夜鵺
北ヨーロッパは、妖精の国だ。
「ごめん!今日は一人で回って!」
と、僕の友達兼案内者は僕を知らない国の街に放置して行ってしまった。
僕は言葉がわかるが、それは「こんにちは」「ありがとう」のような簡単の会話ぐらいだ。
だから、友達は僕を放置しているのは、とても大事なことがあるだろう。
「しかしこれはまずいな…」と、僕は友達の家に帰ろうとした。
中世紀の街並み、石の石板路、寒い風…心が広がるぐらい広い大地に、小さな人々はこうやって集まって、先人も後世も抱き合いながら街を作った。
僕はこのような街が大好きだ。
しかし…
「なんでこんなに複雑なのだろう…」
はい、僕は綺麗に異国の街で迷った。
方向音痴かつ地図無理の僕は、まさにピンチという状態を表しているのだ。
その時だ。
電波が届かない携帯から目を逸らすと、少し前に一匹の鴉がいた。
みたことないぐらいその真っ黒の羽は、あまりにも綺麗すぎて、僕は思わず足を運んだ。
何歩前に進むと、違和感を感じた。
さらに何歩前に進むと、鴉の姿が一気に大きくなった。
「あれ…」と、何故か僕はあしを止めなかった。
もう少しで届きそうな距離まで行くと、ふっと黒い足が鴉の後ろにあった。
視線と共に、鴉は男の肩に止まるように動いた。
黒いコートに黒い帽子で顔が見えないの男であった。
僕は何故かその人を恐れていた。
低い日差しが左から刺してきて、僕だけを照らしていた。
そして僕とその男の間は、影で線ができた。
「あぁ…」と、鴉の方が口を開けた。
「Halló…」鴉の音と全く違う声で、まるで爪が黒板を掠っているような声だ。
僕は不快を感じて、耳を塞いでいた。
「Ég…Ég tala…ekki…íslens…sku…!」未熟なアイスランド語で、僕は叫んだ。これだけ言いにくいとは思いもしなかった。
男は何かを考えているようだ。
しかし、僕はその場を逃げることすら出来ないままであった。
何分経ったんだろう…死ぬのかな…この男はなんだろう…
そういえば、友達から、夜鴉と呼ばれる妖精の話を聞いた…
鴉より大きい、欲張りな男の姿だと…
「欲張りに…2メートルぐらいの男とは聞いてないけど…」
体感で30分が経ったら、男はどうやら僕を放置しようとした。彼は僕を目にしたまま後ろに下がっていった。
「お前も怖がってんじゃないよ…」と、彼の姿が消えた後、僕のツッコミをため息のように吐かれた。
時計を見たら、先の出来事は10分ぐらいだった。
友達も少し前の角から出てきて、「探したよ」と手を振っていた。
友達にこの話をしていると、友達からご飯奢ってくれた。
「ほんとに運がいいなお前…」と、友達からのコメントだった。
「そういえば…」あの男が消える前に、鴉の羽が落ちていた。
その羽はとても美しく、この世のものとは思えないようなものだったから、僕はこっそり拾っていた。
「はぁ?!」
「ほんと。探すよ。
うん…ポケットに入れてたはずなのになぁ…」
「いい…そんな物騒なもん見せなくていい…まだ生きたいからさ…」
「いやでも…ほんとに綺麗な羽を持っているなぁ…その羽を見ると欲し…」
「あ!だっ!はい終わり!さっさと食え!」
友達が僕の話を断ち、ホットドッグのおいしさや漫画の話を始めた。
そのまま僕らは鴉と黒い男の話をしたことはなかった。
しかし、あの男が消える時の姿は、何故かすごく臆病で、僕と似ている人だと思った。その姿を思い出すと、何故か切なくて、少し悲しくなった。
いや…!
Ég tala ekki íslensku!
僕はアイスランド語が話せません!