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神崎の流儀 ④

廃墟の入口を括った先は開けた空間に太く頑丈な柱が均一性を持って連なる大広間だ。

過去のホテル時代にはエントランスとして華やに宿泊者を迎えたそこは放棄された年月も長く所々が朽ち基礎が見える程に荒れている一方で外付けの電気やコードが散乱し室内の一部は明かりに照らされていた。

その明かりが風雨により苔やカビが侵食した床の劣化を際立たせ、エントランス中央にはおそらく営業中は噴水だと思われる加工された石造りの円形の縁がある。

そこに腰掛けていた土屋は侵入者を見ると大袈裟なため息を溢した。


「外が騒がしいのもお前かアンリ。」

「こんばんは土屋さん。なんでこの廃墟に電気が通ってるの?暗視ゴーグル無駄になっちゃったじゃない。」

「・・・太陽光発電のメガソーラーが近くにあるからな。地主を脅してちとばかり拝借してる。」

「いけない人だ。あぁ先に言っておくけど不意打ちは通じないから隠れてる人達は出ておいで。」


周囲に動きがない事に肩を竦めたアンリは人質の女を寄せるように首に腕を回し言う。


「この娘の命が、なんでありきたりの交渉じゃない。連れが殺気立って危ないから貴方達の安全の為に出てきてほしい。」

「なんでわかるかねぇ。おい、囲んどけ。」


カウンターや柱の裏から出てきた7名の男達の手には長物が握られ、土屋の声に従い緩くアンリとカイネを囲んだ。


「んで?そっちのおっかねぇ姉ちゃん連れてなんのようだ?」

「大した用件じゃないよ。こちらにリョウ君がお世話になっていると聞いてね。少し火急の用事があって会いたいんだ。」

「それでカチコミかよ。ハッハッハッ相変わらず頭イカれてんなお前。」

「今思えば急ぎだったとはいえアポイントを取るべきだったと反省しきりだよ。

次は菓子折り付きで来る事にしよう。」


ハンッと鼻で笑う土屋は前傾姿勢のままアンリとカイネを見る。


こっちとしちゃクソガキを寄越せって軽い接触に難癖つけて抗争の口実にしようとしてたんだがなぁ。

それなら人海戦術で奴らの構成員の家や職場から友人、家族と的にかけてやったってのに・・・まさか直接乗り込んで来るとは思わなかった。


「そっちの姉ちゃんはわざわざ武力要員として呼んだのか?」

「カイネはバカンスに来ただけだよ。あと一応言っておくと彼女の主な仕事は武力要員じゃなくて調整や調停者だ。」

「私は聖職者だからな。主の御心を忘れ戯れる馬鹿共に教育と導きをくれてやるのが仕事だ。」


アンリから手渡されたグロックからマガジンを抜き弾数を確認し一瞥する。


「この距離なら近づく前に3人は殺せそうだ。もう少し近付いたら2人位の犠牲で済むかも知れんぞ?ん?」

「カイネ〜。この程度の人数なら貴女は大丈夫だろうけど俺はそれなりに焦るんだよ。」

「俺もホームでのドンパチはやめてほしいんだがな。おいアンリ、ありゃ本物か?」

「さっき外で撃ったんだけど音聞こえなかった?」


あ〜。と声をもらし片手で目元を掴んだ土屋はカウンター側の3人に手振りで指示をする。

その指示に従い一度カウンター裏に消えた3人は黒い鞄を取り出し現れ囲む4人へ投じる。


「?」

「アラミド繊維の強化プラスチック防弾盾だ。交渉に銃を使うイカレの相手は初めてじゃない。」

「おぉ~鞄型の防弾盾かぁ。初めてみた。いいなぁ高いでしょ?どこで仕入れたの?」

「こっちにも伝手があんのよ。お前は・・・米軍だったか?」


愛想笑いで誤魔化したアンリは一度周囲を見渡し思う。


自衛隊や公安では装備検査の確認作業上、対人保護用の装備の横流しは出来ないだろう。

であれば国内、海外の民間軍事企業か本職の抗争用装備かなぁ。他にも軍需工場の調査品の横領の可能性もあるけど・・・。


「銃は出さないの?」

「盾にしている女を手放すなら銃弾を馳走してやるよ。」

「ん〜?この娘ごと撃てば良いのに。」

「ンな事したらそっちの似非シスターが仕事を始めんだろ。お互い命を捨てる覚悟でやる仕事じゃねぇ。」


ふむ、と頷いたアンリは破顔しカイネに振り返る。


「楽させてくれない人で困っちゃうね。」

「さっさと話を進めろアンリ。そっちの男程周りが優秀とは思えんぞ。」

「オーライ。自制心が保たない奴がいたら俺に構わず仕事をしてくれ。」


女の折れた足を蹴り、悲鳴と共にその場に膝立ちにしたアンリは、髪を掴みポケットから取り出したナイフを見せる。


「この娘が邪魔だけど・・・そろそろ前向きな話でもどうかな?」

「・・・人と話したいって態度じゃねぇなぁ。解放が先だ。」

