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外道達の夜

打ち寄せる波音が耳に届く海沿いにある倉庫前で車を停めたアンリは運転の疲れから思わず大きく伸びをする。


「ん~~っし、行くか。」


周囲を囲むフェンスと有刺鉄線に問題ない事も確かめながら入口の鉄柵とそこに備え付けられている『私有地』と書かれた錆びた看板を叩く。


「塩害対策してないのかよ。施行主に文句言ってやる。」

「お、殺すか?やるぞやるやる。」

「殺るのは私が帰ってからにしろよ。先日みたいな面倒に巻き込まな。」


車のドアを閉め付いてきたサラとカイネに苦笑し施錠された鉄柵を開き先を促す。


「殺らない殺らない。ただ錆びない素材に変えて貰うだけだよ。」


そっかぁ。としょんぼりしながら敷地内を進むサラは倉庫前のシャッター基盤蓋内側の施錠パスワードを見ながら横の扉を解錠し開いた。


倉庫内は棚によりフォークリフト2台分の通路が作られ、棚と床には引かれた簀子の上に段ボールが積まれている。

棚には英数字による割振りがされておりCから始まる棚で足を止めた3人はスマホ画面内の目録と段ボール表記を見比べ頷く。


「CとDの棚は全て運んで良い。他の棚には手をつけるなよ。」

「オーライ。サラ、始めるぞ。」

「はいよ。」


背にしていたリュックをゆっくり下ろしたサラは中からタオルや緩衝材で包まれた黒石を取り出した。

カイネが設置と魔術式の構築をする間に段ボールを運び出すアンリとサラは庫内の蒸し暑さから額に汗を浮かべる。


「向こうの世界を公に出来ないとはいえ、この量を3人で運ぶのは大変だぞ。」

「だなぁ。後継者のアマネには話して手伝わせてもいいんじゃないか?」

「まだ確定した訳じゃないからね〜。後、今日はMr.ジョーと顔合せだって石田さんから連絡来てたよ。」

「ほーんあいつか、なら仕方ない。」


陣の構築を終え光り出した黒石とその前に積まれた段ボールを手にしたカイネは談笑しながら作業する2人に言う。


「ボケ共繋がったぞ。運び出す用の人足を連れて来るから少し待ってろ。」

「さすがカイネ。用意良い助かるよ。」

「主は全てを見通す。その視座と慈悲深き主と私の御心に感謝しろよ。」


仰々しい聖職者風のポーズのまま黒石に触れ消えたカイネに2人は中指を立て見送った。





波止場近くに停めた車内でうたた寝をしていたアマネは窓をノックする音に意識を覚醒させ慌てて視線を走らせる。

定期的に耳に届く波音とエンジン音と無理な体勢で寝ていた事による身体の節々の痛みを確認しながら窓を開け石田に会釈をする。


「寝てました・・・すいません。」

「構いませんよ。向こうのお遊びが終わるまではやる事ありませんし。」

「石田さんは休んでないんですか?帰りの運転は私しますから休んで下さい。」

「ハハ、ありがたい申し出ですが他人の運転を信用しない性格です。」


開けられたドアから外に出たアマネは隣の車が静かになっている事に気付き口元に指を立てる。


寝落ち前は酒と共に興奮し一際激しく揺れていた筈・・・。


「彼等も寝ちゃいましたかね?」

「いえ、おそらくいつも通り殺してしまっただけかと・・・。」

「NONONO。違う違うヨ石田さーん。私今回我慢しまシタ。」


声と共に突然開けられた隣の車内から精子と汗の強い臭いが籠る淫臭を纏ったジョーが顔を出しサムズアップをする。


「自制心、そう自制心の塊それが私の在り方。和の心デス。」

「神崎の自称、『誠実の擬人化』並に説得力ないですよMr.ジョー。」

「オー、貴方の所のボスとは違うのに・・・。」


べルトを直しながら車外に出たジョーは髪を掴んだ全裸の女を外へ引きずり出すと笑顔で蹴り捨て言う。


「ちゃんと生きてマス。折檻?躾?私しっかりしたカラ従順ヨ従順。」

「ありがとうございます。これならもう少しコチラの組織で仕事させられます。」


