新事業構想 ①
じき正午を迎える時刻、新東名高速道路上のSA駐車場は平日ともあり施設側を除けば閑散としていた。
その閑散とした駐車場内の大型車両専用の駐車スペースからさらに外れた位置に並ぶ2台の車があった。
そのうちの一台である個人運送業の車内にてキャリーケース内の遺体を確認していた陳は深く溜息をこぼす。
四肢に欠損無し、けど顔周りの傷が深いね。
特に唇周辺の重度の火傷と眼球破裂、耳とこめかみの縫合跡・・・拷問でもしてたか?
一通りの確認を終え、キャリーケースを閉じてから防水段ボールに脱臭剤と共に収め梱包し直した陳は隣の車両の後部座席をノックする。
「神崎、アレ売り物ならないよ。」
「ボスは今お嬢さんと共に買い物行っちゃったよ。
まぁ入って入って。ほらほらお店でたこ焼きとか買ってきたんだ。陳さんも食べるだろ?」
「謝謝、頂くよ。」
陽気に笑うケンからお茶のペットボトルとたこ焼きを受け取った陳はペットボトルを逆さにし軽く握ってから滲みや液漏れが無い事を確かめ、完全な未開封品である事を確認する。
「・・・警戒、昔のクセよ。」
「俺も注射器で睡眠薬入れられた事あるからソレやるよ〜。常識常識。たこ焼きには出来ないけどね。」
『入れられた』、との言葉から制裁を受けた過去だろうが、何処までも楽しげに笑いうケンはスマホを確認しながら言葉を続ける。
「きーちゃんもボスが乗ってきた車を解体ヤードに届けられたってさ。グエン君がこっちに送ってくれるまでまだ時間あるし俺達も観光行っちゃう?」
「荷物置いて遊ぶ駄目ね。神崎に殺されるよ。」
「だよね〜知ってた。でもボスはずるいなぁ。あんな美人さんとデートだもん。」
「ケン。あの女関わる良くない、悪鬼羅刹の類よ。」
たこ焼きを頬張りながら窓を見る陳は、合流時に紹介されたラズを思い返す。
アレが纏うは濃密な死の気配。
今まで会った誰よりも死を身近にした怪物と一緒は流石に怖いね。
首を傾げながら、そうかなぁ?と呟いたケンはフロントガラス越しにこちらに歩いてくる2人に気付き運転席へと移動を始める。
「ボス戻ってきた。」
「ん、了解。助手席移るよ。」
手にした飲食物を水平に保ちながら助手席に置いた陳はドアを開けた所でアンリ達を迎える。
「あ、陳さんもお出かけ?トイレの手洗い水の勢い凄くてびっくりしちゃったよ。気をつけてね。」
「違う神崎。前に移動する所ね。」
「場所空けてくださったんですね。ありがとうございます。ほらほらアンリさんもお礼言わないと。」
「気を使わせてごめんね。ありがとう。」
2人が後部座席に収まったのを確認してからドアを閉めた陳は助手席に乗り込みミラー越しに袋を開けるアンリを見る。
「神崎、アレ売り物ならないよ。損壊酷過ぎ処置大変、採算合わないね。」
「ん?あぁ大丈夫大丈夫。あれはプレゼント用だから俺が買い取るよ。処理するにしても痕跡無くしたい人でもあるし。」
「ボスの口ぶりからすると揉め事?」
「そうなの、裏カジノ帰りに絡んできたお馬鹿さんだよ。どっかの組員なのか知らないけど脅されちゃったら口封じしないと安心して寝れないじゃない。」
俺って小心者だからさ。と笑いながら串に刺さった唐揚げを頬張るアンリは缶ビールを開ける。
「・・・開けちゃったけど帰りの運転俺ならケンさん飲む?」
「いいよいいよ。ボスに運転させないって。こっちはきーちゃんもいるから大丈夫。」
「ごめんね。ありがとう。」
クピクピと飲み始めたアンリの横でクレープを頬張るラズは目尻を落としながら首を傾げる。
「エミルさんに遺体のプレゼントならフェミナさんも欲しがりますよ?」
「ん~~フェミナさんは園芸に役立つゴム長靴とツナギでいいんじゃない?」
「流石に怒りますって。」
「大丈夫大丈夫。庭にミント撒くぞって言えば引き下がるよ。多分。」
