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報復 ④

むせ返る程に濃い血と腐臭に満たされたガレージ内は連日行われていた拷問を終え掃除期間へと移行していた。

換気扇を最大出力で回しながら空気の入れ替えを行い、ブラシを用い床を擦り、棚や壁に散った血痕を拭い、ごみ袋に納められた肉片や処置服を纏めていくアンリは消臭用の炭を積んだ竹笊を四隅と車体周りの臭いが定着しやすい位置へ置いていく。

3日事に煮沸と天日干しを行う事で吸着したガレージ内の臭いを消す為だ。


一通りの作業を全て終え腰を伸ばしていた時、着替えを終えたラズが髪を結いながら扉から覗くように顔を出す。


「あの〜掃除手伝います?」

「終わったの見計らって来たでしょ。」

「ふふバレてましたか。いつもありがとうございます。」

「構わないよ。今回は無理言って来てもらったし、向こうでも片付けは俺の役割だった。」


ストレッチをしながら、2週間ぶりにガレージのシャッターを開けたアンリは外を示し言う。


「待機期間も昨日で終わりだ。外で自由に遊ばせてやれないが散策位なら俺かサラが付き合うよ。」

「そうですね〜。本来なら地理的情報は全て現地を見て回るべきでしょうが今は良いです。ほら、今日は『彼』の出荷日でしょう?

今日までお付き合いして頂いたお礼に見送りたいのです。」

「亮君はもはやラズの作品とよべる姿だもんね。きっと喜ぶよ。」


ストレッチャーの上に置かれた長方形の木箱の蓋を開ける。

中には肘や膝の関節付近で四肢を落とされ胴体と片目となった虚ろな瞳と頭だけに変貌し、抗生物質入りの点滴が繋がった包帯だらけの亮が収まっていた。

その喉には叫び防止と呼吸用として蓋付きの管が気管まで通り、横には食道へと繋がる管が増えていた。

それは拷問に精神が耐えられず衰弱した為、無理矢理生かす為に流動食を流し込む用に追加された管だった。


「亮君。君は愚かだった、間違いなく愚か者だ。数ある選択肢の中から最悪を選び、その先にある一手すら誤ったからこうなった。理解出来るね?」


アンリの声を受けて怯えと恐怖を瞳に移した亮は動かせる精一杯の頷きをつくり、語られる言葉の1つも逃さないよう視線を向ける。


「君がもう少し利口であればシゲさんの温情でこの国で死ねただろう。

だがそれすら与えられない程に言葉も態度も間違えた君のこれからの人生の過ごし方を教えよう。」


言葉を続けながら2日以上の長時間の睡眠効果が期待出来るフルラゼパムを棚から取り出し水と共に用意する。


「君はシゲさんが海外で発足している組織に送られ裏切り者の末路とした見せしめ兼ストレス解消用のサンドバッグとして生きる事になる。

歯も無く、手足も使えず、逃げも抵抗も出来ない君を彼等は介護と称して手荒く歓迎するだろう。

裏切り者の立場で無抵抗でしか過ごせない日々は君の想像を容易く凌駕する程に凄惨で陰湿で屈辱な時間だけが過ぎていく筈だ。

場合によってはだが・・・掛け子を働かせる閉鎖空間の状況や仕事の進捗、作業者の性癖にもよるが性処理に口や肛門も用いられるかもしれないから覚悟しておいた方が良い。」


口元とオムツを履かされた腰辺りを指差したアンリは言う。


「飲食すら喉から流し込まれてしまう君は自殺が出来ない。その手段がないからその人生が尽きるか、シゲさんが再度ヘマをし逮捕されない限り続く地獄が日常となる。

それでも、演技ではなく本心からの反省として媚びへつらい可愛がられるような行動と心構えに思考を切り替えられれば・・・少しは温情をかけてもらえるかもしれない。以上だ。」


