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境鳥村立中学および小学校
野咲ミク 中学担任
相原リョウコ 小学担任
霧山ユリ 中2
藤アラシ 中2
藤タイスケ 中2
星ホクト 中1
霧山アン 小6
藤サクラ 小5
星ミナミ 小4
天城マヤ 小2
射手ヒロ 小1
給食の時間になると
「いい機会だから」と藤サクラが天城マヤの手を引き
ホクトと向かい合わせるように机を並べる。
ものの、突然の事に戸惑って何も言えずにいる。
ホクトは「多分パンの事だろう」と察して
「今日もパン美味しいです。」
ぱっと顔を上げるマヤ。
「狙っているのか?天然か?」
「天然よ天然。」
何やら教師2人が盛り上がっているが無視して
「毎朝早起きするの大変じゃあないですか?」
マヤは照れながらも
「でも生地は寝る前に作って冷蔵庫で一次発酵させるので」
「そんなに早起きしなくても大丈夫なんです。」
「それに私が焼くのは学校に持ってくる分だけなので。」
8時半の登校に間に合わせるとなると
焼成に15分として、二次発酵に30分。
人数が少ないと言っても成形に1時間以上かかる。
1人2個のロールパンを人数分。
その前にガス拭きして休ませる必要もある。
自分の支度も考えると
ホクトがぶつぶつと呟きながら計算して
「遅くても5時には起き」
「いや、そのー。えーっと実はですね」
「ガス抜きとベンチタイムは父がしてくれているので。」
「私は人数分巻いて焼くだけで」
「なので6時起きで間に合うというか。」
「はいっ」
天城マヤの告白に突然藤サクラが挙手し、
「ホクトさんはどうしてそんなの判るの?」
「ホームベーカリーだけどパンを焼いた事があるから。」
ホクトが答えると語尾をかき消す勢いで
「パンも焼くの?もう嫁に来てよ。」
小学教師がまた何か言っているが無視した。
4月29日火曜日祝日
饅頭屋「湯の星」は朝(正確には前夜)から大忙しだった。
祖父が饅頭を焼き、ホクトが包み祖母が配達に行く。
霧山荘、ホテルシエルシャトー、
そして境鳥温泉組合長を務めるホテル大太楼。
さらに観光客を見込める時期にはテングランドにも卸している。
納品先と数量のリストを確認しながらホクトが尋ねる。
「大太楼には挨拶に行っていないけどいいの?」
祖父は一瞬手を止め
「まあそのうちな。」
何だか濁したうよな言い方が気になりはしたが
今それどころではない。
午後になると見かねたミナミが店番を買って出て、
祖母は心置きなく配達に専念できると喜んだ。
興味が無さそうだったのに商品は全て覚えていて
レジ打ちも完璧にこなしている。
店頭用の饅頭の梱包を済ませたホクトが商品を陳列しようとすると
「私がやるから。そこに置いておいて。」
怒られたと思ったホクトは「お願いします」と
目も合わせず厨房へと引っ込んだ。
作業を続ける祖父に
「レジ打ち教えたんだね。」
「昨日な。午前中は出掛けていたようだったが午後に手伝うと言い出して。」
最初から店を手伝うつもりで休んだのか。
「明日からは僕も休もうか?」
「明日は平日か?いやお前は学校へ行け。」
妹は学校に行かせなくていいのだろうか。
4月30日水曜日 5月1日木曜日
小学生達と同じ教室である事、小学生に合わせた授業時間である事以外は
これまでの水曜木曜と変わらない。
帰宅すると妹のミナミが店番をしていたので
ホクトも厨房に入ろうとしたが
「宿題は?無いなら復習と予習しておけ。それが終わったら」
「夕食の支度をしなさい。」
5月2日金曜日
教師がまた何やら言い出した。
「今日はパンを焼きます。」
「では早速買い物に行きましょう。」
学校の備品であるらしい10人乗りの車で
いざ隣町のスーパーへ。
「ホクト、簡単に作れる調理パンて何?」
「ソーセージパンとか。」
後ろの席のサクラが
「私マヨコーンパン食べたい。」
隣のヒロも「僕も」と同意。
「食べたいじゃなくて作りたいパンな。マヤは?」
「オニオンチーズブレッド作ってみたい。」
「簡単に作れるの?」
「材料と道具と時間さえあれば。」
「給食の時間までに作れればいいよ。」
ホクトは振り返りサクラに向かい
「家でも簡単につくれるマヨコーンパンにしますか?」
「何それそうしてください。」
想像以上に食い付いたので申し訳なくなって
「いやあの、食パンにバターとマヨ塗ってコーン乗せて焼くだけで。」




