アマネ班 ②
秋晴れが見渡す限り続く朝日の光を受け起床したアマネは頭痛から二日酔いに気付き昨夜をの記憶をボーっと思い返していた。
サラとの夕食後に初回料金で飲めるホストクラブへ連れて行かれ、サービスが悪いといちゃもんをつけた所まで思い出し頭を抱え蹲る。
あぁサラさんの仕事の一つ、敵対組織の店への嫌がらせってコレかぁ。
本来なら初回料金中に少し外れる程度の融通を利かせられるか確かめ、直接手を下す必要があるか見極める筈だが昨日は私がいて接客した人達も少し質が悪かった。
その場でコロコロ変わる軽薄な言葉にサラさんは不機嫌となり店で暴れ出しそのまま帰ってきたのだ。
思い返すと頭痛が強くなり、大きく項垂れた時、洗面台から水音が聞こえサラが顔を出した。
「起きたか。おはようさん。」
「お、おはようございます。」
「武藤がな。防犯カメラとか証言改竄して店の件、揉み消すからしばらく大人しくしてろって言ってたぞ。」
「う・・・大丈夫なんです?」
「いつも通りなら私らを容疑者から遠ざける改竄調整に一週間って所だろ。
こっちでやるのは当日着てた服と靴の処分と・・・武藤の判断次第だが、髪を染めるか切るかするかもな。
もろもろ終わるまでのんびり沖縄にバカンスでも行くか?アンリに言えば米軍繋がりで確保してあるの向こうのセーフハウスを貸してくれるぞ。」
サラの言葉に、それも良いかも。と思ってしまう程度には感覚が麻痺している実感を胸にしまうアマネは続くサラの言葉を聞く。
「その辺りは後で決めるとしてだ。
お前が寝てる時にアンリから電話があってな。昼過ぎには帰って来るのとケンと陳に仕事させるって言ってたから私らも朝飯ついでに石田に合流だな。」
「は、はい。あの、でも、リモートとかって言ってましたよ?」
「・・・私はリモートを知らん。モヒートみたいなもんか?」
「カクテルではなくPC上でのやりとりですね。」
「そうか・・・アンリはそのカタカタで遊ばせてくれないからわからん。
そのリモートはお前に任せるから飯でも買ってくるよ。」
首を傾げながらラフな姿で玄関に行く背に苦笑したアマネは石田に連絡をし時間や流れの確認を始める事にした。
PC上でリモート中相手にこちらを映さないよう設定してある事を確認したアマネは念の為、カメラを絆創膏で覆い指差し確認をしながら大きく頷く。
リモート中のカメラ映像を管理するzoom社にも残さない為って言ってたけどこれで良いのかなぁ?
念のためもう一枚重ね張りして席に着いた頃には、石田から部下になる人達の挨拶を指定された時間まで残り5分と迫っていた。
深呼吸をし、手元のメモ帳と筆記用具、未開封のペットボトルを用意し終えてから横で缶ビール片手にTVを観ているサラに視線を送った。
「そろそろです。ちょっと緊張しますね。」
「ん?あぁもう時間か。どれ、嘘つきがいないか私が見てやろう。」
「はい、よろしくお願いします。」
秒針の音に合わせ室内をウロウロと行ったり来たりしていた山崎は、スマホと室内時計共に5分前である事を確かめPCの位置やzoomのルーム番号招待等を始めていた。
その直ぐ後ろで壁際に並ぶ3つの椅子には男女3名が腰掛けており、その3人もまた緊張を表情に露わにしている。
「始まる前に言っとくが画面向こうにいるのはボスじゃねぇ。だが口答えも質問もすんなよ。」
「はい・・・あの・・・。」
「その、『あの』を止めろって。
相手はちょっと頼り無いが組織の幹部だ。この40分は言葉1つに気を配るつもりでいてくれ。」
緊張から誰も喋らないまま時間になり、指定されたルーム番号にアマネが入室した事を確認した山崎は一度咳払いをし口を開いた。
「天姉お疲れ様です。お時間ありがとうございます。」
「お、お疲れ様です。その人達が?」
「はい。石田さんが行った面談で使いもんになるかもって奴等っす。
Telegramでこいつらの経歴とか送ったんですけど確認しました?」
