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報復 ①

穏やかな波が飾る水平線から朝日が登る時刻。

開けた窓から入る光に目を細めた斉村はベッドに腰掛けた姿勢でPC越しに通話をしていた。

時折砂浜に打ち寄せる波間の音と風に揺れる木々の微かな動きから伝わる豊かな自然を全身で感じつつ笑みをこぼす。


「やはり貴方に依頼して良かった。他の者ならこれほど早くは見つからなかったよ。」

「アマネさんが部下を通じて良く探してくれたおかげだよシゲさん。」

「相変わらず謙遜な人だ。今後も期待してしまう。」

「プレッシャーになるから過剰な期待はしないでね。」


より笑みを濃くし、前傾姿勢となりPCに顔を近づけた斉村は僅かに緊張した面持ちで言葉を作る。


「さて、そろそろ会わせてくれるか?」

「勿論だよシゲさん。少し抵抗したからこっちで大人しくなるよう教育したけど怪我はさせていない。」


スマホをひっくり返し外に向けると手すり付きの椅子に拘束された亮がいた。

半開きの口から漏れる浅く荒い息は緊張と恐怖から怯えの色の目で周囲を探るように視線を走らせている。

その姿を確認し、掛け子として面倒をみた過去を思い返しながら一度拳を握りしめた斉村は怒声とならないよう深呼吸をし気持ちを落ち着けていく。


このクソガキのせいで俺は日本を追われたのか・・・何も物事を考えられず、適当に無責任に生きているカスがナメた事をしたせいで・・・。


握った拳を包むように両手で擦りながら目を瞑る。


密告による摘発を避ける為に国内で活動していた組織は半壊し、上から追われ続け詫びと補填を確約させられこっちに飛ぶも人員不足とデータの移管手続きが進まず海外拠点の稼働はまだ未定。

