。明けの明星金星です。」
星ミナミは藤サクラが霧山ユリに首を絞められるのを眺めながら
「金星ってヴィーナスじゃないの?」
「愛の天罰落とさせていただきます。」
星ミナミの疑問に藤サクラが何やらポーズを決めて答える。
「あっそれでルシファーは堕ちたのねっ。」
止まらない霧山ユリを野咲ミクは無視して
「ホクト、他には?」
「あれは土星?」
「なんてことっ。既に堕天してしまったのっ。」
止まらない霧山ユリ。
星ミナミは霧山アンにこっそりと
「なに?どゆこと?」
「土星ってサターンでしょ。」
「?サターンて確かローマ神話だかの神様じゃ?」
「そうだな。ギリシア神話のクロノスと同じ人だ。」
霧山ユリが素で答えるので
どこまでボケでどこまでが病なのか判らない。
野咲ミクはさらに無視して
「実はその間に冥王星もあるけど、判る?」
「まったく判りません。」
ホクトの返事に野咲ミクはひっそり一人胸を撫で下ろした。
望遠鏡のセッティングを終えると
土星と金星の観測が開始。
「環がなくね?」
「うっすら見える。」
「この時期はほぼ真横に見えるからな。」
「地球もそうだから太陽に対する自転軸が傾いている。」
ちなみに地球は23.4度。土星は26.7度。」
「そして金星にいたっては177.3度。」
「何それ。ほぼ逆さじやん。」
「そうだ。ホクト、これで何が判る?」
「えーと、地球と自転の向きが逆?」
「その通り。金星では西から日が昇り東に沈む。」
「これでいいのだ~。」
「なにそれ。」
土星をまじまじ観察していた藤ダイスケが挙手して
「先生。土星って火星と木星の次ですよね?」
「そうだな。水金地火木土天海。」
「アステロイドベルトってどこですか?」
「小惑星帯は火星と木星の間。」
「でも見えませんよ?」
「まあ見えないだろうな。」
「木星と火星の間ってとんでもなく広い」」
「それにイチバン大きなケレスでも直径1,000km」
「月でさえ3,700kmあるからな。」
「目を瞑ってアステロイドベルト横断しても衝突する確率は宝くじより低いんじゃないかな。」
「東京ドーム何個分?」
「何個分かは知らんが」
「例えば東京ドームの何処かにボールを置いて」
「お前は目隠ししてボールを投げて当たるくらい?」
「先生は俺のコントロールを知らないからな。」
4時を回る頃には空の色が変わり
「ここまでね」と観測会が終了する。
「眠い奴はもう一度寝ていいぞ。私はそうする。」
野咲ミクは大きなあくびをしながらとっとと引き上げようとしたので
藤アキがその腕を掴み
「片付け手伝いなさい。」
子供達は揃って倉庫に戻る。
ホクトだけは片付け作業の手伝いを申し出る。
「結露だけしないように乾燥剤とファンの付いたケースに入れて」
「倉庫に戻してメンテナンスは日中別の職員が行うからね。」




