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束の間の休息

木々の葉群れから零れ落ちる優しい陽光の下、城壁と繋がれたハンモックに揺られ微睡んでいたアンリは、遠く聞こえる喧噪と制止を求める声にゆっくりと瞼を開いた。


なんだ?久しぶりの帰還だというのに・・・余暇日位静かに過ごさせてほしいなぁ。


喧噪を無視して眠れば収まっているかな?と思い再び瞼を閉じようとした時近くから届いたココ、と喉を鳴らす特徴的な女の声に顔をあげる。

そこには華やかな紋様に彩られた着物を纏う狐耳の女と揺れる複数の尾が見えた。


「おや、ノイルか。他国で趣味に勤しんでると聞いていたけど終わったの?」

「国としての機能はぐちゃぐちゃにしたところよ。まったく、カイネの奴が人材不足とやらで呼び戻さねばもう数年は地獄を見物できたというのに。」

「カイネに呼ばれた程度で貴女は動かないでしょ。今回はどうしたのさ。」


ハンモックから身体を起こしたアンリの言葉に満足気に目を細めたノイルは口元を袖で隠し笑う。


「ココ、主が粗暴に傾いたと聞いてわな。間違いが生じる前に疾く戻って来たのよ。」

「俺のせいかそれはすまなかったね。しかし皆して過保護が過ぎるよ。俺だって社会人としての責任と自制心は常に胸にあるとも。」

「主は社会人を名乗れるような生き方をしておらんではないか。」


肩を竦めたアンリは額に伸ばされたノイルの指先に押されるようにハンモックに身を沈ませると額から暖かい感覚が生じ一年ほどの記憶が走馬灯のように浮かび上がっていく。


「ちと時間をもらうでな。その間休んでおれ。」


ノイルのスキルによる記憶の精査にされるがまま、気怠げな喪失感を微睡みに変えたアンリは身を任せることにした。







山のように積まれたダンボールとそこに貼られた内容物SKUラベルを前に積載物品目リストと照らし合わせをしていたカイネは一向に減らない荷物に苛立ちを感じている。

今回の荷物が衣類とあり、大まかに色、生地、サイズ、性別が分かれている上、下着類や上下の組み合わせと参照品目が多岐に渡るからだ。


終わんねぇぞボケが・・・私がいる時はもっと品目を少なくしろって・・・あぁ、いや前回そうしたら横領からの横流しで帳簿が合わなかったんだ。


実に素晴らしい部下達だくそったれ共め、とげんなりしたカイネは扉の開く音に苛立ち気に振り返った。


「ノック忘れてんじゃね・・・なんだクソ狐か。アンリはどうした?」

「ハンモックで微睡んどる。こっちで2週間の待機期間を過ごすなら退屈を感じる活動時間は短い方が良いでな。」

「私の仕事をやらせるから退屈させねぇよ。」


品目リストの紙束を机に放り投げたカイネは通り際近くにあったダンボールに蹴りを入れてから椅子を引き身体を預けた。

そのまま机の上に足を投げ出し後方に傾けた椅子を、キィキィと鳴らしながら天井を見ると呆れ顔をノイルに言う。


「いつまでそこに突っ立ってんだ。人手不足なんだ手伝えよ。」

「人に頼む態度じゃないのぉ。忙しいならラズを遊ばせず連れ戻せば良かろうに。」

「戻って来ねぇんだよあのアホ女。

貿易業で得た未知の物資と莫大な利権に群がるハイエナ共を見せしめに殺せるってのに。」

「ココ、あの殺害衝動の塊が欲求を後回しにするとは余程向こうの暮らしは快適とみえる。」

「アンリが最低限の殺しを任せてるから居着いてんのさ。生贄の用意と根回しに後始末と相変わらず人の世話が上手い奴だ。」

「でなければラズもサラも手懐けれんわな。」


そうだな、と苦笑し机下のクーラーボックスからカクテル缶を取り出したカイネはノイルに部屋の隅に置かれた桐の木箱を示してからプルタブに指をかけた。


「アンリからお前に土産だ。大島紬の反物だとよ。」

「なんじゃなんじゃ、土産とは気を使わせてしまったかえ。」

「もう一ヶ月お前が来なければ売っぱらおうと思ってたんだがな。保管料として少し仕事を手伝え。」


木箱の蓋を開け、反物を包むたとう紙の隙間に滑らせた指で生地の手触りを確認したノイルは笑みをこぼす。


「上質上質。これを任せられる仕立て屋は・・・ココ、じっくり吟味せねばな。」

「そりゃ良かった。教会の抱えてる王侯貴族御用達の服飾店紹介してやるから手伝え。」

「・・・アンリの頼みであれば吝かではないんじゃが・・・まぁ仕方ないでな。ちと見せてみよ。」


