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興行準備 ⑦

放棄された茶畑や田んぼに高々と茂らせた雑草が冬の気温にさらされ立ち枯れる年始を少し過ぎた頃にアンリ達の興行は始まりを告げようとしていた。


閑散とした田舎でも更に山間に近い平屋は窓には目張りや雨戸が施され、入り口と勝手口の扉には厳重な鍵が二つ付いている。

その入り口側の扉をくぐった先、本来玄関となる空間は複数のモニターと空調用の設備、そしてカメラとマイクの音響調整用の空間となっており、その奥側扉をくぐると金属製の壁と細い廊下へと続き、廊下の突き当り右側はトイレ、左側の壁は金属の壁が続き中央に扉が一つあるだけだった。

その無骨な扉の先には、本来あった筈の壁や仕切りが消え、金属で補強された柱だけが残された大部屋へとリノベーションされ、室内を囲む壁もまた金属製である為かどこか拘留所や独房を思わせていた。

ただ拘留所と違い内装として、ベッドや本棚等の家具類があり、テーブルの上には筆記用具、花瓶が置かれ、窓はないが模した壁にはカーテンやパズルの額縁が飾られている。


また室内中央から南側には玄関を模した絵が描かれ、そこにある傘立てには無造作に傘やバットが刺さり、北側にはキッチンを模した家具類やコンロ、ガスバーナー、鍋、包丁が置かれている事で室内はワンルームに必要なすべてが用意されていた。


「家具の配置がややおかしいけどワンルーム風の遊技場としてはいいと思うわ。」

「俺だって迷ったけど玄関側に傘立てとキッチン置くのはさすがに武器の位置が偏りすぎるでしょ。」

「それはそうね。ボスの確認はとった?」

「ぜ~んぶ一任するってさ。念のため室内の見取り図と写真は送ってある~。」


気軽に歩きながらカメラやマイクと共有したタブレット端末を操作し確認をしているケンは、同様に最終確認をしているマナと意見を交わしていく。


「来週にはテストプレイ用の債権者連れてくるってさ。その映像で興行のプロモーションと賭博の売り込みも進めるからしばらくは忙しくなりそうだ。」

「この時期って私の方は生徒の進学が絡む手続きも増すから大変よ、ほんと。」

「ありゃ~風俗の方は?」

「そっちはいつも通り。たまにキャストに言い寄るクソ客をあしらうのと、飛んだおバカな娘の回収と躾適度ね。」


平和でいいことだ。と返したケンは気になったカメラの画角調整をし、担当施工者名を確認する。


ん~~ボス絡みの仕事なのに精度悪いなぁ。この業者は今後扱いやめるかぁ。


ポリポリと頬を掻いたケンは、施工業者名簿から室内のカメラ設置をした担当を確認しながら言葉を続ける。


「マナさん〜そっちのカメラ画角問題あった?」

「3つ程ね。施工位置が少しズレてるからカメラの可動域限界前に映像画面内に梁が被っているわ。」

「うわ、こっちもだよ。じゃあやっぱこの施工業者はいらないか。ここの事喋られても困るから廃棄で進めるね。」

「はぁ、私達だけならともかく、ボス絡みでナメた仕事されたらねぇ。

これ、万一見落としてたら叱責じゃ済まなかったでしょうし・・・仕方ない事よ。」


やむを得ない事情との決定により業者名簿に廃棄マークが印された。





埠頭近くの空き地に錆びたコンテナがあった。

長い事放置されていた為か外装の塗装は剥がれ表面にはやんちゃなガキが施した落書きや凹みがあり、内部もまた経年劣化と風雨による浸食が生じリノベーションも難しいほどの汚れや破損が見て取れる朽ちかけたコンテナだ。


