3 やっぱり君が好きなようだ
結局5限目の授業はさぼって屋上で過ごしてしまった。
倉田さんとの会話は決して明るい会話ではなかったけど、中々為になったと思う。
相談できる人がいるって、こんなに心強いんだな。
3 やっぱり君が好きなようだ
学校が終わって真っ直ぐ帰路につく。
今日はバイトの無い日だし、帰って少し寝てから飯でも作るかな。
バイトがないから何だか少しだけ足が軽い気がする。
「いーちのせ」
「あれ、倉田さん」
俺を呼ぶ声が聞こえて振り返ると、倉田さんが手を振りながら歩いてきた。
倉田さんってこっちの方向だったのか。
そのまま倉田さんと軽く話しながら家に帰る事になった。
正直言ってかなり舞い上がってる。まさか片思いしてた時はこんな日が来ると思ってなかったから。
倉田さんは少し砕けた感じになってて、見たいテレビなどを嬉しそうに語ってる。
やっぱこうやって見ると倉田さんはマドンナと言われるだけあって本当に可愛い。惚れた弱みではないが純粋にそう思う。
まぁふられた俺が今更あーだこーだ言うのもあれなんだけどね……
「一之瀬、今日はおばさんの迎えに行くの?」
「いやーあれは時々だから。いつもは親父が仕事帰りに迎えに行くんだよ。それにお袋が病院行くのは大体朝だから、こないだは特殊なケース」
「ふーん……」
倉田さんは適当な相槌を打って再び自分の会話をし出す。
雑誌で可愛い服を見つけたとか、飼ってる犬が可愛いとか。
そんな事を話す事、十数分。分かれ道で俺と倉田さんは手を振って別れた。
「ただいま」
家に帰って靴を脱いでリビングに向かう。お袋は相変わらず自分の部屋にこもってる。
今までなら何も言わずに自分の部屋に向かうんだけど、俺はお袋の部屋に行って「ただいま」と言った。
お袋は少し驚きながらも「おかえり」と返事をしてくれた。
そのままベッドに横になると自然と眠たくなってくる。
いくら寝ても足りない。こんなに寝るっけ俺。
とりあえず2時間程度は寝れるので、俺はそのまま目を閉じた。
目が覚めた時は6時半で俺は1階に下りて夕飯の支度をした。
作ってる途中で親父が帰ってきて、親父も手伝ってくれたので、比較的早くできたと思う。
お袋を親父が呼びに行ってる間に俺は皿などを並べた。
何か俺、大学生になっても立派に一人暮らしできると思うわ。最近そう感じる。
お袋はちゃんと飯を全部食ってくれた。
その後片付けをして、そのまま倒れ込むようにベッドへ。
眠気はすぐに訪れて、ものの数分で俺はぐうすか寝息を出した。
今週の土、日は特に何もなかった。バイトが入ってる以外は予定もなかったので、比較的良く寝れた。
お袋も病院に行って、親父も休みだからお袋に付き合って行く。
やっぱりこう言ったら何だけど、1人は何も考えなくていいから楽だなと思った。
倉田さんは何してるのかな?服が欲しいって言ってたから買い物にでも行ってんのかな?
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「お前さー結局倉田さんとどうなったんだよ」
次の日、学校に行くといの一番に雅氏に倉田さんの事を聞かれた。
目を丸くしてる俺に雅氏は顔を輝かせながら俺の返事を待ってる。
「どうなったって……ふられたじゃん。言わすなし」
「マジか?お前と倉田さんが一緒に帰ってるの見た奴いて、かなり噂になってんぜ」
あぁ金曜の……それを見て何かを勘違いした奴がいるらしい。
倉田さんは基本他人と関わらないから、一緒に誰かといるだけで話題になる。今回は俺が話題になってしまったようだ。
雅氏に違うと言っても、ニヤニヤと笑って信じてくれない。
大体付き合う事になったら言うし。何で振られたとか嘘つかなきゃいけないんだよ。
「帰り道あってさ、ちょっと仲良くなったんだよ」
「倉田さんと?言いよる奴を片っ端から無視する倉田さんと?本当かよ」
「嘘ついてどうすんだよ。マジだマジ。付き合ってねぇし、マジで」
「マジか、あーぁ……結構俺本気で喜んでたんだけどなぁ」
ごめんな雅氏、ぬか喜びをさせて。
俺の話を盗み聞きしてたクラスメートたちは結局デマの噂だと分かったらしく、それぞれが普段の会話に切り替わった。
俺も雅氏と他愛ない会話に変わっていた。
昼休みにその事を倉田さんに伝えると、倉田さんは面倒そうな顔をして溜め息をついた。
あからさまに嫌そうな顔をしたので苦笑いしかできない俺に倉田さんは提案をしてきた。
「そーだ一之瀬、アド教えてよ」
「アド?」
「そうそう。学校であんま話せないからメール」
「それはいいけど」
それはこっちも願ったりだ。
でも倉田さんは何で俺なんかに構うんだろ。ただ単に相談相手程度ならそこまで構わないはずなのに。
アドレスを登録した倉田さんは可愛らしい笑顔を向ける。
倉田さんって実は明るいんだな、と思ったと同時に疑問がわき出た。
「もう1人の倉田さんってどんな子?性格とか」
笑ってた倉田さんの表情が変わる。
あ、もしかして地雷踏んだ?絶対そうだよな。
案の定、倉田さんは不機嫌そうな顔に変わっていく。口も尖っている。
「どうでもいいじゃん。かんけーない」
「ごめん」
「別に、じゃあね」
あ……完全にミスってしまった。
倉田さんがさっさと歩いて行った背中を俺はただ見つめるしかなかった。
その後、結局倉田さんとの会話もなく学校が終わり、俺はバイト先にチャリを走らせていた。
そこで服を着替えて準備をして、開店。
客は結構多かったし、それなりに忙しい。月曜なのにこんだけ多けりゃ不景気知らずだな。
そんな事を考えながら客のオーダーを受けていく。
店長の先輩達も忙しなく動いていて、あれこれ俺に仕事を預けて来る。
俺は若干目が回りながらも、それに1つ1つ答えていった。
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「疲れたー」
夜の9時、バイトが終わり背伸びした俺は服を着替えてカバンをあさる。
ケータイを見ると光っていてメールが受信されていた。
相手は倉田さんだった。
その文字に異常に反応して、目を凝らすようにじっと見てしまった。
『今日は何かごめん。少し感じ悪かったなって思った』
短い内容で主語もなかったから一瞬何の事かわからなかったけど、あの事かと思い出した。
すぐさま気にしてないと返信を打ってカバンにケータイをしまう。
心臓がバクバク言ってる。メールなのにすっげー気恥しかったし……
「お、春哉顔あけーよ。誰からメールだ?彼女か?」
「はぁ!?違いますよ!」
先輩がからかってくるから必死で訴えたけど、何だか墓穴を掘ってる感じだ。
“彼女”その言葉に反応してしまったもんだから、先輩はニヤニヤしてる。
「いやいや、嘘つくなよ。彼女だろ?」
「俺彼女いませんし」
「そうなん?じゃあ好きな子からのメールか?」
しつこいなと思ったけど、好きな子と言われてまた顔が赤くなる。やっぱり!と言って笑う先輩は俺の事を茶化してくる。
写真あるか?とか、ラーメン屋連れてこい、とか。
でもそれにちゃんと反応してる余裕はなかった。
ふられたくせに俺はまだ倉田さんの事好きなようだ。
1年の片思いは簡単に諦めれるものじゃないらしい。
恋に気づいた月曜日、
そのきっかけはあまりにも唐突に。