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聖職者 ②

「んーーこの位か。良い銃だなこれは。」


パンッパンッ、と連続して銃声が響き硝煙の臭いが立ち込める小屋内。

土嚢に貼り付けられた的代わりの紙の中心近くに集中する弾痕を見るカイネは満足気に頷いていた。


「取り回しと生産、整備が楽って事で軍隊にも採用されている紛う事無き名銃だよ。」

「普及性と維持は重要だからな。何より女でも扱える程度に反動も少ない。」

「カイネは普段リボルバーだもんね。一丁持っていく?」

「そうだな。フランの護身用に貰うか。」


慣れた手つきでグロックを分解し机の上に置いたカイネはアマネに場を譲る。


「組み立てろ。」

「え?」

「え、じゃねぇ。自分で安全かも確かめられねぇモン撃って暴発したらどうする?

んな手抜きの得物で撃たれる相手の気持ちにもなってみろ。」

「おーいカイネ。根本的な心構えは後日でいいから今日は撃たせてやろう。その為の場だ。」

「先ずは楽しく遊ばせようってか?怪我しない玩具じゃねぇんだぞ。」


悪態をつきながら組み立てたカイネはマガジンに一つだけ弾丸を入れアマネに渡す。


「反動を知らねえと銃口が上がって顔に向くからな。そのまま自殺したいなら自分で追加を装填しなよ。」


肩を押すように机を挟み土嚢を正面に置いたアマネは手にした銃に緊張を強くする。

決して重くないグロックだが、始めて手にした『殺す為の道具』という実感が硝煙の臭いを含み五感でわかって喉を鳴らす。


「あの・・・。」

「おい、銃持ってこっちを見るんじゃねぇよ。私を狙いたいのか?」

「ち、違います!?構えた事もなくてその・・・どうすれば・・・とか。」


チッと舌打ちしたカイネに萎縮したアマネを庇うようにアンリの声が届く。


「カイネ。射撃を教えてもらう為に呼んだんだよ。貴女が仕事をしないなら俺も働かない。」

「てめぇは今バカンス中だろうが。」

「休暇の合間でも片手間で仕事してるでしょうが。きちんと成果も出しているし依頼通り組織運営の基礎も築いている。」


ギシリ、と音を立て壁から離れたアンリは数歩と扉へ歩き声のトーンを落とし続ける。


「なぁカイネ。俺の依頼を軽視するってのはどういう事か教えてくれるか?」

「・・・オーライ怒るなよマイフレンド。冗談さ。」

「だよな。ガラにもない事言ってごめんよアミーガ。」

「あ、あの・・・その・・・。」

「大丈夫大丈夫。引き続きカイネから銃の指導を受けてみて。俺は少しグエンさんの経営状況の確認してくるから。」


じゃね。と片手をヒラヒラさせて扉をくぐるアンリと苛立つカイネを交互に見たアマネは八つ当たりされないか不安な様相で喉を鳴らす。


「・・・教えてやるからさっさと構えなよ。」

「はいっ!?」

「緊張し過ぎると身体が強張る。肘も伸ばすな。軽く曲げとかないと発砲の反動で関節を痛めるからな。」


少しでも土嚢的に近づけようと伸ばしていた腕を緩めたアマネは後ろから包まれるように腕が回される。


「力の配分は右手が3、左手が7位で構えてみろ。」

「こうですか?」

「おい左手をグリップ下に回すな。反動を抑えられず銃口が上に向くんだよ。左手は右手を包むようにホールドだ。」


添えられた両手に従いゆっくりと照準を定めていく。


「ん、ここだ。トリガーに力を込める際が一番銃口がブレるから優しく撃てよ。」


カイネの手から伝わる熱と力加減に従い、引き金に掛けた人差し指に力を込めた瞬間、想定より少し大きい反動と銃声の衝撃が身体を走り抜けその場にへたり込んでしまった。






「落ち着いたか?」

「はい〜うぅ、本当すいません・・・。」


パイプ椅子に座り込んだ姿勢で頭を下げるアマネは不甲斐なさに肩を落としている。


「平和で甘ちゃん共が生きられる国ってのはこういうもんか。」

「カイネさん?」

「気にするな。生活に銃声の届かない世界は私も主も理想とする所だ。

この国ではお前が真っ当で、私やアンリがおかしいんだろう。」


机の上に置かれたマガジンに装填するカイネは土嚢的に向けに小気味良い発砲音を続かせながら言う。


「だがお前がアンリの後釜と成るなら暴力は必要だ。

それが部下であれ、銃器であれ、資金力であれど他者を黙らせるだけの力を身に着けなくてはこの業界で生きていられないからな。」

