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神崎の流儀 ②

照明が絞られた薄暗い室内、ソファーに座りPC画面が生む光に照らされ作業する男とブルーシート上で蹲る男、部屋の隅にあるベッドから聞こえる寝息に視線を移動させていたサラは扉を閉めると首を傾げた。


「なぁなぁそっちの男バラすんじゃなかったか?」

「始めからバラすなんて言ってないって。メッセージ代わりに全身の表皮を剥いで人体模型風にしようと思っていただけだよ。」

「神崎君!?俺っ俺!?全部資産言ったっ!信じてくれっっ!?」

「はいはい騒がない騒がない。カイネを途中で起こすと不機嫌になるから静かにね。」


壁際のワインセラーから取り出した瓶とグラスを手にしたサラはカイネを一瞥してからアンリの横に座る。


「森田さんは楽しんでくれた?」

「明け方まで飲んでた限りではな。潰れたからホテルの部屋に置いてきた。」

「オッケー後で向かわせたデリの娘に話を聞いて来年の誕生日に向けたブラッシュアップを進めるよ。」


グラスに満たしたワインを飲み干したサラは床に座る寺内を見る。


「・・・お前見た事ある気がするなぁ。」

「土屋さんの所から寄越された監視員だからね。ほら、前に飲みに誘って逃げられた後継人だよ。」

「あぁ、なるほどなるほど。そりゃご苦労さんだ。」


けらけら笑いながら寺内と言葉を交わしていたサラは、ワイン瓶が空になった頃にキーボードを叩き時折スマホも用いてやりとりをしているアンリの肩に頭を預け言う。


「んで土屋はいつ殺すんだ?」

「殺さないよ〜。無頼連合はここいらの県で影響力が強い組織だから下手に分裂されると面倒だもん。」

「ん?各個潰してけばいいだろ。駄目なのか?」

「それは難しいね。ゲームや物語だと何故か誘蛾灯に群がる羽虫の如く集まるけど現実はそんな甘くない。

散り散りに姿をくらました残党は恨みを抱え燻りこちらを貶める気を伺う。

それがわかり易い敵対勢力で現れるならまだしも世間に潜み、こちらの足を引っ張る事に人生を捧げる厄介ストーカーとなれは対処に金と時間と人数がかかってしまうよ。」

「そりゃ面倒だ。私達が帰った後まで続くのは避けなきゃな。」

「となると多少は譲歩しなくちゃ纏まらないだろうね〜。

念の為抗争時に俺がどういう行動をとるか教えておけば下手に刺激しなくなると思うけど・・・やっちゃう?」


いいねぇ。と笑みを濃く獰猛なまでに口端を吊り上げたサラは頷く。


「やろうやろう。何時までもお行儀の良いチンピラでいられん。」

「偶にハメ外してたとはいえ1年位大人しくしてるもんね。」

「だろー?お淑やかって言っても良いんだぞ。」

「ふふ、日々更新されるサラの魅力に目が離せないよ。」


照れた表情で戯れる2人を前にする寺内は、キチガイ。の評価を胸に置き刺激しない事を前提に小さく呼吸を繰り返す。

折られ、鼻腔内をズタズタに裂かれた箇所が浅い呼吸でも絶叫をあげかねない痛みを脳裏に送り思考を阻害している。


ここから逃げて総長に連絡・・・どうやって・・・クソ、痛みで上手く考えられねぇっ!?


なにより恐れてしまった自分が客観視できており、さらなる拷問を受けたく無い事を理由に大人しくしている現実に悔しさも覚える。


神崎夫妻はアンリの方がヤバい・・・痛ぇ・・・復讐してやる・・・無理だ・・・次は殺される・・・痛ぇんだよ・・・次なんてあるのか?


