密輸ビジネス ④
快晴の空の下吹き抜ける風が強まり冬の到来を思わせる季節。
襟元までジッパーを上げたアマネは口元からこぼれる白い息を隠すように。マスクを口にする。
寒っ・・・夏から冬の切り替え早すぎない?今年に秋ってあった?あ、今年まだ焼き芋食べてない。
記憶を思い返すと反社行動が列挙している為追憶はやめて青空に視線を向ける。
さぁ仕事仕事。今日はあの日回収した麻薬の販路説明かぁ。
組織の次期ボスとして部下を知るのも仕事って事らしいけど・・・みんな私よりちゃんとして優秀だから気後れしちゃうなぁ。
トボトボと歩き始めてすぐの距離に停めてあった車の運転席から石田が現れ会釈をする。
「おはようございます。お迎えにあがりました。」
「あ、おはようございます。いい天気ですね。」
「えぇまったく。悪党共にはもったいない空模様かと。」
後部座席のドアを開きアマネを招いた石田はドアを締め運転席へ戻る。
「本日はお時間ありがとうございます。
ニ代目にウチの仕事も把握してもらいたいと思いまして。」
「あ、でも私、薬物販売とかわかんないのに・・・。」
「知識や指導は現場に任せて構いません。ただ上に立つ者は下に何をやらせているかを知らなくてはなりません。
その結果、管轄班の成果の向上や他の幹部管理下との共同事業の提案が出来ます。」
車を走らせながら石田は続ける。
「神崎の方もニ代目へ組織継承用に指令伝達方法の徹底した見直しとして直接対話を極力減らしTelegramや私を介した二次伝達に移りつつあります。」
「ア、ハハ・・・ザキさんの仕事継ぐなんてね・・・ねぇ?」
「各仕事は幹部が責任者なのでニ代目は深く考えずとも大丈夫ですよ。
そもそも神崎が組織結成した目的は輸出をメインとした貿易商。その多品目確保や買い付け資金確保の為、反社行動を黙認しているだけです。」
貿易、と言葉をついたアマネはカイネ来訪時に購入していた大量の保存食や乾物類と先日までガレージに箱積みされていた工具類を思い出す。
「輸出品って何処送ってるんですかね?」
「わかりません。発送や梱包も出国時の関税通過に関する許可証や書類もこちらの手を必要としないので。」
「・・・まぁいっか。私に不利にならないなら何処で何が起きようと気にしません。」
「ハッハッハ・・・失礼。反社らしい心構えになりましたねニ代目。」
えへへ、とはにかんだアマネを乗せた車は目的地であるアパートへ向かった。
所々に錆びと共に雨垂れ外壁を染め、駐車場のアスファルトに空いた穴や疎らとなった駐車線から築年数を感じさせるアパートの駐車場に車を停めた石田は後部座席のドアを開きアマネの降車を促す。
「お疲れ様です。この棟の201号室と向かいの棟の101号室が仕事場です。
どちらも闇バイトの名義貸しを利用し、登録情報から足がつかないようしてありますのでご安心ください。」
「は〜向かいもなんですね。」
道向かいに建てられたアパートはこちらより更に古びて見え、二階に続く階段や外壁触れる事を嫌悪する程度には錆びや汚れがこびりつき、雑草や空き缶も転がる敷地内は管理されているのか疑問を覚える程度には荒れていた。
「向かいの部屋は荷物の受け取り用の偽装拠点です。必要用品や発送トラブルで返送された物を置き配指定をし、回収時はこちらの部屋から周囲を警戒をしつつ2人組で取りに行かせています。」
「めちゃくちゃ慎重ですね。」
「当然です。麻薬関連はとにかく人を狂わせ敵を作ります。
警察や本職の介入は当然として、金を用意出来ない中毒者、小遣いほしさにはしゃぐガキ共。そして身内の裏切り。
これらに備える為には多少経費がかかるとしても活動場所から監視出来る偽装拠点が必要とご理解ください。」
「え、いや全然文句なんて無いです。ほんとです。」
手を左右に振りながら慌てて口にした言葉に会釈を返され更に緊張を増したアマネは助けを求めるように二階に続く階段を示す。
