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神崎夫妻 ②

並ぶモニターの一つをズーム操作し、迫る紅林とアンリの激突を映した中村は、お、と驚嘆の声を作り土屋に振り返る。


「スラム仕込みのタックル対策とは手癖が悪いにも程があるじゃねぇか。」

「あん?アホがコケただけじゃねえのか?」


アンリの横で顔を抑え横転した紅林を更にズームで映す中村は破顔した笑みで土屋の声を否定した。


「タックルに合わせた目潰しっすね。こう、掌を相手に向け軽く曲げて突き入れる型の。確か南米辺りの喧嘩屋がタックル封じによく使ってた筈。」

「ハッハッハ。マジか、神崎もやるじゃねえか。」


画面の中では蹲った紅林の顔面に向けトゥーキックを入れ、仰向けの顔に踏みつけを三度入れるまでの動きが映し出されていた。


「きちんと戦闘不能まで追い込むと、女に隠れた口だけのカスじゃねえって事・・・なんかやってんぞあいつ。」

「・・・もう少しズームになんねぇのか?」

「すんません土屋君。安モンの機材何でこれ以上は・・・。」

「アンリさんは自分の指紋が付かないようハンカチに包んでナイフを拝借したようです。

他の仕事で使う捜査撹乱用の小道具に他人の指紋が付着した凶器を収集していますので。」


鈴のような透き通る声に振り返った土屋は、会釈をするラズとコートの内側に何かをしまうアンリを見比べる。


あの距離からこの画質で馬鹿の行動と盗んだ得物を見極めれんのか・・・。


「そうかい。ご教授ありがとな姉さん。」

「いえ、差し出がましい独り言でした。うるさくして申し訳ありません。」

「謙虚だなぁおい。神崎夫妻とはえらい違いだ。」


マジで良い女だな、と笑う土屋はラズから視線を切りモニターに顔を向ける。 そこには足元に7人目の男を崩れさせたサラと逃げ惑う男達の醜態が映されていた。






「・・・・・アレが神崎君の本当の相方かぁ。」


腕を組み、ふーむ、と長く鼻から息を吐いた多喜川はPC上に映されている画面と右隅の他のカメラ画面をスクロールしながらサラの戦闘シーンを多角的に鑑賞していた。


『怪物』


これが半年前に神崎夫妻と直接対峙し生き残れた数少ない生還者の証言だ。

失敗に対する組からの叱責や罰を軽くする為としか思えない程、尾ヒレがついた作り話だと思っていた数々の逸話が現実だったと確認し、どうしたものか、と頭を悩ませる。


能力だけ見るなら武力要員の人材として確保したい、とは思う。ただアンリやラズと同列なら手に負えないタイプの人材とも思う多喜川は頬杖姿勢のまま溜息を付いた。


ウチの組は他組織や組と抗争する体力も人材も無い上、拡張方針じゃないしねぇ・・・無理に囲っても手に余るなぁ。

そもそも神崎君は影響力増大を望む人間でも無いから下手に刺激するのも危ないかぁ。


万一の助っ人として使えるよう神崎夫妻の組織とはもう少し関係性を深くしておこうと決め画面内の動きを注視する事にした。






瓦礫やゴミを避けながらトコトコ歩きながら間取りや照明位置を撮影していたアンリは室内の喧騒が少なくなり、倒れ伏した負傷者から聞こえる呻き声が増した事で終わりが近いのだと思い元の位置へと戻っていく。


後3人か・・・サラも満足してるみたいで良かった良かった。

無頼連合のアングラ興行の室内設備や待機室の管理、進行の流れを動画付きで得られた事でケンさんも必要設備等の理解が進むだろう。


土屋さんに感謝だな。と感慨深く頷いた時悲鳴と共に壁に叩きつけた打音が重ねり血反吐に沈む2人が見える。


これで残りの最後の1人は・・・おや?


