幕間 参謀達の1日
乾いた風が木々を揺らし葉群の木漏れ日を見る砦の城壁で伸びをしていたラズは二月程空けた久しぶりの帰郷に懐かしさを感じていた。
出発前は汗ばむ事もある気温でしたがすっかり冬支度を意識する季節ですね。
アンリ達の所へ戻ったら防寒具を買い揃えなくては。と決め身体を馴染ませるようにゆっくりと動かしていく。
「ん〜やはり鈍ってしまいましたか・・・食事が美味しすぎるんですよね。あちらは。」
「おい、なにのんきに散歩してんだ。さっさと検品済ませるぞ。」
「あら、久しぶりですねカイネ。貴女と接したら待機期間のやり直しって事はありませんよね?」
「心配すんな。私の方で待機期間を越してある。」
「それはそれは。また遊びに来られるので?」
城壁から飛び降りたラズは足音1つなく石畳に着地し先導するカイネの背を追う。
「馬鹿言ってんな。お前と違って私は忙しいんだよ。そう何度もこっちを空けられるか。」
「またまた、賭博と横領は仕事じゃありませんよ?」
「お前とサラが抜けて馬鹿共を黙らす暴力が足りてねぇんだよ。
アンリがアホ程良いもん送って来るが販売も運搬も管理出来る人材がいねえから面倒も増えていく。
これ以上忙しくなるならアンリを連れ戻してこっちの商売を回させるか。」
なるほど、と苦笑したラズは門番が開く扉に会釈をしながら潜り倉庫兼検査室と化した部屋に戻った。
「まぁまぁ。アンリさんも組織運営にてんてこ舞いですから。ノイルさんに国落としを早めて帰って来てもらったらどうです?」
「あのクソ狐が遊んでる国は今や内乱で真っ二つだからな。人死にも謀略も多く一番楽しい時だから帰って来ねぇよ。」
「それでも一応便りだけは。
カイネも気に掛けていた通りアンリさんに精神面の変質が見られますので帰還時にノイルさんのスキルが必要になるかと。」
「・・・お前の所感を聞こう。」
「今はまだ軽度の粗野に傾きつつあるだけです。
おそらくこちらの世界で受けている他者へ害せない制約の負荷が反動として顕在化しているのかと。」
オーライ。と返事をし頭の片隅に留めたカイネは目録を手に取り工具、道具類のページを指でなぞる。
「馬鹿の件はこっちでも対応考えとくが今は検品を進めるぞ。」
「わかりました。前回は糧食類でしたから今回は道具を見繕ったとのことです。」
ホームセンターさながらの雑多な道具類から規格事に小分けされたネジやボルト、ナット類を手に取ったカイネは掲げ見る。
「ふむ、前回の視察で見た時から思っていたがコレの品質は凄まじい。この精度で大量生産するのはこっちじゃ無理だな。」
「消耗品ですので売り物としても需要が見込める点も良いですね。」
「そうだな。劣化するからこそ買い手が堪えん。
生産者にとって良い商品とは壊れない物ではなく、定期的に買わざる得ない物だ。その点もこれは素晴らしい。」
目録と合わせ輸入可能数や寸法、溝の形状や用途に合わせた材質等の注釈にも目を通していく。
相変わらずアンリは必要な情報がわかっている。
細々とした情報だが無しと有りでは現場注文を受ける際の信用に関わるからな。
「着火剤と防火ジェルに耐火服・・・?んなもん頼んだか?」
「それは私の私物です。ちょっと火で学びを深めようかと。」
えへへ、とはにかんだ笑顔のラズは拷問関連の画集や呼吸器と皮膚関連の医学書と火傷の病理観察手記も手に取る。
「拷問関連の知見は人後に落ちない自負がありましたが専門家の知識は学びと発見の連続でワクワクします。
こちらで実践と学習を重ね、これらの分野で先生方と討論を交わしたいものです。」
「人目につかない所ではしゃぐぶんには私の仕事も増えんで済む。天にまします御主に配慮ある行動を頼むぞ。」
「勿論です。前のように大通りで人を燃やすなど致しません。」
あったなそんな事。と遠い目で当時の揉み消しに苦労した記憶を思い返したカイネは目をキラキラさせながら私物をわけている友人の横顔を見る。
昔から変わらんなこいつは。自分の欲に純粋で他人も社会も気にしない様はまさに子供そのもの。
まぁその性格のせいでアンリとサラが空ける時に厄介事を招かないようこっちでお留守番させられてる訳だが。
「なんです?」
「お前は昔と変わらず楽しそうだな。」
「ふふ、苦も楽も人生の彩りと知る身ですが私は楽だけで染めたいのです。」
「そりゃ良い。どう生きるも変わらんならHAPPYに生きるが賢い生き方と神も肯定してくださるだろう。」
「クロムさんは苦笑しそうですけどね。」
違いない。と笑い合った2人はのんびりと物資の検品をしながら昔を懐かしむ雑談を交わしていく。
冬支度を済ませた石田探偵事務所の室内にて赤外線ストーブの前でみかんを片手にした石田は扉が開いた音に振り返った。
扉から顔を出し会釈をしている見知った青年に溜息をつくと入るよう促す。
「中原、来るなら連絡しろと言っているだろう。」
「すんません。なんか石田さん寺だが神社に行くって聞いてたんで先に準備しよう思って。早かったっすね。」
「今しがた戻ったばかりだ。住職への貸し付けが滞りなく進んで肩の荷が下りたよ。」
「あれ?ボスは別行動っすか?」
「あぁ、に・・・幹部のアマネさんと共に海上密輸品の回収にな。戻り次第販売していくぞ。」
部下の前で二代目と口に仕掛けた不用意さに疲れを意識した石田は、気にした様子もなくスマホをいじる中原に言葉を続ける。
「末端価格10億近い量だ。本職と警官を刺激しないよう販路はフリマサイトを中心に進めるつもりだ。問題はあるか?」
「大丈夫でーす。売人には符号伝えときますし、販売用にマイナンバー本人確認済みの捨てアカも複数買い付けしてます。」
「助かる。お前が部下で随分楽させてもらっているよ。」
「臨時ボーナス期待してますよ。」
ウインク付きの小生意気なポーズを取る中原に苦笑した石田は頷く。
「住職への貸し付け分をクスリ販売したらボスに掛け合ってやる。」
「オーケーっす。ってか寺関係に貸し付けって回収出来るんです?」
「墓仕舞いによる檀家減少による収益構造により先細りする業界だから厳しいだろうな。
永代供養プランで一時しのぎしている状況だがそれも人口減少の昨今では限られたパイの取り合いにしかならん。」
「ん〜?組織の金融班はボス直属っすよね?」
「あぁ、集金率とトラブル率が高い闇金を含むファイナンス関連はマネーパワーで班間の軋轢が生じるから神崎が直接管理している。」
そっすよね。と返した中原の腑に落ちない顔に石田は補足する言葉を続ける。
「宗教法人に手を伸ばしたのは税金の免除枠と社会活動を円滑に進める信用を得る為で回収は度外視だと。
その代わり信用が足りず弾かれた物件や土地取得や審査が通らなかった競売分野にも手が出せる。地域に根ざした宗教法人なら市役所関連の手続きもスムーズに進むしな。」
「は〜なるほど、住職側が疑惑ある取引に感づいて拒否しようにも返済出来ないから強く出られないと。ボスおっかないっすね。」
「そう思うならお前はヘマするなよ。成果さえ出しているなら俺も安心して過ごせる。」
了解。っと戯けた敬礼をした中原と石田は今後の収益構造の柱となる麻薬関連の販売手法を詰める事にした。




