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興行準備 ②

オフィス街から5分程離れた雑居ビルの一室にて顔を突き合わせている4人がいる。

パイプ椅子に座る多喜川と篠崎の苗字をローマ字綴りした芸名で活動しているタレントの女性が並び、机を挟んだパイプ椅子にアンリとラズがいた。


「いやぁ急な来訪ごめんね多喜川さん。」

「本当だよ神崎君。そっちのおっかないお嬢ちゃんも連れて来るなんておっちゃん震えちゃうよ?」

「護衛だもん。フロント企業のプロダクションとはいえ本職絡みのお付き合いなら外せないよ。」

「余計な面倒が起きなければ大人しくしていますので。」


柔和な微笑みを浮かべるラズは会釈をする。


「それで先日送ったメールと説明を詰めたかったんだけど・・・そっちの篠崎さんだったかな?勉強不足で申し訳ないけど貴女が誹謗中傷を受けたってタレントさん?」

「はい。資産が無い為示談金の支払いもされず中傷も止めないのでもうどうしたらいいのかわからなくて・・・。」

「お気の毒に。他人なんてどうでもいいのに真っすぐ受け止めてしまうなんて・・・純真な心に俺は泣けてきたよ。」

「神崎君〜馬鹿にしてない?この娘は本当に困ってるんだ。」

「褒めてるんだよ。外に助けを求められる人ばかりじゃない。

抱え込まず行動に移せる貴女は敬服に値する。」


とはいえ、と頬をポリポリと書いたアンリは憐れみを込めた視線を送る。


民事訴訟をおこしても差し押さえようの無い資産じゃやるだけ損か。そりゃ俺達みたいなモンに声がかかるか・・・。


「さて、興行の概要を話すに辺り篠崎さんはその・・・退席した方が良いと思うけど?」

「だな。挨拶は済んだんだ。マネージャーに送ってもらえ。」

「社長!私は・・・大丈夫です。神崎さん達がどんな人かはだいたいわかっています。」

「・・・知らない方がずっと良い。そんなに世界もあるんだが勇気ある一歩、いや愚かな選択をしたと受け止めよう。」


多喜川が止める前に笑みを浮かべたアンリは言葉を続ける。


「手続きが済み次第多喜川さんからリスト化されたゴミはうちが債権譲渡を済ました上で引き取り、興行用のパフォーマー兼雑用係として飼育する予定だ。」

「飼育・・・。」

「ホモ・サピエンスの意味は、知恵ある人、賢い人、らしいんだが、示談金すら用意出来ない彼等は賢いかな?」

「賢いとは言えないね〜。」

「だよね。多喜川さんの同意は嬉しいなぁ。

俺は人間も動物と一括りに捉える平等主義者だけど頭の悪い個体がいると学名に反してしまう。

となればアホの排除と矯正は人類社会全体を憂う善行と理解して頂きたい。」


ね〜。と隣のラズと笑い合うアンリは鞄からGPS付き電子錠を取り出し机の上に置いた。


「アプリを親機にした逃走防止の電子錠でね。親機から半径50m以上離れると警告音後に電流が流れる仕組み。

試しに使ったら気絶はしないけど激痛でのたうち回る程度には強力だったよ。」

「あの時のアンリさんは地べたを這う愉快な踊りでした。」

「しっかりロックしてたし電流をOFFにする方法がわかんなくて絶望してたからね。後1分遅かったら失禁もやむ無しな状況だった。」

「ふふ、強い電流をウケると尿道括約筋が緩まないので失禁出来ないですよ。」

「へ〜そうなんだ。また1つ賢くなっちゃった。えへへ。」


こいつら人生楽しそうだな。と思う多喜川は電子錠を手に取り付属してあるマニュアルを読む。


「お〜解錠も親機のアプリからかぁ。

お、離れなくても任意で電流流せるのはお仕置きするのに良いねぇ。うちも欲しいなぁ。」

「ダメダメ。軍の横流し品で数に限りがあるからあげないよ。」

「まぁ仕方ないね〜。で、これ付けて働かせるのはわかったけど先日の熊狩りとは結びつかないかなぁ。」

