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夢想少女  作者: *amin*
4/20

4 探りごっこ

諦めてた熱が再び暖かくなる。

それと同時に倉田さんとどう話せばいいか分からなくなった。



4 探りこっこ



どうしよう。あんだけ即答で振られて、まだ好きですとかバレたら気味悪がられるかな。

倉田さんはそんなつもりじゃなかったはずだ。

同じような境遇でお互い慰め合おうってだけだったんだから。

それなのに調子に乗って嫌われたら今度こそ俺がうつ病になってしまうかもしれない。


もんもん考えながら授業を受ける。

でも話しなんて全く聞いてない。その証拠に教科書は最初に開いたページで止まってる。

後ろからはクラスメートがページ違うぞと言って背中をシャーペンでつついてるけど、それに返事をしただけで手は動かない。

黒板では先生がすらすらとチョークで公式を書いている。これが終わったら昼休みか。早く来ないかな……


7月に突入した教室は暑い。

まだクーラーはつけないらしい、蒸し暑いこの教室で熱心に授業を受けてる奴はどのくらいいるんだろう?

考え事をして頭を使ってるのに、こんなに暑かったら解決策も浮かばない。

俺はちゃんと相談係として勤めを果たせるのか。

倉田さんを満足させられてるんだろうか?倉田さんは俺といて気が楽だと感じてくれてるんだろうか。


気づいたら授業は終了5分前になっていた。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「倉田さん、また告白されたんだってさ」


昼飯を食ってたら、何かを思い出したかのように雅氏が話題を振ってきた。

そっか、また告白されたのかぁ。倉田さんって本当にもてるんだな。

心臓はドキドキ言ってるけど、頑張って表に出さないように「誰から?」と聞くと、その情報も雅氏には回ってたようだ。


「石原だって」


石原って確かサッカー部の奴だよな?中々の好青年で顔もいいって噂の……同じクラスになってないからよく知らないが、悪い噂は全く聞いた事がない。

スポーツも出来て、見た目がいいからもてる。それだけしかわからない。

そっか。石原から……倉田さんと並べばかなりお似合いのカップルだろうなぁ。

でも倉田さんどうせ断ってんだろうけどなぁ。

しかし雅氏の言った言葉は予想外の物だった。


「倉田さん、今回は即答で切らなくて考えさせてくれって言ったらしいぜ。もしかしたらあるのかもな」

「は……」

「まぁ石原はイケメンだし、しょうがないか。倉田さんも結局は顔か」


雅氏の言葉はそれ以上聞こえなかった。

倉田さんが考えさせてくれ?それってかなりの事じゃないか?

俺の時なんて3秒くらいですぐに返事をしてきたのに、考えさせてくれって……

意外な展開になぜか石原の友達が言いふらしてるらしい。だから噂が広がってるんだそうだ。


倉田さんに彼氏ができる……じゃあもう俺は用済みなのか?

倉田さんと病院であって、何だかんだでもう3週間が経過した。

もうすぐ期末があって、夏休みがあって……少しだけ夏休みでも会えるかな?とか期待してたけど、そんな事はなさそうだ。

何だか気分が一気に下がって、飯を食う気も無くなってくる。

大体食べ終わってて良かった。俺はそのまま弁当箱を閉まった。


それからはまたいつもの日常。

授業を聞いて、だけどまたずっと考え事。今度は倉田さんと石原の事。

そればっかり考えてたら当たってしまい、少し恥を掻いた。

まったく話しなんて聞いてなかったから答えれなかった。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「また明日な」

「じゃーな」


学校帰り、雅氏と別れてお袋が通ってる精神科に向かう。今日は夕方に受診に行ってるから、俺がお迎えって訳だ。

お袋はもう病院が終わって、病院の前で俺を待っていた。

俺が声をかけると、こっちに向かって歩いて来る。


「ごめん、遅くなった」

「大丈夫、さっき終わったばかりだから」


そのまま、お袋のカバンを持って一緒に帰る。少しだけ他愛ない話をして。

医者に何か言われたかと聞けば、お袋はいつもの通りと答える。

でもその表情は少しすっきりしていた。


「春哉、今日はペペロンチーノを食べたいわ」

「あーそっか。作り方調べてみるよ」

「私が分かるから大丈夫。だから一緒にスーパーによって帰ろう」


ビックリした。お袋から何かをしようと言ってきた事に。

いつもボーっとしてたのに……少しずつ良くなっていってるんだろうか?