壁際で腕を組んでいた6人組の長とおもしき男が服を捲りベルトに納めていた拳銃を取り出した。


「神崎君。降参してくれ。」

「・・・なんで?」

「おい、ここまでやられて俺が撃てないと思ってるのか?脅しじゃねぇぞ!?」


肩を落としたアンリは溜息をこぼした。


「そういう訳じゃないけどね・・・別に撃ちたきゃどうぞ。結果は変わらないからさ。」


トコトコと男に向け歩きながら7m程の距離で険しい顔をしているサラに並ぶ。


「アンリ、お前はアレ持ってきてないのか?」

「今日は抗争予定じゃなかったから防弾も防刃チョッキも着てないよ〜あれ重いし首回りとか堅くて赤くなっちゃうから嫌なの。」


ケラケラ笑いながらボタンを外しコートを脱いだアンリは、ほらね。と室内の全員とカメラに見せつける。


「で、セニョールは撃たないの?出来ればサラに撃つのは止めてほしいんだ。

ほら、服は汚しても良いように安モンだけどこの胸のサイズを収める下着は輸入品で高いんだ。壊されたら困る。」

「私はサラシや当て布でいいんだがなぁ。」

「ダメダメ、女性の胸の構成細胞は実年齢より+2.3年先をいくらしい。日々のケアと維持の品は欠かせないとも。」


帰ったら蒸れ防止のベビーパウダーも買わなきゃね。とサムズアップしたアンリに向けた銃口を震わせた男は血走った目を見開く。


「ふざけてんのか!?てめぇ!!」

「おいおい、胸回りに悩む女性は多いんだよ?それをふざけるなんて言葉をよく投げかけられたものだね。」

「私はうつ伏せで寝ると苦しい事が悩みだな。」

「仰向けで良いじゃない。御神体を誇示していこう。」


ね?とウインクしたアンリは瞬間、顔を後ろに数cm反らすと同時に銃声が響き眼前を通り抜けた音を捉える。


「あらら外しちゃったね。素人さんは的が小さい頭じゃなくて胴体を狙うのがオススメだゾ。」

「うるせぇ!!動くんじゃねぇぞボケ共がぁ!!?」

「おやおや、君から受ける脅威が無くなっちゃったなぁ。どうやら見せ弾1発しか貰えてないみたいだね。」


図星を突かれ怒りの感情から肩で荒く息をする男は何度も引き金を引くも最終的に拳銃をサラの顔面に投げつけ背を向けた。


なんなんだこの化物共はっ!?


窓から逃げようと駆けた背に、クハハ、と笑う女の声が追い付き、迫る女の左腕を最後の記憶とした。





パチパチと画面の決着に拍手をする土屋は殴られた衝撃で破壊された窓と凄惨な事故現場さながらに身体を損壊させ血反吐と共に痙攣する男に大笑を作っていた。


「相変わらず派手な戦い方だなおい。こりゃ視聴者も増えんぞ。」

「掃除屋がめちゃくちゃ嫌そうな顔してそうっすけどね。」

「ハッハッハそりゃ仕方ねぇ。しっかし・・・配信で見ている身でもCGを疑っちまう怪力とタフネスだ。

確かそっちのお姉ちゃんはサラと対等なんだろう?アレに勝てんのか?」

「室内じゃ無理ですよ。あの人と正面から殴り合える方は私の知見では3人しかいません。」


3人もいるのかよ。と思う土屋は上階から降りてきたアンリ達と警戒が生む周囲のざわめきに手を上げ制止する。


「お疲れさん。撮るモン撮れたか?」

「ご協力ありがとう土屋さん。こういうホームがあると好き放題出来て良いね。」

「お前も一軒家買ってんじゃねえか。周辺住民に迷惑かけんなよ。」


ピタリと動きを止めたアンリは居心地悪そうなケンに目配せをし、話したのか?とアイコンタクトで問い、首を横に振る動きを返される。


「・・・まいったね。貴方の情報網は俺が思うより素晴らしいモノのようだ。」

「そうかよ。お前ん所の暴力も想像以上だったな。中村、お前よくこれとやりあってくれた。」

「っす。正面からじゃなきゃ勝ちますんで次はそのつもりでお願いします。」

「ハッハッハ言うじゃないか。いいぞ、お前ならいつでも遊んでやる。」


サラにポンポンと気軽に肩を叩かれた中村は服に血の染みが付いた事で顔を顰め項垂れた。


「すまない中村さん。クリーニング代は出すから許してほしい。」

「サラさん、お着替えありますので先ずは手洗いしましょう。返り血で車のシート汚しでもしたらアンリさんとケンさんの休日が掃除で終わってしまいます。」

「え〜俺も掃除手伝うの?サラさんの着替えなら喜んでお手伝いするんだけどなぁ。」


ケラケラ笑いじゃれ合う3人に肩を竦めたアンリはサイフから摘まんだ10万程の札を中村に渡し会釈をする。


「では俺達はこれで、今日のお礼に興行始める時は連絡するから感想聞かせてね。」

「あぁ、じゃあな馬鹿共。揉め事起こす前に帰んな。」


手を振るアンリは中指を立てた土屋に見送られ廃ホテルを後した。

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