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報復 ②

猛烈なスコールが窓を叩き、吹き荒ぶ風が白波を濁らせる夜。

PC画面に映る金髪の女を見た斉村はその容姿に見惚れていた。


砂金が滑るように細く柔らかい金の髪を揺らし会釈をする女の口から作る声色は鈴のように耳に心地く自然と頬が緩むのを自覚する。


「その・・・いや、アンリさんの紹介を疑う訳じゃないんだ。疑う訳じゃないんだが・・・本当にあちらのラズさんが拷問するのかい?」

「そうだよシゲさん。見た目はあんなだけど中身はしっかり終わっている。拷問とか殺しをしながら絶頂する異常者だ。」

「アンリさん・・・初対面の方に誤解されるような紹介は、その、どうかと思います。」


困ったように眉を寄せ抗議の声を作ったラズはカメラ前に移動し会釈をする。


「斉村さん・・・でしたね。アンリさんは頭オカシイ系の人なので一般常識と少しズレているのです。決して誤解しないで下さいね?」


念を押すように、お願い致します。ともう一度深く頭を下げる姿に斉村は思う。


礼儀正しい人だ。立ち振舞いや所作まで美しい・・・初対面の認識だけで言うならアンリさんの勘違いとしか思えないが・・・。

妙な違和感はある。顔立ちは東欧系だが言語に訛りやイントネーションの癖が無い。

思えばサラさんもそうだ。やや常識から外れた粗暴な振る舞いと風貌から山岳地帯のネイティブ系と判断していたが彼女もまた言語能力に不備がなかった。

ともすれば使い捨ての出し子や回収役達の方が言葉がなっていないかもしれない。


思考を埋める疑問に囚われている斉村はワチャワチャと楽しそうにじゃれ合う画面の2人の声に意識を戻した


「誤解も何も俺に人体講座とか言って拷問の手伝いさせたのは貴女でしょ。

おかげでこっちで役に立ったよ。ありがとう。」

「会話の前半と後半でニュアンスが変わりましたね。相変わらずアンリさんって感じがします。」

「ハッハッハ、変わらない良さというやつかな?」

「ふふ、変わっていてほしかった不具合の間違いですよ。」


不具合かぁ。と落ち込んだ仕草のアンリはスマホ画面の斉村と目が合い沈黙のまま表情を正す。


「身内ネタに夢中になってしまった。申し訳ない。」

「いや構わないよ。久しぶりの再会なら積もる話もあるだろう。

こちらは急ぎじゃないから落ち着いたら始めてくれれば良い。

編集はしなくて良いから全て動画に残しておいてくれるかな?」

「了解した。って訳でそろそろ始めるけど・・・殺しちゃ駄目だけど我慢出来るよね?」


え?とマーカー片手に振り返ったラズは数秒固まり、えへへ、とはにかんだ表情で小首を傾げた。


「駄目なんです?」

「駄目だよ。生かさず殺さず徹底的にやる為の必要な機材やクスリは用意してあるけど医薬品は限りがあるし医者も呼べない。

いつものような手違いがおきたら・・・強制送還だ。」

「え〜もう、帰還後のカイネからいっぱいお土産話聞いて何人殺せるか楽しみにしてたのに・・・。」

「こっちは殺人に過敏な国だから許可なく止めてね。処理するにも準備があるんだ。」


つまらな気に唇を尖らせたラズだが二階へと続く扉が開きサラに担がれた亮を見るなり喜色に目を輝かせ始める。

頬を朱に染め、熱い吐息と潤いを増した眦はガレージ内の頼りない灯りを受け煌めいていく。


「サラさん降ろして、ほらほら早く。」

「落ち着けラズ。深呼吸だ、今お前に預けたら殺しちまうだろ。」

「だ、大丈夫ですよ・・・ちょっとマークするだけです。ね?」


アンリの頷きを見てストレッチャーの上に亮を仰向けに置き、手足と腰、首元を革製のベルトで拘束していく。

その拘束作業を待ち切れないのか覗きこんだがラズは首を傾げる。


「あれ?この人寝てますね。」

「ストレスから不眠と自暴自棄になっていたから薬を投与したんだよ。そろそろ起きると思うよ。」

「・・・えい。」


ラズの気軽な声とグチャっと音を立て振り下ろされた拳は亮の鼻を折り血を周囲に飛び散らせる。


「ラズやめろ。服が汚れる。高いんだぞコレ。」

「あ、すいません。早く挨拶したくてつい・・・。」 

「まだ録画もしてないんだから待ってね。あ、シゲさんはこのまま見ていく?」

「いや、十分にヤバい人だとわかったからアンリさん達に任せるよ。また後日に。」


通話が切れた事を確かめたアンリは、三脚やラフ板を設置しストレッチャーを囲むように飛散防止の壁型のビニールシートを設営していく。

その間、折れた鼻から横溢した血により咽せながら咳き込む亮は、状況がわからないのか。頭を振りながら叫んだ。


「んだっコレ!?おい!女!これを解け・・・神崎さん?」

「おはよう亮君。起き抜けでも大変元気でなによりだ。

紹介しておくと今、君が暴言を口にした人が貴方の処置を担当するラズだ。」

「こんにちは亮さん。よろしくお願い致しますね。」

「あ、あぁ?ん?処置・・・?」


煮え切らない返事を無視したラズは、亮の足に触れ、確かめながら大きい血管を避ける位置にマーカーで線を描いていく。


「おいくすぐったい!くすぐったいって!?やめろや女ぁ!!?」

「アンリさん、コインとかあります?」

「コイン?スロットはやらないし、小銭もかさばるから持ち歩かないんだが・・・亮君の財布にあるかも。」


棚に置かれたポシェットを漁ったアンリは使い込まれたブランド財布を取り出しラズに渡す。


「10枚位かな?足りる?」

「足りないですが・・・まぁ今日は挨拶代わりなのでこれで良しとします。」


先程記した線にそってナイフを薄く刺したラズは、皮膚に染み出た赤と鉄の匂いに舌舐めずりをする。


「痛えぇ!?なにしやがる女ぁ!?解け!ぶっ殺してやる!!!」

「出来るならご自由に〜えいっと。」


刺し傷にコインを当てそのまま体内に押し込んだ瞬間亮の絶叫がガレージ内を震わせた。


「があああぁ〜〜っ!?ってめぇぇ・・・!」

「まだ1枚ですよ。後9枚ありますし・・・アンリさん。お夜食買って来てもらえますか?」

「あぁ、了解した。ラズの好みに合うよう大手コンビニ3軒程回ってくるよ。」

「ありがとうございます。お支払いはこちらの・・・亮さんの不要な札でどうぞ。」

「おやおやご馳走になるね亮君。お釣りは文字通り君に直接返すから安心して欲しい。

じゃあ行ってくるからサラはラズを頼むよ。」


クーラーボックスから缶チューハイを取り出したサラは片手を上げ応える。


「肉系のお弁当がいいな。緑が少なければ少ないほど嬉しい。」

「ではコンビニ以外に牛丼も買ってこよう。寄る店が増えてしまったがお釣りも増えるから良しとしよう。」


じゃ、と片手を上げシャッターを僅かに開けたアンリは買い出しに向かった。

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