「た、立ち話だと目立ちますし行きましょう。行きましょう。色々教えてください。」
「これは失礼しました。直ぐに案内します。」
階段を先導する石田は201号室前でノック後にインターフォンを2回鳴らしてから鍵を取り出す。
「必ずノック後に2回鳴らしてから開ける事を符号としています。符号無しは部外者、3回鳴らす場合は脅迫を受けての来訪として対応するよう指導していますので。」
「勉強になります。」
ドアを開きながら周囲を見渡す石田の促しに会釈をしたアマネは中へと足を運んだ。
室内は玄関直ぐに簡素なキッチンがあり、向かいに開いた扉からは3点ユニットバスが見えている。
背後でドアが閉まり鍵をした石田が用意したスリッパを履いたアマネは奥の扉に視線を向ける。
「普段は2人以上詰めていますが今日は幹部の顔を知られないよう最側近1人に任せています。
その為お迎えまで手が回らない事をご容赦お願い致します。」
「全然気にしないでください。もうほんと私なんか置物か何かの扱いで・・・。」
ギィッと軋む蝶番の音と共に奥の扉が開き言葉を止めたアマネは顔を出している男と視線を交わす。
「・・・こ、こんにちは。」
「中原。幹部の天童アマネさんだ。挨拶をしろ。」
「中原葵です。石田さんの下では主に麻薬関連を任してもらってます。」
よろしくお願いしま〜す。と一礼する中原につられ、深々と頭を下げたアマネの腰の低さに苦笑した石田は奥の部屋へと促した。
「は〜〜アマネさんは茂君からの引き抜きかぁ。そりゃ運が良かった良かった。
ほら、あそこ壊滅した時逃げれなかった構成員はここいらの本職さんの奴隷状態らしいよ。」
「中原。アマネさんのご友人もいるんだ発言に配慮しろ。」
「あ、いえ大丈夫ですんで・・・ほら私、掛け子や出し子の管理班だったんで同僚の大半は闇バイトで拾った使い捨てでしたし。」
ほら〜。と笑いながらPCを立ち上げた中原はデスクトップをアマネに見えるよう調整する。
「先日ボス達が回収してくれた麻薬の販売拠点がここで、主な手法は匿名配送可能なフリマサイトにアホな商品名で偽装出品っすね。」
「アホな商品?」
「これです。これ。」
デスクトップ上に表示されたページは誰もが知るフリマサイトの出品ページと工具用品であるワッシャーの写真だった。
商品タイトルと説明文に記された『5G対応』や『電磁波対策』『集団ストーカー対策』『思考盗聴防止』といったマイルドな言い方をするなら神経質、気難しい、と分類される人向けの科学的説明が出来ない商品ページだ。
「商品ページを見ているとなぜか胸が苦しくなりますね・・・。」
「そりゃこんなもん欲しがる層向けの説明文っすから。健常者は頭痛くなるか笑っちゃいますって。」
ケラケラ笑う中原はマウス操作をしながら商品説明文下部のコメント欄を表示させ、英数字の羅列にてマウスホイールを止めた。
「なんですかこれ?」
「売人から解読用ツールを貰うとTelegramのグループに繋がるんです。
後はそっちでやりとりしてから購入って感じっすね。」
Telegramのグループを表示させた中原はトーク画面をアマネに見せる。
「こっちも符号ですか?」
「面倒っすけどスクリーンショットの流出やリークする可能性もありますんで。
内容としてはアルファベット前半が紹介した売人の通り名でKがコカイン、Mがマリファナ数字はパケ数です。で、こっちの返信は金額っすね。」
「・・・代金の回収は売人さんが?」
「主な差額回収は電子マネーの送金システムを使ってます。」
石田から渡された電子マネーの取引履歴にはページいっぱいに複数人のアカウント名と受領金額がある。
「送金確認後に指定薬物のパケ袋を真空処理してからOPP袋に詰めて匿名配送でポスト投函で仕事完了です。」
ここまでで何か質問あります?との問いに数秒考えたアマネは、全て聞き終えてからでいいか。と判断し首を横に振り先を促した。




