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境鳥村立中学および小学校
野咲ミク 中学担任
相原リョウコ 小学担任
霧山ユリ 中2
藤アラシ 中2
藤タイスケ 中2
星ホクト 中1
霧山アン 小6
藤サクラ 小5
星ミナミ 小4
天城マヤ 小2
射手ヒロ 小1
小学担任相原リョウコはニコニコと
「判らないことがあったら何でも聞いてね。」
と言われたものの教科書も参考書もあっての問題集。
とりあえず「わかりました」とだけ答え問題集を開くが
「私の事はリョウコ先生って呼んでね。」
「はあ」
「歳は24。隣のミクちゃんより若いから大丈夫。」
なにが?
「他には?何か聞きたい事は?」
ホクトが何かを言う前に
「趣味は映画鑑賞。好きな映画は狼たちの午後。」
「アッティカ!アッティカ!」
何やら騒がしい相原リョウコに困って野咲ミクを見るが
「慣れろ。」
担任が役に立たない。
1時間目の国語では質問する事は無く
時折手元を覗いてニコニコしながら頷くだけだったが
2時間目の数学の問題集で初めての項目に戸惑うホクトに
的確で親切な指導をするので
「相原先生は小学校の教員ですよね。」
「リョウコ先生ね。小学生を担当ってだけよ。」
「専門は国語英語だけど中学教科は一通り大丈夫だから安心して。」
3時間目体育。ただでさえ少ない全校生徒の半数が休み教師含め6名。
今までの体育の時間は体力測定に費やされていた。
さて何をするのだろう。
「3時間目と4時間目は野菜を植えます。」
担任がまた何か言い出した。
「畑作りを体育とし、植え付けを理科とします。」
校舎の南面側の校庭の一部がブロックで囲われ、
中の土の色が他とは明らかに異なる。
「では早速授業だ。」
「問題。畑を耕す理由を述べよ。」
「皆で相談しながら考えてみよう。」
子供達が「考えたこともなかった」と顔を見合わせる。
藤サクラが手を挙げ
「土が固いと種とか苗が植えられないから?」
「ある意味ほぼ正解。」
「でもそれなら種や苗を植える場所だけ耕せばいいよな。」
「殆どの畑は畑全部を耕している。どうしてか。」
そもそも「耕す」ってなんだろう。
ホクトがしゃがみこんで土に触れる。
「土を柔らかくする事?」
「それが耕すって事だな。今は理科の授業中だと思いながら考えて。」
藤サクラはホクトの隣にしゃがみ同じように土に触れる。
「耕した畑の土は柔らかい。でも校庭の土は固い。」
射手ヒロがその隣で同じように土に触れ
「土が違うのかな。」
「今は同じ土だよ。少し掘ってみて。」
相原リョウコが園芸用の小型シャベルを射手ヒロに手渡す。
ヒロは言われたまますぐ脇の校庭の土を掘る。
校庭の白い砂の下から茶色い土が現れると野咲ミクが
「そこも耕された状態だな。」
「掘っただけじゃなくて?」
「今ヒロが掘って出した土は耕された状態。」
何が違う?どう違う?
ヒロは掘り起こした土を穴に戻し埋めて足で踏み固める。
サクラはそれを見て「あ」と声を出す。
「え?でもどうして?」
サクラは耕された畑の土を手にすくい眺める。
「どうしてって?」
ホクトが尋ねると
「掘り起こされた土が柔らかくなるのってどうしてかなって。」
子供達が顔を合わせ土が柔らかくなる原因を議論し、
「空気が混ざるから」と答えを出したものの
「どうして空気を混ぜる必要があるのか」については宿題になった。
ヒロとマヤが畑に肥料を巻いてホクトが備中鍬を使い混ぜ、
サクラがスコップを持って畝を作る。
休憩中に教師2人が野菜苗を持って戻り植え付け。
俄然張り切る2人の大人。
「ミニトマトはこっち。」
「茄子とピーマンはここね。」
「枝豆、これは枝豆。ああ早く収穫したい。ビール飲みたい。」
呆れる子供達。
「スイカもあるから。スイカもあるからっ。」
「何を必死に。」
「じゃあホクト。この時期は他に何がある?」
「(じゃあ?)キュウリ、オクラ、とうがらし、しそ、それから」
「待て、聞いておいて何だが何でそんなに知っている。」
「夏野菜を言っているだけです。」
「どうして夏野菜が言える。」
「夏に安くなるから?」
野咲ミクとの会話に相原リョウコも食い付く。
「安くなるのを知っているのは買い物するから?」
「そうですね。」
「もしかして料理もしている?」
「まあはい。」
「ちょっと何それ。今度料理作って。食べさせて。」
詰め寄る教師に困って担任を見ると
「慣れろ。」
担任が役に立たない。




