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夢想少女  作者: *amin*
6/20

6 誰が悪いかわからない

何だかとんでもない事に巻き込まれたみたいだ。

雅氏は俺の肩をポンポンと慰めるように叩いてる。

クラスの奴らは俺の事を信じてくれてるみたいだけど、石原の周りからしたら俺は倉田さんを盗った奴だと認識されてしまったらしい。



6 誰が悪いかわからない



「マジでただの友達なのにー俺振られたのにー」


机にそう突っ伏して豪語すれば、皆分かってるよと言う視線を向けて来る。

どれだけ石原の友達に陰口を叩かれたか。完全に俺は悪者扱いじゃないか。倉田さんと友達でいることすらいけないって言うのか?

流石に頭にきて睨みつければ睨み返される。これじゃ堂々巡りだ。

今更ながらに倉田さんがどれだけ学校で影響力のある子かを認識させられた。学年のマドンナに一般人は近づく事も出来ない。そう言いたいのかよ。


「倉田さんってマジですごい奴なんだなーマジでどこのアイドルだよ」


雅氏の言うとおりだ。

どんだけ倉田さんの扱いはすごいんだ。

一緒にいるだけで付き合ってるって噂が立って、考えさせてくれって言われたら噂が立って、友達だったら盗ったなんて噂を立てられて……倉田さんにプライベートはないのかよ。

こんな生活が続けば、倉田さんもしんどいと思うようになるんだろうな。

ぼんやり雅氏の話を聞きながら帰る用意をする。

後は担任のHRが終われば学校も終わりだ。ラーメン屋に行かなきゃな。

今日は金曜だから客の入りも多いだろうし、忙しそうだ。

いそいそと帰る準備をしていると担任が教室に入ってきて、HRが始まった。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――

HRが終わってバイトに行く為にチャリ置き場に向かう。

その間に石原のクラスを通らなきゃいけなくて、皆からの視線が痛い。

石原は5組の中心人物だ。そんな奴に喧嘩をうった男になってしまっている。


「気にするこたねーよ。大体高校生にもなってガキかよ」


同じチャリ通の奴がこっちに視線を向けている奴らに舌打ちをする。その瞬間に火花が散った気がする。

もうクラス同士の抗争みたいになってんじゃん。やめてそういうの。

俺は5組を睨んでる奴の腕を引っ張って、チャリ置き場に向かった。

そのままそいつと手を振って別れて、チャリに跨ってペダルを踏む。暑いなぁ……7月でこの暑さだから8月が思いやられる。

ラーメン屋の厨房はもっと暑い。今日も汗だくだなこりゃ。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「はーい!チャーシュー1丁!」


先輩にお盆を渡されて、それを客の所まで持って行く。

そんで客のオーダーを聞いて、席を案内して、水を出して、皿洗いをして……目が回りそうだ。

俺のバイト時間もあと1時間で終わり。さっさと時間が過ぎてくんないかな?

まぁ暇よりも忙しい方がいいんだけどね。

ラーメン屋のドアが開いて、また新しい客が入ってきたので、俺はそっちに向かった。


「ただいま帰りましたーっと」


バイトも終わり、21時に家に帰りつく。

そのまま1人ごち、俺はリビングに向かっていく。

リビングには親父が帰っていて、新聞を読んでた。


「おぉ春哉お帰り。飯は作ってるぞ」

「あ、ただいま。さんきゅー。親父、おふくろは?」

「自分の部屋にいるよ。のんびりしてるさ」


手を洗って、まだ温かい皿に手をつける。

そのまま黙々と飯を食っていけば、親父が新聞を読むのを止めてこっちを見ていた。


「何だよ」

「いや、何だかお前がしっかりしていってるなと思ってな」


そのまま親父は子どもにやる様に俺の頭をグシャグシャ撫でる。


「ちょ、止めろって!飯食えねぇだろ!」

「春哉、今日は俺と風呂入るか?」

「嫌に決まってんだろ!親父と入ったら狭いっつーの!」


親父は笑いながら暫く俺の頭を撫でまわした。

何だかこんな事自体久しぶりで、何て反応したらいいかわからなかったけど、でも少しだけ嬉しかった。

こんなことされる事なんてもう無かったから。

気恥しかったり嬉しかったりで良くわからない。でも嫌ではない、それだけは分かった。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――

学校はやっぱり昨日と同じ。

5組の奴は俺を見るたびにヒソヒソ話。もう本当にうざい。

完全な勘違いじゃないか。なんで俺がこんな噂の的にならなきゃいけないんだ!

