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密輸ビジネス ③

夕闇が水平線に沈み、月や星が空を彩り始めた夜空を眺めるアマネは、船酔いにより海に嘔吐をしているアンリの背を見る。

縁から身を乗り出した姿勢で時折痙攣しながら揺れる姿は危険では?と思うが、ベルトに繋がれたロープにより海に投げ出されずに済んでいた。


「ザキさん〜大丈夫ですか?」


海面に顔を向けたまま手をヒラヒラさせて返事とした姿から厳しいんだろうと思い溜息を溢す。


「アンリはほっといて良い。あいつは船に乗るといつもああだ。」

「いや前もそうでしたんで船酔い体質なのは知ってますけど・・・死にません?あれ。」

「大丈夫だ。遊園地に行った時にティーカップでぐるぐるした時はもっと吐いてたからな。」


サラのジェスチャー付きの説明からその時の情景を想像したアマネは吹き出し慌てて咳払いをする。


「お二人の遊園地姿似合わないですね。」

「ハッハッハ。TVで見たから行っただけでそんな面白くなかったしな。

物珍しさはあったが酒が飲める場所の方が私好みだ。」


氷と酒類を詰めたクーラーボックスに座ったサラはさっきまで見えていた家々が生む営みの光量と潮の匂いが変わった事で陸からそれなりの距離が離れた事を確信する。


「そろそろ仕事だ。ここじゃアンリは役立たずだからな。しっかり働けよ。」

「はい!よくわからないまま連れてこられたのでザキさんに聞いてきます。」


繋がれたロープを最大半径にヨタヨタ動き回っているアンリに駆け寄った。






日毎の予測海水温表と海流推測図を照らし合わせた海図を読む船長は、GPS上の船舶位置の付近に海上保安部の巡視船がいない事を無線通信等を用いて確認していく。


問題ないな。まぁ神崎が船を出すって日に問題があった事がないから当然っちゃ当然か。

奴は勘が良いのか運が良いのかわからんが危険を遠ざけるナニカがある。


操舵室の扉から顔を出した船長は壁際躓き倒れた馬鹿のケツを足先で小突いた。


「神崎、そろそろだ。漂流物のGPSはどうだ?」

「うぅ、海も船長も優しくない・・・。」

「馬鹿言ってねぇで仕事しろ。俺ぁさっさと帰りてぇんだ。」

「俺だってそうさ・・・陸地とサラを愛してる。」


ヨロヨロと半身を起こしたアンリはスマホを取り出しこちらを見ているアマネ手招きする。


「俺に代わって仕事をしなさい。

そのGPSアプリを用いて船の誘導出来るね?」

「は、はい。船長さん?」

「嬢ちゃんが指揮しな。俺ぁただ釣客が行って欲しいって所に船ぇ走らせてるだけだ。」


縁に寄りかかったまま海を見ているアンリとその馬鹿を憐れむ船長に数度視線を送るが助け舟はないと判断したアマネはスマホに視線を落とした。


座標は出てる・・・向きもわかる。でも目印が無いのとアプリ上に反映されるまでのラグがあるから通り過ぎないようしなきゃ。


「船長、私東西南北全然わかりません!海ならなおさらです!!」

「・・・んな事力強く言うんじゃねぇよ。不安になっちまう。」

「先に言っておいた方が怒られないかと思って。」


えへへ、と笑ったアマネは操舵室に招かれアプリと室内のモニターや表記図、メーター類の説明を受けた。


「だいたいでいいから指示してくんな。」

「じゃ、じゃあ・・・とりあえず今の座標位置のこの数字までお願いします。」

「はいよ。サラの嬢ちゃんに投網でもフックでも用意もさせとけよ。」


操舵室の窓から見える船首でクーラーボックスを椅子に缶ビールを飲んでるサラを示す。


「景気よく飲んでるが海に缶を捨てさせんな。1つでも落としたら海に叩き落として拾わせるからな。」

「は、はいぃ。直ぐ注意してきますんで!?」


慌てて操舵室に出たアマネが濡れた船床に滑りこける姿に盛大な溜息をついた。







ポンポンと音を立てながら港近くの釣具屋に到着した船は、船長の操作でゆっくりと錨を降ろし係船柱にロープを投げてから足場板を渡した。


「お疲れさん。おら、さっさと帰れ。人の船にゲロ付けやがって。」

「ごめんよ・・・まだふらふらだから小屋で休ませて・・・。」

「うるせぇ。俺ぁ帰って酒飲んで寝んだ。

ったく・・・嬢ちゃん達の方がよっぽどちゃんとしてんな。」


項垂れるアンリとクーラーボックスを担ぐサラとアタッシュケースを両手に歩くアマネは陸に立つと苦笑した。


「アンリが汚して悪かったな船長。今度高い酒持ってこさせるから許してくれ。」

「ありがとうございました。貴重な経験出来ました。」

「おう、馬鹿がそんなだが気ぃ付けて帰れよ。なんかあっても俺と船の事は言うんじゃねえぞ。」


小屋からバケツとデッキブラシを取り出した船長は、シッシッとジェスチャーで追い払いながら闇に消えていく背を見送った。




「はぁ、なんか疲れましたね。潮風でベタベタですし。」

「だなぁ。さっさと帰って風呂入って酒飲みたい。」

「サラさんはずっと飲んでたじゃないですか。」

「大人しくするには酒が必要なんだよ私は。」


車窓を眺めるサラは肩に寄りかかるアンリがうめき声を出しながら瞼をパチパチとしている事に気付き苦笑する。


「起きたか?」

「・・・あぁ、今回もまた船の克服は出来なかった。足漕ぎボードで鍛えたあの時間はなんだったのか。」

「ザキさんほんと三半規管弱いですね。」

「そろそろ認めなくてはならないのかもしれないね。今後、船長との付き合いはアマネさんの業務としよう。」


えぇ!?と嫌そうな声を上げたアマネはミラー越しにアンリと目が合い直ぐに視線をそらした。


「・・・私にやれるのかなぁ。」

「大丈夫大丈夫。今回の海流を用いた密輸方法はアフリカ沿岸部の一部地方で常習的に用いられている手法だよ。」

「ここ日本です。」

「常習なんだからこの国用にブラッシュアップすれば再現性が増すって事。

今回のデータは俺の方で精査しておくから次回はもっと効率よく回収出来るよ。」


でも、と言い淀んだアマネは降りるICの標識を確認し左レーンへ車を移す。


「私、ザキさんと違って海外に伝手ないですし・・・なんなら海外旅行もした事ないので・・・。」

「海外旅行行かなくてもSNSで誰とでも繋がれるよ?翻訳アプリ使えば言語の壁も無いから楽だし。」

「・・・ザキさんって人見知りって言ってたのにアクティブですよね?」

「反社活動の時は勇気を出してるの。芸人さんがプライベートで大人しいのと一緒だよ。」


一緒にするのは失礼では?とも思うが言いたい意味はわかるので触れない事にしたアマネは降り口のICへハンドルを操作しながら言う。

  

「他の業務が立ち上げ時期で忙しいんで海上密輸は回収だけこっちでやります。それで勘弁して下さい。」

「仕方ないね。だが俺達が隠居する前には人脈事移管するからソレ用の人材育成も進めておきなさい。」

「わかりました・・・具体的に何からとか教えてくれます?」


吹き出したサラと顔を見合わせたアンリは。先の長い教育になる予感に肩を竦めた。

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