その錆だらけの空間に正座で座らせた作業服の男の頭にはビニール袋が被せられ、その正面にはアマネとケンがおりこれから行う見せしめを撮影するための準備を進めていた。


「うぅ寒いね~さっさとすませてご飯でも食べに行こうよ。」

「そうですね。私最近良い鍋料理出す店知ったんです。予約しときますか?」

「いいね。手伝ってもらってるし俺おごるよ。」


わぁい。無邪気に喜んだアマネがコンテナから出て予約に行くのを見送ったケンは手にしたバットを肩に担ぎ男と同じ高さまで腰を屈めた。


「仕事、手抜きしちゃダメでしょ。ね?」


猿轡と袋越しのフガフガと言葉にならない声と身をよじる動きに拳を振るったケンは倒れた男の襟首を掴み定位置に戻した。


「君の仕事だと精度が低いってボスに怒られるんだ。いやぁテストプレイ前に確認してほんと良かったよ。

でも君も運がいい。なにしろ発見したのがボスだったら楽には死ねなかったからね。」


男の肩をポンポンと叩き、良かったね。と続けたケンはコンテナ入り口から顔を出しているアマネに振り返る。


「じゃ債権者と施工業者への口封じを兼ねた見せしめ始めるから外で見張りよろしく。」

「了解です。店の予約と掃除屋さんの回収も二時間後なので間に合うようにお願いします。」

「はいね。寒いしさっさっと終わらせるよ。」


目出し帽を被ってからカメラを稼働させたケンは男の腹部にバットをフルスイングした。






落ち着いた調度品と襖に仕切られた和室の個室は4人用の予約席としてセッティングが成されていた。

クツクツと出汁の香りを室内に満たした鍋を中央に置き、各人の前には彩り豊かな八寸風に盛り付けられた前菜がある。

それぞれの席に座るケン、マナ、アマネ、陳は頼んだ酒杯を掲げ乾杯の形をとった。


「新事業立ち上げお疲れ様〜。いやぁ寒いねホント。」

「お疲れ様です。マナさんと陳さんもお久しぶりです。」


会釈をするアマネに微笑んだマナはYシャツの襟を緩めながら口を開く。


「今回は4班の合同事業として顔合わせで来たけど、管轄上なかなか会わないものね。」

「幹部が揃わないで運営回る。良い事よ。」

「ホントだね〜。でも俺はもっとみんなと会いたいよ?」


ビール片手に3人を示すケンは、箸を開く事で残る石田と武藤を示す2を形作る。


「ケン、幹部の接触危険多いね。外部も内部も組織の上役知りたがってる。」

「そうね・・・私やアマネちゃんは自衛手段乏しいから情報漏洩は特に困るわ。ね?」

「それは確かに・・・あの、あの、住居ってもっとセキュリティ厳しい所に変えた方が良いんですかね?」


アマネの疑問に苦笑したケンは鍋の蓋を開き煮え具合を確認しながら頷く。


「ボスからセーフハウス用意するよう言われてるでしょ?

生活保護用のダミーハウスに、キーちゃんの所と県外に1つ、それと組織内にも伝えない部屋を俺は持ってるかな。」

「私も似た感じよ。陳も?」

「突然よ。仕事用以外に県外と県内、国外に1つずつ、場所神崎にも伝えてないね。」


なるほど〜、と頷いたアマネは現在のアパートの一部屋と県外のシェアハウスしか確保していない自身の危機感の無さに気付く。


「・・・面倒だけど必要ですもんね。」

「こういう業界は内外問わず野心的な人を対応する可能性もあるからあった方が安心だよ。

後、今回の興行は土地と建物関連がアマネちゃん。

債権者の飼育と管理が俺。

映像関連と配信回りの調整と翻訳でマナさん。

遺体絡みの処理に陳さん。

って複数班が絡む上、収益も強制労働のピンハネと興行の閲覧権と賭博胴元と複数から摘む形だから下の奴等にアホが混じっていた時とか帰る家が一つだと除菌・・・尾行を撒くのが面倒だし。」

「う、それは確かに・・・特殊詐欺時代、回収班を狙った他組織の横槍とか超怖かったです。」


そっかぁ。と頭を抱えたアマネの質問をメインにすぐにでも始まる興行の話を肴に親睦会は弾んでいく。

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