「熊狩りはショーにご参加頂けないわがままなゴミを破棄する際の余興用のテストプレイだよ。興行の本命はゴミ同士の何でも有りの殺し合いさ。」


スマホを操作し、ケンと打ち合わせをした興行内容と目星を付けている廃墟や空き家の見取り図、当日の流れを記したプランをタブレットに送る。


「素人同士の喧嘩じゃ盛り上がらないからね。覚醒剤を打って興奮状態にさせた上で武器有り金的、目潰し有り、殺しも有りのショーをLIVE配信したいんだ。

ほら、刺激に飢えた富裕層をターゲットに賭博対象で採算を取る形で。」


タブレットの資料には室内戦であれば、ボールペンや蛍光灯、花瓶、ガラス瓶や包丁、窓ガラスからバットが使用想定武器。と記載され、工事現場には鉄パイプや角材、土嚢、ヘルメット、銅線等ワイヤー、ペンキやシンナー、ガソリン等と記載されている。


なるほど、と頷き横から覗く篠崎が引き攣った表情を愛想笑いで取り繕う姿に苦笑した多喜川は正面に視線を戻した。


「おっちゃんも1枚噛める?」

「ん〜興行には直接関わらない方が良いと思うなぁ。手違い1つで責任者ナンチャラって暴対法食らって組長さんまで火が回る案件だよ?」

「そりゃおっかないね〜ゴミ共が関わるなら

情報統制も完璧とはならんもんなぁ。」

「そゆこと。でも賭博側なら噛めるんじゃない?八百長はしないけど映像観戦権となるIDを幾つか融通するから『そっち』で外部賭博でも観戦料でもとりなよ。」


悪いねぇ。と邪悪と形容出来る笑みの多喜川と握手と共に正式な書面も交わす。


「お礼って訳ではないけど都内のゴミ人材の運び出しはおっちゃんの組も手伝うよ〜。」

「いいの?助かるなぁ。」

「いいよいいよ〜。あんたらに都内ではしゃがれる方がおっかないからねぇ。」

「手出しされなきゃ何もしないのに。これでも穏健派なんだよ俺達は。」


ね〜。と顔を見合わせ頷き合うアンリとラズとは生涯認識が合致する事はないと確信した多喜川はタブレットを操作しながら言葉を作る。


「債権譲渡手続きと対人関係の清算に一ヶ月かからない位かなぁ。

あぁそうだそうだ。このお馬鹿さん今も誹謗中傷してるんだけど神崎君なら生活保護者からも追加で金引っ張ってこれる?」

「ん〜今って民事訴訟から刑事罰に移す旨を弁護士に説明させる方向で詰めてるんだよね。

ほら、刑事罰になったら生活保護って打ち切りだからお馬鹿さんでも示談金用意するでしょ。

ってなると新規の金融は厳しそうだから・・・興行で死んだ身体から臓器販売でもする?」

「覚醒剤打ったブツじゃ買い手難しいよ〜。」


そりゃそうだ。とケラケラ笑うアンリの無邪気な姿に悍ましさを感じ取った篠崎は顔を曇らせ視線を逸らす。

その僅かな動きですら反社同士の場では口実になる可能性を理解している多喜川は、手元のスマホを操作し画面に退室するよう文面を打ち見せる。


「この娘の事だけど次の仕事の時間来ちゃったみたいだから上がらせるよ。」

「おや勤労なのは実に美徳だ。心労重なる時期だからこそ気を抜かないよう踏ん張らなくてはね。」

「は、はい・・・失礼します・・・。」


青い顔で退室し閉じた扉の音から数秒間を置いたアンリは頬を掻いた。


「やっぱ聞かせない方が良かったんじゃない?気にするタイプでしょあの子。」

「神崎君も少し位気にした方が良いと思うけどね〜。」

「俺にとって債務者は屠殺場に向かう家畜同様さ。彼等の人生にいちいち関心もってたら疲れちゃうって。」

「ハッハッハそりゃそうだ。組の若衆も神崎君位しっかり終わってて欲しいんだが・・・難しいねぇ。」


悲しげに呟いた多喜川と新事業と配信前のテストプレイを重点的に詰めて夜は更けていく。

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