後部座席のドアを開いた石田は、後部座席から取り出した毛布で女を包み乗せる。


「顔合わせありがとうございました。今度神崎夫妻を連れ正式なご挨拶に伺いますので。」

「会うはサラだけで良いデス。あの人と夜を共に出来る状況作ってクダサイ。オネガイネ。」

「ハハ、誘えばサラさんは酒でも食事でも性だろうと誰でも受け入れますよ。ただ気まぐれで暴力的な彼女と一夜を過ごすなら代償はその命となるだけで。」

「ならアンリは何故平気・・・アレがどう過ごしてるか気になリマス。」

「普通に怪我してますよ。先月は抱擁を受け肋骨と鎖骨にヒビを入れたとかで数日間歩く度にアホみたいな声出していましたし。」

「あぁ、あの日のザキさんの奇行ってサラさんが原因だったんですね。

・・・アレ?骨折ってわりに直ぐ治っていましたけど。」

「理由はわかりませんが神崎は重症の時ほど治りが早いんです。多分その辺りが神崎夫妻の秘密に繋がるんでしょうが・・・。」


気になるネ。と頷いたジョーは数秒考えてから肩を竦める。


「Ms.アマネ。神崎夫妻を探るなら命懸けなりマス。軍属の身からしてもあの2人は常識の埒外に生きてマスデス。

覗きこんだ眼を潰されないよう気を付けクダサイ。」


苦笑し頷いたアマネは、後部座席で震える毛布の横に座る。


「では今日の所はこのあたりで。

今後もMr.のご助力を得なくて良い日であればと願っています。」

「オー、そんな寂しい事言わないデ偶に遊びおいデ。手土産付きならいつでも歓迎。」


会釈をする石田に手を振り自分の車に戻ったジョーは、時間を確認すると車を発進させ、ミラー越しに隣県から来た友人達も車に戻る画を見る。


神崎ガ引退・・・しばらく荒れソウデス。必要な装備の確保、訓練もしとくデスネ。


面倒事にならなければ良いな。と祈りを胸に車を走らせた。






同日、海岸線が白み始めた時刻に倉庫での作業を終えたアンリは、黒石前に整列した5人の男達に会釈をし壁際の木箱で酒盛りをしているサラとカイネを顎で示した。


「お疲れ様。報酬にあのサボり魔2人のケツを蹴り上げて良いよ。」

「い、いえ・・・アンリさんこそどうぞ。」

「そう?じゃあ力仕事をしてくれた皆には個人的なお礼をあげよう。」


別の棚に置かれていた年代と国名、地方名の焼印付きの木箱を示すと言う。


「ヴィンテージ物のウイスキーだ。自宅に置いとくとサラの餌食になるから隠していたんだがこの際だ木箱共々持っていってくれ。」


うぉ、とどよめきが広がり壁際の馬鹿2人がこちらを見ている事に気付いた5人は慌てて木箱を棚から降ろしつつ声を落とす。


「本当にいいんですか?」

「構わないよ。実はウイスキーは苦手でね。投資目的も込みで買ったとはいえこの量をチビチビ楽しんでいたら他の酒が飲めない。」

「ハハ、アンリさんは後先考えないと聞いていた通りです。有り難く頂きます。」


追加の荷物として黒石を用い転移させた5人は手を振るアンリに恭しく頭を下げる


「監督業ありがとうございました。これにて失礼します。」

「うん。身体に気を付けてね。また頼む事があると思う。暇だったら手伝ってくれると嬉しい。」

「無理でも時間を作りますとも。こちらに滞在中のカイネ様をよろしくお願い致します。」

「勿論だよ。帰るまでに数キロ程太らせるから訓練と称して走らせながら小馬鹿にしてやりなさい。」


性格悪いなぁ。と顔を見合わせた5人は苦笑し黒石に触れサラとカイネにも頭を下げその姿を消した。


「お〜い。なんの話してたんだ?」

「運搬を手伝わない酔っ払い達のケツを蹴り上げてやるって話だよ。」

「おーおー、そんときゃてめぇの尻肉をローストして食わせてやる。」

「おいおい俺のプリチーなお尻が羨ましいからって僻むなよ。」


プリプリとお尻をアピールしながら冗談を交わし合いゲラゲラ笑う3人もまた帰路へ付くため片付けを始めた。

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