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密輸ビジネス ② 

欠けた月が穏やかな海に映り、潮騒の音が耳に優しく届くある夜。

特殊詐欺運営として借りた一室にてやや緊張した面持ちで訪れた男を招いた斉村は、机を挟みソファへ案内し観察するように来訪者の姿を視界に収めた。


大柄な身体に髭を蓄え浅黒い肌が特徴・・・年齢は40代位か。

神崎さんから聞いていた情報と写真と一致するが、この人もまたただならぬ雰囲気だな。


「あ〜ファハドさん?日本語わかるって本当かい?」

「オーモチロンね。大丈夫大丈夫よ。私日本大好きデス。」

「良かった。英語は何とかなるんだがアラビア語もタガログ語も心許なくて。」

「大丈夫よ大丈夫。神崎から聞いてますデス。私も言葉おかしかったらごめんなさいネ。」


机に置いた2つの大きいアタッシュケース越しに握手をした2人はやや打ち解けたように微笑む。


「神崎人使い荒いよ。この量運ぶの私ヒヤヒヤだった。」

「お察しします。商品を確認しても?」

نعم(わかりました)


アタッシュケースの鍵を開け、留め具を開放したファハドは見せつけるように蓋を開く。


「コカイン、マリファナ共に10kgずつヨ。浮袋と梱包無ければもうチョット詰めたケド日本で捌くナラ10億以上は見込めますデス。」

「ふむ、検査キットで確かめるよ?」

「オ〜日本人のドラマだと確認、舐めるネ。チャレンジしないカ?」

「商品が本物だとキマるでしょ。馬鹿以外やらないよそんな事。」


アンリから商品を事前に聞いていた斉村は検査薬に粉末を入れ軽く振り反応により青色へと変色した液体を掲げる。


「簡易検査はOK。ん、後日もう少し調べるけど今はいいかな。」

「Thanks.ありがト。شكرًا لك(ありがとう)

「こちらこそ。報酬はアンリさんから?」

「既に頂いてるヨ。前払いじゃなきゃやらないヨこんなこと。」


そりゃそうだ。と苦笑した斉村は心ばかりのお礼として24金のネックレスを渡す。


「今後も仲良くしてほしいな。って下心付きの手間賃。」

「ふっふ〜。神崎が見込むだけある世渡り上手な日本人。私大好キよ。」


手触りと重さ、刻印を確認したファハドは笑みを溢す。


「この国で困ったら力なれる。刑務所にも友達沢山、政府にもネ。」

「オーライ、仕事がやりやすくなりそうで助かるよ。アンリさん抜きでも良い関係を築きたい。」

「モチロンモチロン。ただ、奴はこの量の薬物捌けるカ?」


ファハドの懸念は最もだ。と斉村は思う。

日本は子供でも麻薬が買える程度には薬物大国ではあるが検挙する治安組織の優秀さが世界トップの水準である事も事実である。

また、裏社会としても薬物関連の仕事は本職が大部分を管理しており、新規参入者に対して風当たりの強い業界を構築している。

事実、少し前に神崎が都市部で売り歩いた際は本職を刺激し過ぎた結果、抗争寸前までいった事から億単位を優に超える薬物を販売するリスクは火を見るより明らかであるからだ。