「あ、えっと、ちょっと待って・・・。」
ボリュームを上げたPCからゴソゴソと音がする間に手振りで立つよう指示した山崎は、1分程後に確認し終えたアマネの声を聞く。
「大丈夫です。続けて下さい。」
「了解っす。天姉の直属ではあるんすけど、石田さんから命令系統とリスク分散で俺の下に付けるって形になるらしいんでそこはよろしくっす。」
「わかりました。問題ありません。」
ありがとうございます。とPCに向け会釈をした山崎は自身に近い位置の女性を示す。
「マナさんの所から引き抜いた面談とSNS担当させる寺内です。おい、挨拶。」
「は、はい。寺内楓です。その、借金の肩代わりありがとうございます。」
「あ、はい・・・借金?」
「経歴の所にあるよう、奨学金絡みの借金を石田さんが立て替えてこっちに引っ張ってきたんすよ。」
手元の資料を見る山崎は、アマネ班所属期間は利子と性産業務の停止する条件とミスや怠慢による損害時は実損分を上乗せ請求する同意書を確認し頷く。
「天姉が管理してる組織のアカウントはこい
つに引き継がせるんで移譲手続きよろしくっす。」
「あの、これザキさん発案事業なんでミスは本当にヤバいのわかってますよね?」
「・・・失敗したらこいつらを替えるだけなんで天姉は安心して下さい。」
冷酷に言い切った山崎は、その横で一礼をした男を示す。
「んでこっちが雑務、情報関連を任せる永山です。おい。」
「うす、永山理久っす。」
ゴキンっと鈍い打音が響き永山を殴り倒した山崎はそのまま3度程蹴りを加えてから蹲る永山の髪を掴んで頭を上げさせた。
「なにナメた挨拶してんだガキ。言葉1つに気を配れつったよな?あぁ!?」
「ず、ずいまぜん・・・。」
掴んだ髪をそのまま地面に叩き付け、身を丸めた防御姿勢で縮こまった永山にもう一度蹴りを加えてから山崎はPCに向き直る。
「すいません。躾出来てなかった馬鹿が失礼しました。よく言い聞かすんで今回はどうか。」
「あ〜アハハ・・・大丈夫、大丈夫・・・貴方の真似しちゃったとかかなぁ。なんて・・・。」
「なら余計許せんすね。俺と同等なんて思い上がりさせんよう後でシメときます。」
山崎は今の行動で完全に萎縮している寺内に永山の治療をするよう指示してから残る1人の横に立つ。
「こいつが小平ですね。経理、金策関連を任せるつもりっす。」
「よ、よろしくお願い致します。」
「あ、はい。えっと・・・小平哲也さんですね。よろしくです。」
「そうです。哲也です。すいません・・・。」
「いえ、私も緊張していますから・・・お任せする分野は意図しない間違いでも横領と疑われる仕事です。大丈夫ですね?」
「大丈夫、大丈夫・・・の筈です。」
はっきりしろ、と小平の肩を掴んだ山崎を制するタイミングでPCから別人の声が届く。
「待て先に質問だ。全員『はい』のみで答えろ。」
「サラさん・・・いたんすか。」
先程より緊張を増した山崎は掴んだ手を離し、治療をしていた寺内とうめき声を出している永山を手招きし、3人を椅子前に直立不動で立たせ真っすぐにPCのカメラを示す。
「ボスと同等の方だ。『はい』以外答えんな。良いな。」
「「「はい。」」」
「っし、お待たせしました。どうぞ。」
あぁ、と返事がきて、数秒程の間が空き、サラは問う。
「他組織からのスパイじゃないな?」
「「「はい。」」」
「失敗に対する責任と賠償は理解しているな?」
「「「はい。」」」
「上役を探ろうとしないな?」
「「「はい。」」」
「・・・ん、良いだろ。手をかけ良く教育してやれ。問題無いなら私達は寛容でいられる。」
「了解っす。任せて下さい。」
再び数秒程の間が空き、ゴソゴソとマイクが音を拾う雑音の後にアマネの声が届く。
「じゃあ少し私からも質問するから直感で答えてね?」
アマネと3人の質疑応答はZoomの無料時間5分前まで続いた。




