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聖職者 ④

PC画面内に映るで銃器を向けられたカイネを見るアマネは口元を押さえながら声を震わしアンリの肩を揺する。


「ザ、ザキさん・・・助けに行かなくていいんです!?これ?」

「ん〜良いでしょ別に、カイネが死んだら一旦撤収してサラを連れて来ようか。」

「ちょ、友人ですよね?なんでそんな・・・。」

「仕事中に友人云々の個人的な感情は持ち込んじゃ駄目駄目。

そんな甘々思考じゃ血糖値も爆上がりで眠たくなっちゃう。」


ドローンの操作をしながら笑うアンリは、落ち着きがないアマネに苦笑すると画面を指差し口を開く。


「ほら、始まったよ。数分も経たず結果が出るから見逃さないようにね。」





口元に当てていた人差し指をこめかみに当てため息を溢したカイネは、ニヤけた顔とバット片手に近付いてくる長身の男を遮蔽物として扱う事に決め身体を横に倒した。


手足を撃ち抜く前に接近するとは・・・私の盾になりたいと行動で示しているとしか思えんな。


男の歩行姿と重心移動、視線から戦闘技能を修めていない喧嘩自慢程度の素人と判断し、つまらない戦いだ。と思い、戦闘と呼べる水準ですら無いとも思う。


間合いに入るや反射的に振るわれるバットは、技量不足な素人が咄嗟に行う利き腕の大振りであり、その反射運動を理解しているカイネはくぐるよう身を屈め、男の膝を左腕で抱え右腕は眼球へフィンガージャブとして突き入れながら押すように体重をかけた。


倒れる男を眼窩に突き入れた指を曲げ支える事で壁としつつ、ナイフを喉下から頭蓋へ突き刺しながら銃声がいつまでも鳴らない事に違和感を覚える。


なんだ・・・?何故撃たない?


中、遠距離武器には殺傷能力を活かせる適正距離がある。

弓やクロスボウの矢が放ったれた直後は柄のしなりが収まる数m以内では貫通力が弱まるように、銃器は射撃する前に制される距離外から撃たなくては銃口の向きと指の動きからタイミングを読まれ潜り込まれ対応に一手遅れが出てしまう。


素人の戯れあいならともかく殺しに来ている相手にこの距離でまだ撃たない理由はなんだ・・・?


血潮と共にナイフを抜き、そのまま銃口を向けている男への牽制として投じた時、あぁ、と理由が理解でき一歩を早めた。






「装填数が一発ですか?」

「うん。漫画やドラマだと銃を手にした半グレが好き放題する描写があるけど実際はそうはいかない。

彼等のような半グレを管理している本職は銃器の影響力や危険をきちんと理解している暴力の専門家だ。」


PC画面内で動きのない男を指差したアンリは続ける。


「日本でも銃自体の入手はそれほど難しくないけど弾丸の入手となると伝手が必要になる。

勿論花火とかから火薬は手に入るけど自作の薬莢や雷管は暴発が怖いから製造方法を知っている俺でも造らないし使わない。

となるとマスケットやパイプショットガンに近い機構の銃器なら火薬と槊杖で撃てて比較的安易に造れるけど連射も出来ないし精度は悪く管理と威力に難がある。」

「は、はぁ。」

「そこで本職の方々は最悪離反されても問題なく対処できる手法として一発の銃弾を与え、半グレ君達の小さな自尊心の充足とその部下達の管理に利用させる事にしてるんだ。

ほら、どれだけアホでも目の前で実弾発砲を見せられたら指示に従うでしょ?部下の統率って点でも弾丸は演出用の1つで充分なんだよこの国は。」


平和的でいい事だね。とにこやかに笑うアンリは、ほら、と指差した画面には倒れる男と投じられたナイフを躱そうと大袈裟な動きを取った為、銃を制されたマヌケがいた。





左手で掴んだ銃口を握り外へ向け制したカイネは右掌底を男の耳へ叩き込み鼓膜を破った。

そのままの流れで男の耳を四指で掴み固定し、親指を眼窩に突っ込んだ所で激痛と眼球欠損の恐怖が生む反射運動により男は両手でカイネの右腕を掴もうとする。


銃から手を離してどうすんだボケが。


掴まれた右腕を捻り手前に引く事で男の身体を引き寄せ、崩れたバランスを保持しようと開いた股間への膝蹴りを入れたカイネは、崩れ落ちる男の顔面を蹴り上げ仰向けにすると手近にあったボーリングボールを男の顔面に叩きつけた。


レーンまで血が流れ広がる中、手元の銃を手入れ不足や暴発の心配がない事を一通り確認する。


相手を前にロック解除もしてねぇとは威嚇用で使った事無かったのか?