あまりの仕事量に天井を仰いだノイルは作業前にアンリが起きてからにする事にした。







積まれたダンボールを手分けしながら検品し、配送先事に振り分けし、チェックと共に封をし直してからラベルを貼る。

数日前にも似た行動をしていたアンリは手慣れた動きでカイネの部下達に指示を出していた。


ウンウン、皆働き者でいいなぁ。サラもラズもこれ系統は露骨に避けて手伝ってくれないから大変だったのを思い出しちゃうよ。


ノイルとカイネも同様にそれぞれの管轄商品を部下達に指示している為、明日には全ての箱が発送前手続きまで進められるペースで進んでいた。


「カイネ〜お腹減った。そろそろ休憩にしようよ。」

「あん?あぁそうだな、このクソ面倒な仕事で気が滅入ってた所だ。今日はこの列までやって切り上げるか。」

「急げば明日にも終わるが、暇故そう急く事でもないでな。止めじゃ止めアホになるわこの量は。」


手にしていた品目リストを確認しながらキリのよい品目に記しを付け目安としたノイルは部下達にも終わりが近い事を伝えるとアンリに顔を向けた。


「しかし主が向こうを離れて平気かえ?」

「ん〜?サラとラズならお守りを任せられる人達に頼んできてるよ。新事業立ち上げで暫く荒れそうだから武力要員に使ってねって。」

「おいアンリ、てめぇがラズに遊び場用意してっから何時まで経っても帰って来ねぇんだよ。」


カイネの苛立ちを含む声が部屋に通ると作業をしている部下達に不安気な雰囲気と萎縮が生じる。

それを意に返さないアンリは肩を竦めながら品目リストに視線を落としたまま思う。


まぁ確かに、日本で購入した新商品を流し込み続けてれば販路全体に他商人や王侯貴族から圧力や横槍が生じるとは思ってたけど・・・。


「面倒事?教会は?カイネ管轄ならそっち方面で抑え効かせられるでしょ。」

「・・・まぁあれだ。大半の販路系は私が教主している方に任せていてな。」

「ココ、教会への詳細報告を通せば利権の割譲、介入、寄進と面倒は避けられん。金に目が眩んだようじゃな。」

「仕方ない事だった。得た金は莫大で金貨は常に輝いている。あの輝きは私の未来を照らす後光そのものだ。」


わかるだろ?と促されたアンリはため息をこぼす。


カイネの自分の為に他の全てを振り回す姿は出会った頃と変わらない。

否、この横柄さを昔から知っている既に諦めすら感じる懐かしさ、と感じてしまっているのは何故だろうね。

きっと前世があったなら似た人に振り回され酷い目にあったが、その他者を踏み躙り楽をする揺るがない外道振りに惹かれていたのかも知れない。


そのような思いを持ってしまっているからこそ強く頼まれればアンリの返事に否定は無かった。


「相変わらず仕方ない人だ。とはいえラズも言って聞かない自由人。

その場しのぎでも彼女の説得に時間を作る為にちょっかいかけている人達への対応はこちらのやり方で時間稼ぎをするとしよう。」


アンリは言葉を紡ぎながらこちらにいる間に進めるべき行動を頭に浮かべていく。


とりあえずカイネの商圏に圧力をかけている商人や王侯貴族の家系図の取り寄せを初めとし、領地の特産品や産出物、それと不足品の照らし合わせと商人の取扱品目の六次産業まで遡る洗い出しで相関図を作り長所と弱点を可視化させよっと。


思考を纏めているアンリの横顔を見るノイルは目尻を下げ満足気に口端を吊り上げる。


「なんじゃなんじゃ良い顔するようになったの。一端の悪党のようよ。」

「俺は手段を選べない凡俗だからね。

仕事はする。成果は出す。犠牲と手間は厭わない。情けないがこれが方針でね。

お上品な手法だけで事を進められる恵まれた天才達が羨ましい限りさ。」

「クク、んなヌルい人生ならお前の才覚は腐っちまう。

わかりきった結末しか得られんつまらん人間にならなくて良かったじゃないか。」


悪辣な笑みで笑い合う3人は完全に引いている部下達の視線に気付くと今日の業務を終わらせる為の指示を急ぐのだった。

これで本章が終わりとなり、次の章が最終章となります。

また少し期間を頂き、参考にしている事件や判例等の擦り合わせと勉強をしながら続けさせて頂ければと思います。

引き続きよろしくお願い致します。


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