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興行準備 ⑥

最寄り駅から東へと車を走らせ30分程の距離にある街。

そこから更に県境へと近づくにつれ住居がポツポツと疎らな数となる山間の地にある古い平屋作りの一軒家。

その内見を管理不動産の許可無く行っているアンリとケンは全部屋を見回り終えた所で居間にて合流をした。


「どうボス?俺的には有りだけど。」

「この案件はケンさんの管轄でしょ。貴方が良いならそれが最善だよ。」

「ダメダメ、興行系の仕事は初だからボスの意見も聞いときたいの。アマネちゃんには優しく教えてるってなら俺にも優しくしてよ。」


ケンの言葉に、仕方ない人だ。と苦笑したアンリは写真撮影した間取り図や付近の地図をスマホに表示させ思案する。


過疎地域故に居住確認が取れている隣家まで約250m。

平屋作りの周囲は荒れた生垣により目隠しは出来ている。

前住人の退去から5年程経過し所々がガタが来ているが簡単なリフォームで済む程度の傷み。

平屋作りの為縁側を含む窓が多いのが難点だが、壁にするか雨戸を溶接する事で逃亡の対処は可能。

電気系統の配線やピンホールカメラを設置するに適した梁や飾り棚のある大部屋がある。


内見で確認した情報とスマホ内の情報を照らし合わせたアンリは頷く。


「リフォームは必須だが十分に可だ。ここを遊技場にするなら宗教法人の活用地として購入手続きを進めても良いよ。」

「お、良いね良いね。リフォームはこっちの伝手でやっても?」

「貴方の管轄案件だ。好きにして良い。

ただ壁や床下に防音材の追加と空調、換気関連を充実、それと殺害現場になる以上血や汚物で汚れるから床は『ソッチ』方面の加工をするように。」

「りょーかい。防水防臭以外もやる方向で見積もりあげるように急がせる。」


LINEを用いて伝手のリフォーム関連の施工業者に連絡を始めたケンは、あ、と声を洩らし顔をあげる。


「ボス〜物件取得と不動産関連の手続きやってくれる?」

「はいはい、石田さんに話を通しとくよ。彼はアマネさん関連で忙しいんだから後で礼を言うように。」

「は〜い。あと、土屋君に連絡とってよ。リフォームの参考にするから彼のホーム地の遊技場見学したいんだ。」


おや、と首を傾げたアンリはスマホを示す。


「クリスマスに彼等主催のアングラ興行あるけど閲覧権限持ってないの?」

「ないの〜マナさんにクレクレしたけど断られた。」


頬を膨らませながら酷いよね?と同意を求めるケンに苦笑したアンリは肩を竦める。


「土屋さんに連絡しとくよ。もしかしたら閲覧権限くれるかもだし。」

「やったぜボスありがとう。」


上機嫌なケンは頼りになる事を過去の仕事から理解しているアンリは安心して全てを任せる事にした。





カタカタとキーボードを叩きながら雑務を熟していた永山は、机に置いていたスマホの着信音と番号を目にし一息付いた。


「お疲れ様です石田さん。何かありましたか?」

「あぁ、ケン達が進めている仕事を知っているか?」

「山崎さんから面倒事が来る可能性に備えるよう。とだけ聞いています。」


だよな?と首を傾げた永山は記憶を反芻するが詳しい内容までは聞いていない事が確認でき頷く。


「仕事ですか?やりますよ俺。」

「ずいぶん前向きだな。本当に大丈夫か?」

「班付きになって給料上がりましたんで。目指せ幹部です。」

「ハッハッハ、意欲がある奴は良い。アマネさんには俺から許可を取っておく。

今Telegramに送ったURLに指示書と権利と関連書類がある。間違ってもデータを流出するようなヘマするなよ。」

「了解です。草案が出来次第送りますので確認をお願いします。」


通話を終え気合いを入れた永山は今取り掛かっている仕事と並行して追加業務を走らせていく。






通話を終えデスクトップ上のタスク整理に印をつけた石田は一息をついた。


神崎から振られた仕事はガキ共に任せるとして・・・二代目絡みの仕事の雑務を終えねばな。


中原から送られてくる情報を下に県内の反社達の勢力図を雑に可視化させた地図を開きふむ、と頷いた。


斉村の失脚前管轄を引き継いだが・・・やはり所々食い荒らされ始めたか。

縄張りの管理は山崎とガキ共だけじゃ手が足りないが・・・はしゃいでる馬鹿は何処の手だ?


