アマネ班 ⑥
寒気が雲を払い、澄み切った夜空を飾る星々より輝くクリスマスイルミネーションに飾られた街並みをアマネは歩いていた。
白い息をこぼし時折手を擦り合わせながら目的地へと足を早めていく。
うぅ寒い〜おコタツから出たくないのに仕事が・・・。
文句を思いながらも外出しなくてはならないのは未だ軌道に乗らないコンサルタント詐欺とは違い、アンリから回されていた都内用SNSビジネスが好調に搾取体制を整えつつある事で現地の纏め役との顔合わせをする必要が出てきたからだ。
面倒だなぁ。怖いなぁ。でも寺内さんに任せっきりに出来る相手でも無いし・・・。
アンリから渡されていた資料データには多喜川の経歴と所属する組の影響エリアと主なフロント企業と系列店が記されており、一通りは目を通しているが不安は拭えないでいた。
イルミネーション通りを越え、ビル街を越え、指定されたタレント事務所が入る雑居ビル前で足を止めた。
時間は・・・15分前、少し早い気もするけど入っていいのかな?
テナントの案内表記を確認しながら目的のフロアを探すアマネは、念の為確認しようとスマホを取り出しアンリへと繋げる。
「お疲れ様です。着きました。」
「はいお疲れ様。先方からは到着次第入っていいと伺っているよ。」
「了解です。あの、何か問題あったらまた連絡してもいいですか?」
「うーんダメ。俺の手を離れた案件でアマネさんの班の収益だからね。顔繋ぎ後は班長として貴女の権限と裁量で損得を判断しなさい。」
うぅ、と言葉に詰まった声に苦笑したアンリはアマネの返事を待たずに続ける。
「安心しなさい。失敗した時は別の手法で儲ければいいんだ。事業で一番の失敗はチャレンジしない事だよ。
停滞に比べれは全てを失う事すら問題にはならない。」
「・・・結果次第では復帰するまでザキさんのすねかじりで過ごしますんで。」
「その意気だ。なに、多喜川さんはこちらの組織と揉める程暇な方じゃない。安全な関係のうちに多くを学んできなさい。」
ではね。と通話を切られたアマネは白い溜息をこぼしビルの入口へ向かった。
「そうなんですよ〜突然ここに行けって言ったり後は任せるってひどいですよね?
多喜川さんからもちゃんと責任者として振る舞うよう言ってくださいよ。」
「ハッハッハ、天童さんはアレだね。神崎君に聞いていたよりフレンドリーだ。おっちゃん怖くない?」
「・・・ザキさん達に比べたら大丈夫です。もっと厳つい風体なら泣いてました。」
「正直な子で参っちゃうなぁ。うちにはいないタイプだ。」
苦笑を深めた多喜川は首を傾げながらカップのコーヒーを手にするアマネを見る。
神崎君から未熟だから優しくしてほしいと聞いていたけどこれはその手前な気も・・・まぁ若者を導くのが年配の務めってやつなら仕方ないかぁ。
「どうしました?」
「ん~~そうだなぁ。とりあえずここってうちの組関連の建物だけど護衛は連れて来なかったのかい?」
「あ・・・まぁはい。あの、サラさんやラズさんのような武闘派?猟奇殺人者?の伝手は神奈川のジョーさんしか・・・。」
「『Brigade』のジョージマンかぁ。うん、今後こういう所に来るなら彼に連絡入れて迎えに来るよう頼みな。
おっちゃんはその気がないけど場合によっては拉致や制裁もあるのがこの業界だ。ついでに天童さんの身に意図しない間違いが起きたら神崎君と揉める事になっちゃう。それはこっちが困るからね。」
ふんふん、と頷いたアマネは頭を下げる。
「ありがとうございます。気をつけます。」
「ウンウン素直な子は好きだなぁ。神崎君みたいにスレてないのも良い。」
「ザキさんはスレじゃなくてグレですって。」
共通の話題を攻撃する事で笑い合う2人が落ち着いた所で多喜川は本題の1つを切り出した。
「いやぁ~ありがたい事にそちらの寺内さんのSNS運用のおかげでうちの組織はキャストに困ってなくてねぇ。
新規店舗も3つ起こすって話でアニキ達もオヤジもご機嫌さ。」
「それは良かったです。多喜川さんのお言葉を伝えれば寺内もきっと喜ぶと思います。」
タブレット上に記載されている契約書にある在籍時に紹介料として一律5万円報酬、その後はキャストの給料から10%分を継続報酬とする文面を確認してアマネは頷く。
「ザキさんから担当変わるので報酬下げられるかと思ってました。」
「しないよ~そんな事。そもそもあんたらに金払ってんのはキャストの給料から。おっちゃんらの懐は痛くないしなぁ。」
「・・・よくこんな内容でサインしてますね。脅してるんです?」
「しないよ〜そんな事。おっちゃんもキャストを紹介される度に契約書書いてもらってる時にいつも思ってるよ。でも質問された事もないからなぁ。
こうも頭が悪いと搾取される側から抜けれないだろうねぇ。」
再び笑い合う2人は次回の契約更新日を確認し握手を交わした。
「では問題ないようであれば今後も寺内担当でよろしくお願い致します。」
「うんうん、平穏だとおっちゃんも嬉しいなぁ。これからも頼りにしてるから励むよう伝えてもらうとして・・・もう1つのゴミリサイクル事業は進んでる?」
タブレットを片手にこちらを覗き込む多喜川の眼力に圧されたアマネは一瞬動きを止め微笑む。
「担当班が違うので把握しきれていないですけど・・・年明け頃にテスト運営するみたいです。」
「そっかそっか。うちのタレントを泣かせた奴出るかわかる?」
「あ〜ザキさんに確認しておきますね。やっぱり気にしてるんですか?」
「そりゃナメた行為されたんだからね。しっかり確認取らなきゃ上にも報告出来ん。」
ニコニコと作られた笑顔に寒気を覚えたアマネは乾いた笑いで頷く。
こっわ!眼が笑ってないのもあるけど迫力有りすぎなんですけど・・・これがザキさんとは違った裏社会者の風格・・・。
石田から身に着けるよう言われていた反社としての在り方の一端を前に喉を鳴らした。
「そ、その件は後日として・・・。」
「・・・あぁそうだね。天童さんの管轄外なら仕方ない。困らせてごめんね?」
「いえいえ全然、そんなもう、ほら、ね。」
「語彙力語彙力、まったく動揺し過ぎだねぇ。裏稼業者なんだ暴力も脅しも慣れっこにならなきゃ。」
先程とは違う屈託のない笑みが見え、その切り替えの速さは神崎夫妻や土屋に似ているとも思う。
身に着けるべき風格ってきっとこういう思考や威嚇になる脅しとかも含めてよね・・・勉強になるけど真似はまだ・・・。
「天童さんはわかりやすくていいねぇ。神崎君は怖いから今後は貴女が来てほしいなぁ。」
「えぇ〜嫌ですよ。私は今ので多喜川さんが怖いですもん。」
「そう?おっちゃん優しいつもりなんだけど・・・仕方ないねぇ。本日はお近づきの挨拶だけで満足しておくよ。」
タブレットの電源を落とした多喜川は名刺を机に置きアマネに向け滑らせると言葉を続ける。
「都内から帰るまでにトラブルがあったらその名刺を見せればなんとかなるかな。
でも次からは護衛を連れて来てね?小競り合いであまり名を出させるとおっちゃんも上からさ・・・。」
「す、すいません・・・ホント気をつけます・・・。」
恐縮しきりのアマネは何度も頭を下げながら名刺を手に退室した。