切り札なら実用出来るよう訓練位しとけってんだボケが。


何もかも不足していた相手への悪態を付きながらマガジン内の弾丸が1つしか無い事も確かめ、レーン先で転がっている最後の男の頭を撃ち抜いた。








鉄板の上で焼ける肉と脂の香りが立ち込める店内。

油煙による汚れ1つ無い調度品にて設えた個室でシェフにより振るわれる技法を見るカイネは感嘆から小さく拍手を送る。


「称賛に値する技だ。思わず魅入った。」

「ありがとうございます。」


ブランデーによるフランベで香り付けされたステーキをカットしそれぞれの前に提供したシェフはお辞儀をする。


「見事だ。お前が向こうで料理したのも美味かったがさすがに比べるべくもないか。」

「そりゃそうだろうよ。こういう極致を知っているから向こうで飲食店をやらなかったんだもん。」


箸で摘んだ肉を塩に触れ口に運んだアンリは頷く。


「素晴らしい、アマネさんもくれば良かったのに。」

「今は肉を見るのは無理〜ってか。ずいぶんとナイーブな奴じゃないか。」

「まぁまぁうちはアルハラしない集まりだから無理なら無理でいいの。サラも遊びに行っているようだし。」

「そういやいなかったな。あいつ何処行ってんだ?」

「多分ホストクラブじゃないかな。

初回は安く飲めるしサラに担当付いてもツケの回収出来ないから。んで適当にチヤホヤされながら店中の酒を飲み干すか、断られたら暴れて帰るのが最近の趣味なんだよ。」

「厄介客じゃねえか。」

「別の組織の店だから仕方ないね。」


ケラケラ笑うアンリはワインで口を湿らせ笑みを深める。


「アマネさんは使い物になりそう?」

「ここで話していいのか?」

「大丈夫。シェフの身辺調査はしてあるし、万一不備があったらこの鉄板をシェフの火葬場にするから。」


アンリの言葉に些かの戸惑いも怯えも見せずカイネのグラスにワインを差し出し注ぎ終えると会釈を返す。


「暴力系は向いてないな。私やサラのような暴力担当を付けた方が仕事がしやすいだろう。」

「だよね〜。カイネの仕事映像でも目を背けてたからなぁ。他はどう?」

「お前が問題を感じないなら文句は無い。上手いこと育て組織を継承させたら戻ってこい。」

「オッケー。俺もサラも1、2年で引き上げる方向で調整してるよ。」


了承を示しグラスを合わせたアンリとカイネはケラケラと楽しげに笑い合い、幾つかの事業と輸出入内容の調書を交わしながら次々と提供させる肉料理に舌鼓を打つ。


「しっかし美味い肉だ。肉質も脂も向こうとは比較にならん。この和牛とやら輸出品目に入れられるか?」

「うーん、和牛となると雌雄の子牛は難しいだろうね。ブランド価値を守る為に持ち出し制限があるから多分生体販売も監視対象だろう。」

「難しいか・・・。」

「まぁ、政府の補助金不足が指摘されている業界ではあるから借金で経営がヤバい牧場を探して受精卵とかなら確保出来るとは思う・・・でも、酪農関連の知識は基本的なものしか履修してないからそう詳しくないけど品質維持可能な飼育環境と飼料とか水とか考えると数世代後には似て非なるものになりそうでもあるよね。」

「お前そっちの知識あるんだな。」


関心しながらワインを空にしたカイネはシェフをウェイター代わりに追加を指示する。


「農業と酪農知識は世界中で使える分野だもん。

将来国外逃亡した時の潜伏先や現地での仕事、後は動植物の密輸にも使える知識だから反社なら覚えておいた方が良いものって事で学生時代に農業と酪農は体験学習等の機会がある度に積極的に参加してしっかり学んだんだ。」

「お前は昔から変な方向に頑張る奴だったんだな。」

「変って言うなよ。こう見えてガキの時分は立派な悪党を目指したひたむきな努力家だったんだぞ。

大麻やケシ類を育てる日に備えて草花の生育学習目的に学生時代のアルバイトは花屋を選択した程熱心だった。」


残念なモノを見る目がカイネ達から向けられている事に首を傾げたアンリは、でも、と続け箸休めに燻製チーズを口に運ぶ。


「お試しで確保しておく?」

「いや、一頭買い後の枝肉を品目に加えてくれ。」

「了解了解。専門家の確保を命じられなくて良かった。」

「向こうに記憶まで持ち込めるかわからんからな。」


残念な事だ。と談笑交じりに言葉を交わす悪党2人の夜が始まった。

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