俺が頷くと、お袋は少しだけ笑みを浮かべた。


スーパーでキノコとかソーセージとか、パスタの麺を買って帰る。

お袋のカバンと俺のカバン、更に買い物袋、少し重いけど何とか耐えて持って帰る。

お袋は自分のカバンを俺から取り上げて肩にかけた。


「俺持つよ」

「そんなに持ってるのに何言ってるの?これくらい大丈夫よ」


お袋は俺に鞄を渡そうとしない。

そのままさっさと歩いて行くお袋の後を俺はついて行った。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「今日ね、同じ病気にかかってた人とお話ししたの」


親父の帰りが遅いから、俺とお袋は先に飯を食って片づけてた。

お袋も一緒に頑張って作って、久しぶりに笑いながらできた気がする。

それを食って、片付けをしているとお袋が今日病院であった出来事を話してきた。


「母さん、自分自身が嫌いだった。春哉とパパに無理をさせて、自分は何もできないって思ってた。でもその人とお話しして心がすごく軽くなった」

「そっか」

「無理せずに頑張ろうと思うの。ちょっとずつ、ちょっとずつやって行こうって」


お袋の言葉が嬉しかった。

色々大変だったんだ。家事の大変さもパートの大変さも、しなきゃいけないって責任感から重くなったって語ってる。

でも申し訳なく思って頑張るんなら止めてほしい。

俺が可哀そうとか、親父に無理させてる。その罪悪感からなら無理しなくていい。

でもお袋は笑った。それは最近ずっと見る事のない物だった。


「だから春哉、母さんとこうやってお話ししながら一緒にご飯作ってくれないかな」

「……そんなの当たり前じゃん」


何だか最近涙もろい。

でも泣いたらお袋に心配かけそうだったから、俺は顔を俯かせて顔を隠した。

そんな俺をお袋はちゃんと見抜いてて、肩に頭を乗せた。


久しぶりに昔の日常が少し戻った気がした。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「昨日、おばさんと歩いてたじゃん。見たよ」


次の日、たまたま登校中に倉田さんに話しかけられて、一緒に登校する。

同じ制服の生徒が俺達に視線を向けてるのが分かる。

そりゃ倉田さんはマドンナだから、それと噂のせいだろう。

倉田さんが保留。今までなかった出来事に誰もが石原と付き合うんだと思ってる。

そんな倉田さんが俺なんかと一緒に登校してるのが不思議でならないんだろう。


他愛ない会話をしながら学校に向かう。もう少し学校までの距離が長かったらいいのに。

そんなしょうもない事を考えながら、倉田さんの話に相槌を打っていく。


「あれ?倉田さんって石原と付き合いだしたんじゃないの?あれ誰?」

「確かあいつ3組の奴だよな。あの噂デマなのか?」


生徒達のヒソヒソ話が俺と倉田さんの耳にも届く。

倉田さんはうんざりしながら、その会話に耳を傾けていた。

もうプライベートもくそもないな。マドンナにもなると、行動の一つ一つで生徒たちが騒ぎたてる。

倉田さんにとっては面倒以外の何でもないだろうな。


「マジでウッザ!何であたしの行動がこんなに広がらなきゃいけない訳?」


むすっと不機嫌丸出しの表情になった倉田さんに苦笑いを零せば睨まれる。

でもそれはしょうがない事。

倉田さんは持てるから、学校ではちょっとした有名人だからしょうがない。


「しょうがねぇよ、倉田さんと石原が付き合うって噂すっげー広がってるから」

「は?」


目を丸くしたのは倉田さん。

あれ?倉田さんはこの噂知らないのか?石原と付き合うだろうって奴。

倉田さんが事の詳細を聞いて来たから、俺はそれをちゃんと説明した。すると倉田さんの表情が更に不機嫌そうなものに変わっていく。


「何それ、訳わかんない」

「でも倉田さんは告白をバッサリって言うので有名だから、考えさせてはすごい進歩なんだよ」

「……あんたは嫌じゃないの?」

「え、俺?」

「仮にもあんたあたしに告白してきたじゃん。なのにこんな噂立って嫌と思わないの?」


本音を言った所で何か変わるんだろうか。

何も答えずに固まってる俺に倉田さんの表情がまた変わっていく。コロコロ変わるんだよな。

不機嫌ながらもどこか怒った様な表情に変わって、倉田さんの足取りは速くなって行く。


「倉田さん」

「うっさい。ばか一之瀬」


そう切り捨てられて、俺はそのまま置いて行かれた。

倉田さんが何でそんな事言うのかが分からない。皆が俺と倉田さんを見て、そのまま視線をずらす。

なんだか完全に振られたみたいな感じになってるし、俺……

少し重くなった足を引きずりながら学校に向かう。


倉田さんは今日返事をするんだろうか。

何だか満更でもなさそうに嬉しそうな顔してたけど。もうやだ。

女々しい自分も嫌だけど、正直に言って嫌われる方がもっと嫌だった。




身体が重たい水曜日、

 意中のあの子は誰の物?



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