012
境鳥村立中学および小学校
野咲ミク 中学担任
相原リョウコ 小学担任
霧山ユリ 中2
藤アラシ 中2
藤タイスケ 中2
星ホクト 中1
霧山アン 小6
藤サクラ 小5
星ミナミ 小4
天城マヤ 小2
射手ヒロ 小1
調理台に材料を置くなり
「ホクト、指揮を執れ。」
調理実習室を見渡すホクト。
オーブンはある。フライパンもある。
今から作業を始めれば給食の時間には間に合うだろう。
「では生地を作りましょう。」
ホクトは全員を見て
「マヤさん。サクラさんとヒロ君と一緒にお願いします。」
「はい。」
「お前はどうするんだ?」
野咲ミクの言葉にホクトは呆れるように
「お二人は僕と一緒に作ってもらいます。」
「は?私達も?」
「え?生徒達に作らせて食べるだけのつもりでした?」
「当たり前だ。」
「先生ビール買ってましたよね。同じ領収で。教育委員会とか」
「リョーコ聞いた?こいつ教師を脅迫しているぞ。」
「私は最初からパン作りするつもりだったけど?」
「砂糖とドライイーストを一緒。塩は反対側。」
「どうして?」
「砂糖がドライイーストの発酵にいいからみたい。」
天城マヤが丁寧にサクラとヒロに教えながら作る。
「水をドライイーストの方から入れて」
「ヘラでよく混ぜたらさあ手で捏ねましょう。」
きゃあきゃあ燥ぎながら作業する子供達に較べ
「ホクト。グルテンて何だか知っているか?」
「タンパク質?」
「ではその性質は?」
「粘り、ですかね。」
「うん。ではその粘度の強弱は何で変わる?」
「温度かな。」
「パン作りした事があるからそれくらいは判るか。」
野咲ミクとホクトの会話を聞きながら相原リョウコは
「調理実習というより理科の実験みたいね。」
「では理科の質問をしよう。」
「もう一つ粘度に重要な作用を及ぼす要因がある。判るか?」
「水分量?」
「正解だが満点ではない。」
ホクトはパンを捏ねる手を一瞬止める。
「硬度?ペーハー?」
「正解。酸性が強いと結合が阻害される。」
ひたすら捏ねてバターを加えてさらに捏ねる。
「なんかバラバラになった。」
「大丈夫。すぐまとまるから。」
手早く捏ね続けて
「あー疲れた。では発酵させよう。どれくらいかかる?」
野咲ミクはホクトを見て、ホクトはマヤを見る。
「一時間くらいかな。」
「では片付けの後10分休憩して発酵中は授業にします。」
子供達に道具の片付けをさせている中、
「ホクト君て頭イイ感じねー。」
相原リョウコはただの感想を述べたにすぎない。
しかしそれを聞いた野咲ミクは表情を強張らせた。
「優秀過ぎる。」
発酵中の授業ではパンについての講義となった。
「当初は発酵させずに焼いていた。」
「捏ねて放置していたパンが勝手に膨らんだ。」
「発酵が微生物の酵素による分解と判るまでは」
「化学反応、つまり酸化とかと同じだと考えられていた。」
「鉄が錆びるのは鉄に酸素かついた化学反応。」
「切ったリンゴの色が変わるのも実は化学反応だ。」
「あれはリンゴのポリフェノールが酸化した結果。」
「パンの発酵もそうだと思われていた。」
「いやまあ厳密には発酵も化学反応なんだけど」
「食品での発酵についてはそこに微生物が関わっているかどうか。かな。」
「で、菌の種類によって発酵も変わる。」
「酵母菌で糖からガスとアルコールを発生させるのがアルコール発酵。」
「代表的なのがビール。」
「パンが膨らむのもこのガスのおかげだ。」
「はいっ」と手を挙げる藤サクラ。
「パンにもアルコール入っているんですか?」
「その通り。それが香りになっていたりする。」
「食べすぎて酔ったりしない?」
「酔う前にはお腹いっぱいになるかな。」
「ただ食べてすぐはアルコールチェッカーには引っかかる場合もあるとか。」
「他に乳酸菌によって糖が分解され乳酸になるのが乳酸発酵。」
「チーズやヨーグルトだ。」
「酢酸菌による酢酸発酵では酢ができる。」
「納豆も納豆菌による発酵食品だ。」
野咲ミクはここで1年生の射手ヒロに質問する。
「ヒロ。お前の店にある発酵食品は何がある?」
射手ヒロは「うーん」と思い出しながら
「お味噌が発酵食品なのは知っています。」
「おう偉いな。他には何かあるか?」
「他、ほか、ホカ。」
「和食でよく使われる。」
「醤油?」
「正解。醤油はアルコール発酵、乳酸発酵、麹発酵が使われている。」
「食品以外にも発酵によって」
「燃料や薬品が作られたりもしています。」
「宿題、にはしないけどどんなものがあるのか調べてみなさい。」