とはいえ、アンリさんは頭おかしい系だからどうにかする方法はあるんだろうなぁ。


短い付き合いだが、アンリの性格と本質を見抜いた自身の直感が可を判断している以上斉村は笑って頷く。


「あの人なら既に方法は用意しているでしょう。」

「そうカ。神崎に会った事ナイから少し心配だったヨ。」

「心配ですか?」

「日本支部、組織に成果出さナイ。行動しない。日和見ばかり。アジア支部で1番下に見られてる。

神崎違う。成果出す。案も出す。でも日本支部だから嫌われてる。」


肩を竦めながら寂しそうに眉を潜めたファハドは言葉を続ける。


「神崎もったいナイ。こっち来い言ってるけど話聞かナイ。」

「ファハドさんはアンリさんを認めているのか。」

「当然、仕事出来て金払い良い。嫌うより仲良シ大事。」

「ハハッそれは真理。安心しました。あの人そちらの組織の事はまったく話さないもので。」

「こっちの幹部は頭お花畑の作業員踊らせるだけ。自分で動く出来ナイ、つまらないからネ。」


懐から取り出したGPS用タグ2つとアタッシュケースの鍵を机の上に置いたファハドは立ち上がる。


「手順聞いてマスです?」

「えぇ、クスリを確認後にタグを入れ封をする。アンリさんにGPS識別番号と鍵を送る。で良いかな?」

「ウンウン。問題ナイから私そろそろ帰るネ。クスリある所、長居したくナイの。」

「ありがとうございました。今度来る時はHALALFOODでもごちそうしますんで。」

「楽しみしてるヨ。バイバイ、مع السلامة(さようなら)


ウインクと共に出口に向かうファハドを見送った斉村はアンリへ連絡をとる事にした。





「ほへ〜お疲れ様。荷物が届いて良かったよ。」

「あぁ、ファハドさんとも仲良くなれた。悪人って感じはしなかったがこちら側なのかい?」


日本時間で日を跨ぐ時刻に受けた斉村からの連絡をアンリは、ヘッドフォン装備で映画鑑賞しているサラの膝に頭を預けたまま足を伸ばす。


「彼の解釈している信仰教義では問題ないらしいよ。」

「彼の、か。」

「一般的に、というか国際法では悪人で外道だね。表立って活動していないだけでテロリストだし。」


やっぱりか。とこぼした声に苦笑したアンリは、下から覗くサラの胸部を拝みながら続ける。


「仕事はきちんとする人だから安心して。

そもそも彼等も他所と揉めたりする程人材と資金に余裕ある組織じゃないから刺激しなきゃ無関心だよ。」

「・・・念の為揉めたら連絡するからとりなしてくれよ?」

「はいはい。シゲさんの頼みなら断わらないとも。」


それで、と言葉を置いたアンリはスマホのメモ帳を開きフィリピンを出港する豪華客船の予定表を見る。


「寄港地近くのホテルを予約しておくから当日フロントか部屋で船員に渡してほしい。」

「了解だ。船員の顔写真と符合は後でかい?」

「そうだね。彼は環境保護団体の方の末端構成員だからイギリス支部の飼い主に許可取らなきゃいけないし。」

「あ〜アンリさん嫌われてるんだろ?大丈夫なのか?」

「ヨーロッパはアジア人差別激しいからね〜。選民主義者の甘過ぎる思想なんざ適当に煽てておけばなんとでもなるよ。」


ゲラゲラ笑うアンリはサラの視線に気付きお口をチャックするジェスチャーを返す。

それに頷いたサラはヘッドフォンの位置を調整し再び映画に視線を戻した。


「手間をかけるけどよろしくね。一応シゲさんの身に危険が迫ったら捨てていいから。」

「捨ててってかなりの額だぞ。」

「末端価格はね。現地で買うなら大した事ないのよ。

少し前まで活動資金としてアフガニスタンに流していたらしいけど、最近は薬物排他活動が盛んで大口の買い手が少なくなった上、生産過多の在庫のダブつきでARMM内の治安に影響出てるから御新規の買い手さん歓迎状態だもん。」


なるほど、と呟いた斉村の声に反応したアンリは言葉を続ける。


「仕入れたいならファハドさんに依頼すると良い。ただ、フィリピン内で麻薬を捌くのはなかなかに大変だよ。

前大統領の超過激な政策で麻薬売買に関する横繋がりや販路がボロボロになっている上、地域住民の意識向上から密告が横行している。」

「ハハ、治安組織が訪ねて来るのは悪夢だな。」

「刑務所が満員だから拘束するより射殺している地域もあるもんね。

前大統領時代にFBの更新が止まった友人が3人いるんだけど・・・まぁ死んだんだろう。」


悲しい話だ。と呟いた斉村は麻薬関連を仕事として扱うのは時期尚早と判断した。

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