首を左右に振る度にこぼれる涙をラズが優しく拭う。


「そのように暴れては駄目ですよ。到着まで怪我しないよう頭周りにクッション増やしましょうね〜。」

「さてそろそろ運送を担当してくれる業者さんが来る。その前にこの睡眠薬を飲みなさい。

後はしばらく点滴生活になるが起きたらシゲさんの所だ。」


僅かな抵抗がされるが、喉の管から薬と水を少量入れたアンリは、吐き出さないよう飲み込むまで確認してから微笑む。


「ではお別れだ。今後の人生にある選択肢は少ないだろうが次の最悪を選ばないよう心ばかりだが祈っているよ。」

「さようなら。今日までお相手ありがとうございました。どうか末永くお元気で。」


手を振ったラズとアンリは木箱の蓋を閉め、業者への引き渡し手順に沿った行動を始めた。







秋晴れの昼下がり、久しぶりの連絡を受けたアマネは沈鬱な表情でガレージ前に佇んでいた。

2週間程アンリから呼ばれず事業を進めながら羽を伸ばし続けていた反動からか足取りは鉛より重く、シャッターの開閉パスワードを押す指は気持ち以上の重さがある。


うぅ、呼ばれたって事は拷問を手伝えって事?もしそうなら嫌だなぁ。逃げたいなぁ。

最後に見た映像は防火服から出した指先をガソリンで炭化させようしてた所だし・・・ちょっと無理だよぉ。


思案を重ねながら重い指を動かし開閉ボタンを押したアマネは内部の異様に行き届いた清掃具合と拭いきれない鉄と煤の臭いに鼻を抑える。


「あら?どちら様でしょう?」

「え?」


ガレージ壁際の小さな水道から首を傾げている金髪の女性を見た瞬間と『間違えた?』と思い冷や汗が全身に吹き出す。

それが他所の家と間違えた事によるアンリから受ける制裁を予感したものではなく、音もなく近付いて来た女性を前にしたものだと理解した時、斉村から目を通すよう言われた拷問映像に映っていた女だと気付く。


「あ、あ、あの、私、私あれです。ザキさん、じゃなくて、神崎さんに呼ばれて・・・その・・・。」

「あぁ、貴女がアマネさんでしたか。

こんにちは、私はラズと申します。アンリさんと友人関係であるしがない田舎者ですがよろしくお願い致します。」

「あ、ご、御丁寧にありがとうございます。

アマネです。天童周といいます。よろしくお願い致します。」

「なに、選挙演説みたいな挨拶してんだ? 入ったらさっさとシャッター降ろせ、ラズも無闇矢鱈に圧をかけるな。」


扉から顔を出したサラの指示に従い慌ててシャッターを降ろしたアマネはいたずらっぽく口元を指で抑え笑うラズを見る。


さっきのような圧迫感が無い・・・試されたのかな?


首を傾げつつ上階に促されるまま進むアマネは、いつもの席で通話をしながらPCを操作しているアンリへ近づき会釈をする。

手振りで楽にするよう指示され、そのまま1分程で通話を終えたアンリが一息ついた所で改めて会釈をし口を開いた。


「お疲れ様です。久しぶりの連絡なにかありました?」

「あぁうん。亮君にかかりきりだったから日が空いて済まなかった。ゆっくりしていたようで顔色が良いようだ。」

「はい。今から悪くなるかもですけど・・・。」

「ハッハッハッ。大丈夫大丈夫、大した用事じゃないよ。

ただ、ラズとの顔合わせと前に伝えたコンサル系の特殊詐欺の投資関連、あれをケン達に任せて良いかの確認だから。」

「あ〜はい。全然大丈夫です。ラズさんとも先程ご挨拶させて頂きました。」


後ろで慈愛に満ちた笑みで会釈をするラズを見る。


「そ、まぁあの人がうちの武力要員でカイネの所で異端審問官を兼ねている狩人だ。」

「こちらの国では猟師という職業になるらしいですね。銃は不得手ですので完全に一致するかは不明ですが。」

「銃が不得手・・・猟師?」

「その辺りは気にしなくていい、こっちで荒事が起きたとしてもラズを動員する事態になるなら俺は組織を解体して逃げ出す。そのくらい制御が利かないし容赦が無い人だ。」


亮を拷問する映像を思い返したアマネは震える手を握りしめ喉を鳴らす。


「落ち着きなさい。今日は顔合わせだよ。貴女に任せた事業が好調であればラズの世話になる事は無い。

あぁ、逃げれる自信があるなら手を抜いても構わないし裏切りも歓迎だ。

もっとも彼女の手から逃れられた者はいないし、彼女の手で末期を迎える事は考えうる限り最悪の1つだと忠告はしておくよ。」

「アンリさん〜、そうならないよう貴方がしっかりしなくちゃいけませんよ?」

「彼女がうちの組織の二代目候補なんだよ。だから忠告代わりに挨拶させてるの。」


なるほど、と目じりを弓にしたラズは気楽な足取りでアマネに近づきその手を取った瞬間滲み出る殺意を浸すように耳元に口を寄せる。


「どうか、貴女の選択により私を必要とする日が来ない事を。

本日より末永いお付き合いをよろしくお願い致しますね?」

「は、はいぃぃ・・・。」


へたり込んだアマネの情けない返事に当人以外の全員の笑い声が室内を満たしていた。

これにて第一章は終わりとなります。


次回はアマネを主体としたコンサル系詐欺と密輸ビジネスを軸に進めたいと考えていますが、構想と参考資料の関係上少し手を加えている範囲が多くなり時期は未定となります。

また纏まった頃にひっそりと更新を進めていきますので楽しみにして頂ければ幸いです。


一章までお読みくださりありがとうございました。

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