「解放したら撃たれちゃうんでしょ?怖いなぁ。俺は臆病だから誰かが寄り添ってくれないと安心出来ないよ。」


ケラケラ笑うアンリとカイネに周囲が怒気を強める中、肩を竦めた土屋は懐から取り出した銃とマガジンを外し横に置く。


「これでいいだろ。」

「おやおや強面に似合わず人情家だね貴方は。」

「うるせえぞ。」


ナイフをしまい女から離れたアンリは土屋へトコトコ進み1m程の距離で足を止める。

その間に手振りで距離を取るよう示す土屋は、這いずりながらアンリから離れる女を視線の端に収めながら聞く。


「さっきも言ったけどリョウ君を渡してほしい。それでこちらは引き下がるよ。」

「斉村なら上に恥かけたってんで追い回されて東南アジアに飛んだぞ。」

「らしいね。彼等のケツモチだった本職さん達は、1200Wの電子レンジ並みに熱くなっていたって話だ。」

「ハッハハハ、ガキの管理も出来ねぇ奴の失態でシノギがきえたとなりゃそうなるわな。

んなら戻っても来れねぇさ。ほっといてやるって道もあんだろ。」


煙草を咥えるジェスチャーをし、アンリの肯定を受けてから懐に手を伸ばした土屋は火をつけ煙を燻らせる。


「シゲさんが依頼を取り下げるなら別だがそれ以外では引き下がれないよ。俺の副業はトラブルバスターなんだよ?

手を抜いた。そんな噂1つで信用が消えるお仕事さ。」

「こっちは少なくない被害を負ってんだがなぁ。ガキ1人の代償としちゃ落とし何処も言い訳もたつだろ。」


煙で輪を作りながら言う土屋にアンリは外の喧騒を顎で示す。


「顧客に結果を届けられるまで引き下がらないからトラブル調停者としてやっているんだ。

これは極論だが、この場にいる全員を殺してでも事を成す覚悟が俺にはあるよ。」

「おっかねぇこと言うなよ。暴力でしか事を成せねぇお猿さんを相手にさせんなって。なぁブラザー?」

「・・・貴方には敵わないなぁ。よろしい、脅し透かしで駆け引きするのはここまでにしよう。」


パンッと手を叩いたアンリは緩く両手を広げ言葉を続ける。


「今後、無頼連合所属員で逮捕案件が出た時、身代わりをこちらで用意する。この条件でリョウ君の身柄を渡してもらえないか?」

「お〜なかなか面白いじゃねぇか。具体的に教えろよ。」

「SNSで闇バイト要員を確保するよ。2、3回仕事をしたら高額報酬って契約で支払い前に・・・友人の警察官に逮捕させる。」


吹き出した土屋は膝を叩き、あ〜。と言葉を溢しまた笑う。


「ハッハハハ!哀れな馬鹿に不都合全ておっかぶせるのか?いいなぁそりゃ!!?」

「成果を挙げて優先的に有給申請を通したい警察官から提案を受けてプロットは出来ているんだ。

こちらはゴミをタダ働きさせられ、貴方達は暴走行動も後ろめたい仕事も手軽に出来るようになる。

警察官の彼はアリバイや証拠の捏造をするだけでお手軽に検挙率を挙げられ皆ハッピーになれる共同事業さ。」


ゲラゲラ笑う土屋につられ周囲も笑い声をもらし空気が弛緩する。


「闇バイトに手を出すような人はほぼオツムが可哀想な人だから使い捨てとして刑務所に隔離するのはむしろ社会貢献だろ。

『ホワイト案件』、とか『短期高額報酬』、とかアホしか騙せない文言に飛びつくお猿さんなら追い込みも強要も容易いよ。」

「アホを踊らせる仕事はお前の本業だったな。信頼出来る話だ。」

「環境保護と社会貢献を建前に社会のゴミを浮き彫りにさせる。これは善行過ぎて聖人認定されちゃうかな?」


カイネに、奉ってくれる?と問うが中指を立てた返事をされ肩を竦める。


「今なら今回の『ご挨拶』で死傷した人に心ばかりだが見舞金もつけてやれる。どうかな?」

「・・・外で中村を遊ばせてたな?」


アンリへの返事ではなく周囲の者へ視線を向けた土屋の声に数人が頷く。


「っす。少し走るって出てます。」

「会合嫌いなんでどっかで遊んでそろそろ戻る頃かと。」

「総長、あいつに一度ヤキ入れて下さい。」

「おーおー。まぁなら返事はお互いの馬鹿がはしゃいだ後にしようや。いいだろ神崎?」

「中村さんかぁ。うん構わないよ。

ただ、サラを制するならそこのカイネを買収するのが正解だった。と教えておくよ。」


スマホを操作し連絡した土屋は部下に武装解除を命じ、アンリもまたカイネから銃を預かりマガジンを抜く事で無力化を示す。


「外で見物と洒落込むか。」

「エスコートは期待しても良いのかな?」

「死ねボケ。」


喧騒に向け進む土屋の後ろを肩を竦めたアンリはついていく。

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