昼休みも購買に行けば5組の奴らの視線は俺に向く。お前ら俺見る暇があるんならパンの1つでも買いやがれ。

心の中でそう呟いていると不意に肩に誰かがぶつかった。


「うおっ」

「あ、わりぃ!大丈夫か?」


大丈夫。そう言いかけた時、俺は目を丸くした。

それは向こうも同じだったようで、向こうも俺だと気づいて少し気まずそうに視線をずらした。

それもそうだろう。ぶつかった相手は石原だったから。

石原は視線を逸らしながらもう一度ごめんと謝って輪の中に入っていった。

こんな事ってあるんだな。マジでどんなタイミングだよ……

呆気にとられている間に欲しかったパンは売り切れてしまい、仕方がないから余ったパンを買って教室に戻った。


その後はまた同じ。雅氏と弁当食ってクラスの奴らと騒いで、同じだったんだ。

でも便所に行っている途中で女子の会話が耳に入った。


「倉田ってさー石原君にまだ返事してないんだって」

「えーもう2週間くらい待たせてない?石原君可哀そう」

「大体調子乗りすぎだよね倉田。マジむかつくんだけど」


倉田さん、まだ返事してないのか。2週間近くも待ったら俺だったら発狂しそうだ。

でもそれは仕方がないように思える。

倉田さんにとって付き合うって行為はとても怖いものだから。

この間の話を聞いて、倉田さんがただ闇雲に返事をしないんじゃないって事は分かった。

ただ怖いんだ。嫌われる事が、自分を偽る事が。それだけなのに……何も分からない奴らは好き勝手に自分の考えを現実のものの様に語る。


それが少しもどかしくて腹が立つ。

本当の事を知ればこういう奴らはそれはそれで面白がって話題にする。

何も語らなければ、勝手な想像をされてその考えが公式なものにされる。

何をしたって変わらないじゃないか……


「一之瀬、何トイレの前で固まってんの?」

「おわ!倉田さん!」


いきなり倉田さんの顔がアップになって思わずのけぞってしまった。

そんな俺を見て、倉田さんはカラカラ笑ってる。


「トイレ行かないの?そんなとこで固まってて変態くさい」

「へ、変態!?」


俺そんな風に見えてた訳!?超ショックなんだけど!

まぁ確かに便所の前でずっと立ち止まってる男子がいたら俺でも何してんだ?って思ってしまうよな。あー恥ずかしいな。

気恥しさに頭を掻けば、倉田さんはまた笑ってる。

そのまま倉田さんと軽く話していれば、ふと視線を感じた。

俺の視線の先には石原の姿。石原は俺を見た後すぐに顔を逸らして教室に入っていってしまった。

石原が気になって、その後の俺は倉田さんとの話に集中できなかった。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「あー今日もバイトだ」


人のいない教室で独りごちる。

運が悪い事に担任と進路の事で呼び出されて時間を食ってしまった。

理由は簡単。学校は俺がバイトをしてるのを知ってる。家庭の事情と言う事で許可を貰ったから。

だから進学するのか就職するのか早く決めろと言うことだった。就職組は早めに就職することを決めないと、就職先をもうすぐ色々探し出すんだそうだ。

その話が長引いて、気づけばもう30分でバイトに着かないとやばい。

急いで荷物を詰めて、俺は教室の電気を消して教室を出た。


廊下を走っていると5組の教室からサッカーのユニホームを着た男子が出てきた。

それは紛れもなく石原で、俺は気まずさから思わず立ち止まってしまった。

立ち止まったせいで石原も俺に気づき顔を上げる。

そのまま気まずい空気が流れ、俺は咄嗟に走りだそうと顔を背けた時、石原がこっちに向かって歩いてきた。


「なぁ、お前さ一之瀬だろ?倉田さんと付き合ってるってマジ?」

「え、何でそんな……そんなのデマに決まってんじゃん」


急に話しかけられ焦った俺を余所に石原は顔を顰める。


「その噂はデマかもしんねぇけど、お前好きなんだろ」

「好き?」


その言葉で頭が真っ白になっり、体が硬直した。

精いっぱい隠してた行動でも石原から見たら丸わかりだったようだ。

石原は悔しそうな、怒ったような目で俺を睨みつけている。

そりゃそうだろうな。石原からしたら自分が告白して返事を待ってる間に違う男が好きな子にちょっかいをかけてると言った感じだろう。

二人の邪魔したらいけない。それに俺はもう振られてるんだし。

そう思って、慌てて首を横に振った俺に石原は更に苛ついたような表情を浮かべた。


「嘘つくなよ。だって倉田さんがあんなに話しかけるのお前しかいねぇもん。別にいいんだぜ隠さなくても。どうせ俺は振られるんだし」

「そんな訳じゃ……俺はただの友達で……」

「だってお前告ったんだろ?倉田さんに」


こんなとこで墓穴を掘るなんて思わなかった。ってか何で石原が知ってるんだ?

色々気になる事が多すぎて何を真っ先に考えていいかが分からない。

そのまま黙っている俺に石原は声を荒げた。


「認めろよ!好きなんだろ!だから邪魔すんだろ!?」

「別に邪魔なんかしてねぇしっ……」

「邪魔だよ!お前は邪魔だ!マジでムカつくよ!」


石原の言葉に軽く放心してしまった。

そのまま石原は踵を返して、俺に背中を向けて走っていってしまった。

あーぁ邪魔かぁ……何となくわかってたんだけどね。

俺と倉田さんが話してるのを石原がどんな表情で見てたかなんてわかってた。焦った様な、悔しそうな表情で見てたはずだ。

それに何となく気付いてて倉田さんに何も言わなかった俺はどうなんだろう。それが悪い事なんだろうか?


何も分からない。


倉田さんの友達と言うポジションを確保し続ける俺が悪いんだろうか?それとも未だにはっきり意思を示さない倉田さんが悪いんだろうか?それとも八つ当たりをしてきた石原が悪いんだろうか?

誰が悪いかなんてわからない。

俺はただ倉田さんの友達だし、倉田さんはまだ考えてる途中だし、石原は今の状況を焦ってる。

それぞれ考えがあるんだ。それがぐちゃぐちゃになってしまっただけなんだ。

深呼吸して、バイトに向かう為にチャリ置き場まで向かう。

学校が嫌になりそうだ。だれかこの泥沼から救ってくれ。

俺はとんでもない子に惚れてしまったようだ。



君に焦がれる火曜日、

 恋と言うのは人格を変えてしまうようだ。



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