「ふふ、絶対ブチギレますね。」
え〜。と唇を尖らせたアンリは面倒気味にスマホを操作するとAmazonで室内用の温室セットと数種類の花の種を購入し頷く。
「ラズが帰る時の輸出品目に園芸用品も追加しとくから渡しといて。」
「はい。わかりました。」
「神崎。お前が買うわかった。予算はいくらだす?」
「陳さんの希望額でいいよ。貴方はプロだ。予算以下の仕事をしないと信頼している。」
手を振り了承を示した陳は残ったたこ焼きを頬張るとドア開ける。
「腐敗進む前に取り掛かるね。見積もりは今週中に。」
「ありがとう。引き渡し日を心待ちにしているよ。」
「バイバイ陳さん。また今度仕事しようね〜。」
ケンにも会釈をした陳は自分の車に戻るとエンジンをかけそのまま出発した。
「陳さん忙しそうだなぁ。いいなぁ〜。」
SAの本線合流線に消えた車を見送ったケンは羨ましそうに呟きミラー越しにアンリを見る。
「ボス〜学生相手のファンドマネージャー以外の仕事も回してよ〜。」
「おや、働き盛りだね。生活保護受給更新もそろそろなのに良いの?」
「もう終えた〜。最近はホームレスや生活保護者関連だけじゃなく自殺志願者集めるのも部下に回したから暇なんだよ〜。」
「ふむ、貴方は本当に部下を上手く使えるね。俺よりずっと良い上司なんだろう。」
照れた用に笑うケンはお茶を飲み喉を潤す。
「本当はアマネさんに回そうかと思っていたけどケンさんに任せるよ。
早速昨日持ってきた案件があるから仕事へと昇華させよう。」
「お、アマネちゃんから東京行ってたって聞いたけど何かあったの?」
「裏カジノで集金役の本職と少し揉めてね。和解条件でお仕事を手伝う事になったんだが・・・なんでもフロント企業に所属しているタレントさんがSNS上で誹謗中傷を受けているらしい。」
悲しい事だ。と呟きながら唐揚げを食べ終え御当地ポテチを膝の上でパーティー開けしたアンリはビールで喉を潤す。
「よく聞く話だなぁ。開示請求しても俺みたいなニートなら和解金も払えないから面倒ばかりだろうね〜。」
「そうそう、そのゴミを債務や身辺整理させてから連れてこうと思ってね。一応案はあるけど何か使いたい?」
「その関わらせ方だと運び屋とかでヘマされたらこっちに飛び火しちゃうか。
やっぱ昔ながらの山奥か海外で強制労働させる位じゃね?肉体労働・・・いや、この際だからSNS上での詐欺関連の人員だ。」
ケンとラズがポテチをつまみだした為、取りやすいよう近くに寄りながら首を横に振る。
「開示請求されるようなアホは能力は低いけど自己肯定感高めってオツムが不良品だよ?
詐欺の本質は人と心に寄り添う仕事だから任せられないって。」
「そっかぁ。ゴミの活用って難しいな。お姉さんは何か案あるんです?」
「私は・・・趣味に使いたいので回して欲しいと要望を出したのですが断られてしまって・・・。」
そりゃ駄目でしょ、と声を洩らしたケンは苦笑する。
「ボスの案は?」
「ん?あぁ、とりあえず興行に使おうかなって。
秋田辺りで熊を引き取って戦わせる画をネット配信するか、ワンルームで文字通りなんでも有りの人類底辺決定戦とかどう?」
「お〜画的に面白そうだけど素人が観られる動きになるかが心配かな。」
「そこで債権譲渡による取立てとして追い込みだよ。
死なない程度に痛めつけて返済方法としてショーへの出演にサインさせる。
借金で首が回らないような人生プランしか歩めないカス知能じゃ命がけの興行の立ち回りが理解出来ないだろうけど覚醒剤でも打てば興奮状態ではしゃぐんじゃないかな。」
「・・・オッケー。やるよボス、実際面白そうだし。」
サムズアップと共に朗らかな笑顔に変わったケンは興行向けの事業としての構想を始める。