首尾よく活動を始められたとしても今回の失敗のツケを上に払うだけで5年〜10年は媚びへつらう人生だろう。


「許せねぇ・・・ぶっ殺してやる・・・。」

「シゲさんアンガーマネジメント。冷静でいられない状況は失敗を招くよ。」

「あぁ、あぁそうだった・・・大丈夫、落ち着いたよ。」


血が滲む程に爪が肉に食い込んでいるのに気付いた斉村はもう一度深呼吸をする。


「久しぶりだな。元気そうで俺も嬉しいよ。」

「ボス・・・。」

「元だ、間違えるな。お前の軽率な行動で俺はその地位も組織も上からの信頼も失った。

ついでに再建する為に金も失いつつある。笑えよ。」

「ちがっ・・・違うんです。聞いて下さい!?俺は裏切るつもりなんてっ!!?」


PCから顔を離した斉村は、喚き散らすように自己弁護をつらつらと並べる姿に沸騰仕掛ける程に怒りがこみ上げてくるのを感じていた。


「アンリさん。少し彼を素直にしてもらえるか?」

「ん、亮君。そんなにお喋りすると喉渇くでしょ?お水欲しい?」


ガタッと椅子を揺らし、両手を拘束している手摺りを壊さんばかり力を込めた亮は、悲鳴と嗚咽を繰り返し過呼吸を始める。

クーラーボックスからペットボトルの水を取り出し、蓋を開ける頃には顔面は蒼白になり、うわ言のように謝罪と許しを請い始めた。


「アンリさん、なにをしたんだ?」

「特に珍しい事はしてないよ。浴槽にぶち込んで丸2日程不眠と絶食状態で冷水ぶっかけていただけ。」


へぇ、と声を漏らした斉村は、アンリが行った手法を頭に思い浮かべる。


水責め・・・国際条約を守る良識のある国家が捕らえた捕虜に行う尋問だが丸2日は長いな。


パニック障害さながらの醜態を晒す亮の憔悴具合に溜飲を下げ落ち着きを取り戻した斉村は薄く笑みを讃えた表情で言葉を作る。


「君の小さな脳味噌ではどれだけ言葉を尽くそうと俺の腑に落ちる言葉を作れない事がわかった。

アンリさんには手間をかけるが彼の移送をお願いしたい。」

「構わないよシゲさん。生きたまま?殺していいなら人体模型風に加工だってするよ。」

「神崎さんッ!?俺、俺反省してます!!?本当ですっ!信じて下さい!!」


アンリと斉村の会話に割って入る亮の弁明に肩を竦めた斉村は溜息をつく。


「解体したとはいえ組織の長同士の話にお前が口を挟むのか?正気とは思えないが・・・あぁ、元々頭がオカシイから逃亡して情報を売ってたんだな。」

「そうだよ。ストレスで抜けてきた君の頭髪より薄い言い訳は必要ないんだ亮君。

逃亡後から無頼連合に匿われるまでの経緯は土屋さん達に宛てがわれた女相手に武勇伝の如く語ったそうじゃないか。

ほら、シゲさんの対立組織に煽てられて特殊詐欺グループの立ち上げが決まっていたんだろ?

掛け子程度の役割も十全にこなせない君の要領では上手くいったとは思えないが・・・短い夢の代償を払う時だと覚悟しなさい。」

「違っ!?違うんですっ!?本当に俺、俺は・・・。」


はぁ、と溜息を溢したアンリは三脚にスマホを固定してから棚に置いてある自作のスタンガンを取り出し亮の首元に当てスイッチをオンにする。

パンッパンッパンッと断続的な電流音と共に痙攣が始まり数秒で意識を飛ばすとカメラに手を振る。


アンリが使用したスタンガンは、市販の物は気を失わせるだけの放電出力が足りない不満からブラウン管TV等に内蔵されている容量の大きいコンデンサを取り付けた自作スタンガンだ。

大きい為取り回し辛く、充電に時間がかかり、連続使用に間隔を置かなければ使えないと欠点は多いが、その出力は紙を燃やす程に強力であり、接触用電極を尖らせている為、体内に直接放電可能とあって屈強な男でも即座に昏倒する威力だった。


「騒がしくしてすまない。いやぁこうも饒舌な人とは思わなかったなぁ。」

「ふふ、手心を加え過ぎたんじゃない?アンリさんは優しいから。」

「まいったなぁ、昔に比べて丸くなってる自覚はあるんだよ。

環境保護団体の経営理念が、ゴミとはいえ人的資本は大切に有効利用しましょう。ってSDGs風のスローガンだから感化されたのかも。」

「意外だ。社風に染まる人だったとは。」

「本当は指示待ち人間でね。言われた事をやる生活の方が得意なんだ。」


苦笑したアンリは照れたように頬を掻く。


「意外な一面をしれたアンリさんにはお手数かける事になり申し訳ないが、彼を用いて教育用の映像を撮って欲しい。

次に組織を作るなら裏切り者がでないようなわかりやすい映像だと最高だ。」

「殺していいの?」

「可能なら生かして送って欲しい。五体満足である必要はないから・・・やり方は任せる。」

「ふむ、拷問と撮影だね。了解した。

こっちの事情とも合致する担当者がいるから面通しさせるよ。」


事情?と疑問を口にした斉村に頷いたアンリは倒れたままの亮を一瞥する。


「サラの古い友人さ。こっちに来たがっているが我慢が出来ない性格で諦めさせていたんだが・・・隔離期間をこっちで過ごさせる生贄がいるなら連れてこれる。感謝するよシゲさん。」

「アマネから聞いたカイネさんのご同郷か。アンリさんはよくわからない友人が多いんだな。」

「個性的な仕事をしているから自然と付き合いが偏るんだ。」


仕方ない事さ。と言葉を溢し、一度時計に視線を向ける。


「明日また時間をもらえるなら担当者に挨拶させるけど。」

「アンリさんが推す人材だ。楽しみにしてるとも。」


軽い挨拶の後にノートPCを閉じた斉村は布団に身体を沈ませ反動で起き上がる。


生き馬の目を抜く外道、悪党達が跳梁跋扈するこの業界で異常者と称される神崎夫妻。

その怪人が推す担当者とはどのような人物だろうな。


期待以上に恐れを抱いた斉村は組織再興に向けたスカウトに勤しむ1日を始めた。

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