「正直にいえば務まるとは思えないんです。なんで選ばれたのかも未だにわかりませんし。」

「アンリが成ると判断したなら問題ない。私達はそれに従うだけだ。」


空のマガジンを取り出し再び装填し始めたカイネはどこまで説明をするべきか悩み言う。


「アンリはアホでふざけてばかりいるが勘は良いんだ。

その勘がお前に見込みアリと判断しているうちは優遇するし、より相応しい候補者が現れたら躊躇いなく消す。

それがあいつの処世術で私達が信頼する根拠だ。」

「・・・価値を示している間は、って事ですよね。」

「そうだな。まぁそれはお前だけじゃない。

アンリもサラも腑抜けて使えないと判断したら情報漏洩を防ぐ為に処分するし、逆も然りだろう。

うちには追跡と殺しに特化したラズって奴がいてな。殺害衝動を開放していい機会さえあるなら相手は誰でも構わないって生粋のイカれだ。」


楽しそうに口元を綻ばせ笑うカイネは銃を机に置きアマネに場所を譲る。


「そろそろ再開出来るか?」

「大丈夫です。やれます。」

「オーライ。銃が不出来ならナイフか鈍器術になるからな。殺しの感触が手に残る武器は慣れるまでキツいぞ。」

「うぅ、ちょっとそっちはザキさんとやった追い込みで嫌悪感がまだ・・・。」

「経験済みか。なら2度やらずに済むよう練習さ。幸いお前の立場は不都合を下の者に押し付けられる役職だ。うまく立ち回るんだな。」


マガジンをセットし先程指導を受けたまま構えたアマネの第2射は盛大に外れ壁に穴を空けた。






数度の発砲音と会話を扉越しに聞いていたアンリは一区切りついた雰囲気を感じ取り扉をノックし開けた。


「はいお疲れ様。飲み物持ってきたから休憩するかな?」

「気が利くじゃねえか馬鹿野郎。酒はあるんだろうな?」

「飲酒後の銃は危ないから帰ってからね。」

「アルコールなんざに私が負けるか。」

「仕事が1つ増えたんだよ。帰る前に半グレさん達のアジト1つ潰す事にしたからさ。」


肩を竦めるアンリはスマホの地図アプリで近場の街にある寂れたボーリング場を見せる。


「グエンさんにみかじめ料要求してるんだって。半グレさん達は上の使い走りだろうけどほっておいてここの営業に支障がでても困るからさ。」

「めんどくせぇなぁ。」

「良いじゃないの。2週間の待機期間中ずっと大人しくしてたらフラストレーション溜まってるんじゃない?」

「まぁそれはあるか・・・いいだろう。帰ったらアレだ。鉄板ステーキ行くから予約しとけよ。」

「オーライ。脂で咽る程の高級店に連れて行ってやる。」


スマホに伸ばした手を途中で止めたアンリは、伺う視線を向けているアマネと土嚢的を交互に見て頷く。


「慣れた?」

「あ、はい。でもちょっと手首を痛めたので今日は・・・。」

「それは仕方ない。この先アマネさんがそれを撃つ事になるかはわからないし、その時でも今日程景気良く銃撃する状況にはならないと思うから気にしなくていいよ。」

「はい・・・その時、撃てますかねこんな私でも・・・。」

「ん〜〜。何かしらの建前で自分を誤魔化せば良いんだよ。」


例えば、とカイネを指差し、


「信仰や正義。」


自分の胸に手を当て、


「金と信頼。」


外の作業場に手を広げ、


「生活に業務。」


ね。と苦笑したアンリは振り返る。


「自己肯定感を満たす言い訳や建前があるなら人はどんな事も出来るし他人に強いる事も辞さない。

もっともわかりやすく酔狂しやすいのは責任や動機を他人や神様に押し付けられる信仰や正義がオススメかな。」

「正義・・・。」


楽しげに口端を吊り上げ邪悪に笑うカイネは頷く。


「正義ってのは時に人の思考を麻痺させる劇薬さ。

正義を掲げ戦争を煽り、

正義と信じ宗教勧誘を行い、

正義を確かめず主義の異なる他人を攻撃し、

正義と嘯き政府や社会に罵詈雑言を吐き捨てる馬鹿がこっちにも多くいるだろ。

その大半は自身の無能を隠し見栄とする為に正義を建前にしているだけなんだがコレがまぁ使いやすい価値観で大衆にも口にしやすいのさ。」

「アマネさんが何を建前に人生選択をするのかは任せるよ。

ただ、アルコールやドラッグみたいな思考能力を放棄した逃げの選択を取らなければ俺は何も言わない。」

「・・・少し考えてみます。」


それが良い。と頷いたアンリは帰宅準備を2人に指示しながら夕食の予約を始めた。

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