「寺内君。君の車を借りたいんだが何処に駐車してあるかな?」


声にビクリッと身体を震わせ顔を上げた寺内はアンリの顔を見ただけで震えと緊張から歯を鳴らした。


「聞こえなかった?先程開示してくれた資産には寺内君名義の車がある筈だ。それを貸して貰いたい。」

「神崎君・・・俺、死にたくないっす。」

「うーん、会話が成立しないのは困るんだが・・・喋りたくなるよう手伝う?確か塩酸があったから・・・。」

「か、神崎君の高層マンション近くの立体駐車場ですっ!?」

「ありがとう。案内も頼めるかな?」


高速で首を上下に動かした寺内は、血痕を浴びた服の着替えを始めたアンリから目を逸らし冷汗に濡れた全身を意識する。


怖ぇよ。マジで怖ぇ・・・。


俯いた姿勢はまま頭の上で交わされる会話は現状に目を瞑れば日常生活とも思える程穏やかな声色と内容で紡がれていく。


「サラはそのままでいい?」

「いや、マンションに戻るなら汚してもいいジャージに着替えるかな。お前も用意あるだろ。」

「ん〜防刃、防弾用の装備はこの季節だと暑くて嫌なんだけどね。」

「冷えピタだったか?アレ貼っとかなくちゃな。」

「熱中症対策もしなくちゃとは忙しい日だよ。さてカイネは寝てるか・・・んじゃ後で拾うとしてメモでも残しとくよ。」


声に頷いたサラが蹲ったままの寺内を片手で担ぎ扉に向かう背を置い部屋を出た。




月が雲の切れ間から覗く気怠い蒸し暑い夜に県境の峠を走る1つの車がある。

旧車會や走り屋が集う曜日で地元の者もこの時刻は近づかない道をのんびり走る車内は、厚手のコートとネックウォーマーで顔下半分を覆い前傾姿勢でハンドルを握るアンリと助手席で青ざめている寺内が道案内をし、後部座席ではサラとカイネが缶チューハイ片手に談笑していた。


「神崎君・・・運転大丈夫っすか?」

「今は戸籍がないから失効しているけど免許は持っていたよ。ただマニュアルに不慣れなだけだ。」

「俺、代わりましょうか?隣に乗ってるの怖いんすよ。」

「お気遣い痛み入る。ただ愛する人を乗せる日くらいハンドルを握りたい男心を汲み取ってほしい。

なに、マリオカートで鍛えた俺ならドリフトだって出来るさ。」


ゲラゲラ笑う後部座席のカイネが助手席の椅子を蹴りながら言葉を作る。


「邪魔すんじゃねぇよ小僧。お前が運転したらつまんねぇ到着しかしねぇだろうが。私は楽しみたいんだよ。」

「蹴らんで下さいカイネさん・・・シート新調したばっかなんす。」

「クク、なんだなんだ。廃車になる車の心配とは余裕だなおい。無駄って概念を教えてやろうか?」

「廃車って!?ちょっ!?神崎君っ!??」


数秒の無言を置いたアンリは前傾姿勢のまま緊張を顔に表し言う。


「集中してるんだ話しかけないでくれ。」

「いや、それは・・・いやだってローンがまだあるんすよ!?」

「落ち着きなさい。無いモノに金を払う行為は世間では寄付や喜捨と呼ばれる徳の高い行動だ。恥じる事も嘆く事もあるまいよ。」

「〜〜〜っ!?」


アンリへの恐怖を忘れ罵詈雑言に近い制止の言葉を口に出し続ける寺内を無視し走らせた車は、目的地である峠にある風化の進む廃ホテルが近くなってきた事で無頼連合麾下の者達が吹かすエンジン音や喧騒が聞こえてきた。


「そろそろだから耐ショック姿勢の準備してね〜。」

「オーライ。神も見ている派手にやれ。」

「行け行け。人生はファーストコンタクトが大事だってノイルも言ってた。」

「神崎君〜〜待って!止まって!お願い致します!!ブレーキを!!?」


寺内の制止虚しく入口でドリフトミスによるスピンを始めた車は敷地内にいた人間を轢きながら見せつけるように駐車していた車列に突っ込んだ。

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