街の噂や被害報告、行為の写真や動画をつぶさに確認していく石田は大まかに判明していく正体に頭痛を覚えた。


こいつ、県内で立ち上がっている麻薬の特捜絡みか・・・ほっとくとうちにも飛び火しかねないな。

だが神崎に報告すれば生来のトラブルメーカー気質で県内は更に荒れる上、解決しても影響力が増してしまい奴の隠居が遠のくかもしれん。


しかし、とこめかみに当てた人差し指をトントンとリ動かし物理的に刺激を作りながら溜息をこぼす。


縄張りの管理を任されている二代目は麻薬嫌い、正面から対応させるのはやはり気が引ける・・・どうするか。


早急に対応する前に武藤から特捜絡みの報告を受け情報の精度を上げてから判断しようと決めた。





「なるほどね。つかそんな事でこんな所に呼び出すんじゃねえよ。

最近検挙率高ぇ、怪しいって上からマークされてんだ。」

「と、言いながらきちんと脱臭して来てくれるのが貴方だ助かる。」


防波堤先にて背中合わせにテトラポット釣りをしている武藤と石田は駐車場方向を一度見る。


寒気を含んだ海風が吹くとあり人影は疎らで話し声が聞かれる心配もまた無い。と判断し念の為口元を隠す為にネックウォーマーの位置を直しながら会話を続ける。


「麻薬絡みの特捜はそっちの予想通り、去年の無頼連合との抗争で壊滅したトクリュウ『オーメン』の残党の小遣い稼ぎが原因だ。」

「では残党を纏めているのは元リーダーの呂久村倫也ですか?」

「いや、呂久村は行方不明だ。おそらくだが死んでるってのが特捜内の見解だな。」


竿を一度上げ餌の有無を確かめる振りをした石田は、馬鹿な、と呟き頭に竿を当てた。


呂久村は去年まで土屋と並び県内でカリスマを誇った半グレ達のスターだった。

影響力も強く、麻薬、盗品、売春と商売系の活動から資金も豊富で本職の覚えも良かった顔役の1人だ。

末端が無頼連合構成員から車両盗難を繰り返した事で抗争がおき壊滅したが、神崎の県内進出時は未だ高い影響力を持っていた為、斉村や土屋と小さな小競り合い時に幾度か関わり会う事もあった際に深く調べたのだ。


再び竿を海へ落とした石田は視線をそのまま声だけを背後の武藤に向け言葉を作る。


「呂久村が死んでいるなら残党が纏まる筈が無い。あのカリスマ性があったからこそ強大な利権を前に内部抗争が起きなかった。それは間違いないでしょう?」

「そうだな。俺も数年前から何度も奴の部下達を捕まえたからそうだと思うが・・・販売が雑過ぎんだな今回は。」


クーラーボックス横のコーヒーを口にした武藤はマスクを戻し続ける。


「今も呂久村がいるなら販売方法が露見せず特捜は立ち上がらなかった。

実際、奴が率いた全盛期は俺達警察も本職も影響力はともかく、活動自体は大人しく問題視していなかったからな。」

「・・・。」

「神崎達がこの件に介入するなら気をつけろよ。

特捜絡みとあっちゃ俺なんざに隠蔽できん。だが、さっさと片付けてくれるなら願ったりだ。」


釣りを模した情報の擦り合わせの場は1時間程続いた。

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