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山崎賢治の災難 ①

日が沈み夜の帳が下りきった夜空を星が飾る時刻。

カラオケルームの一室にて待機していた石田とアマネは扉をノックする音に立ち上がり入室するアンリとサラに頭を下げた。


「待たせて悪いね。監視カメラと盗聴器のチェックは?」

「終えてます。扉のガラスに服でも掛けても貰えれば何も問題ありませんよ。」


部屋の上部に設置されたカメラを遮るように帽子がかけられている事を確認したアンリは頷く。


「石田さんの下は勉強になった?」

「は、はい。色々と学ばせてもらってます。」

「うんうん、根を詰め過ぎない程度に気楽にね。」


懐から革製のカードケースを2つ取り出したアンリは机に置き続ける。


「変形式の小型銃だ。銃身の短さと射撃訓練未習から殺傷能力は最大5メートル程度と考えてくれ。あぁ、当然弾丸はそれぞれ1発ずつだ。」


カードケースから取り出したプラスチック製に見えるカードの留め具を外し約95℃程に開き銃口と持ち手の変形機構を見せる。

銃身の上部を開き22口径の弾丸装填しその後ろのスライドを引き構える。


思わず距離を取るアマネとは対象的につぶさに動きと実物を観察していた石田は、装填状態から解除し通常のカード型に戻すアンリに言う。


「表面のロゴを削ってあるようですがライフカード22LRですね。初めて見ました。」

「少し前に自衛用として米軍基地の友人に頼み込んで子供用玩具に紛れ込ませて運んでもらったんだよ。

現地価格の5倍、弾丸はまた別途費と幾分も足元見られたけどね。」

「なるほど、この形状にチャチな外装とあらば警察も銃器とは気付かない・・・か。」

「過信はよくないよ。この国の警察は世界基準で比較しても大変優秀な能力と組織体系だ。

手間をかけた買い物だったけどいざとなれば捨てて良いから気軽に持っていきなさい。」


ささどうぞ。と差し出された一つを手にとった石田は避難しているアマネに差し出し、残る一つを懐にしまう。


「2代目どうぞ。」

「私撃てない。撃てないからいらないです。」

「自衛の手段は必要です。」

「そうだよアマネさん。半グレ相手の交渉だ。彼等のような半端者が真っ当な知能を持っていると思わない方が良い。

有り体に言うなら服を着て言葉を喋るチンパンジーと思いなさい。力の差がなければ従わないし任せた仕事の大半は杜撰で下の下だ。」


視線を向けられた石田は頷き言葉の先を紡ぐ。


「ゴミ共に知性も理性も期待しないのはこの業界で上に立つ者の一般教養で共通認識です。

3歳児にも分かるよう丁寧な絵図を用意し、チンパンジーでも従いたくなるような状況と躾をして初めて彼等は末端兵として使いモノになります。

手を抜けば杜撰な仕事のツケで自分の首を締める事になりますので。」


改めて、どうぞ。と渡された銃を受け取ったアマネは泣きそうな表情筋を唇を噛む事で引き締め頷く。


「わかり・・・ました。やってみせます。」

「うん任せるね。今回はサラもついていかせるから荒事になっても問題ないから気楽な社会勉強だと思えばいいよ。」

「あぁ、荒事は私に任せとけ。攫いも拷問も処理も一通りやれる。運転は出来ないがな。」


カラオケ店のパーティーメニューのページを真剣な眼差しで見ながら言うサラに全員が苦笑した。






とあるマンションに程近い公園の駐車場にてアイドリング状態の車内で待機している石田は無線の受信機を調整し警察無線を耳していた。

その助手席にてマンションの一室を双眼鏡で確認しているアマネはふと気付いた事に首を傾げ言う。


「当たり前に聞こえていたので気にしてなかったんですけど、警察無線って普通は傍受出来ないんじゃ・・・?」

「この受信機は警察が支給している物ですから当たり前に聴けますよ。」

「あ、警察組織にいるって話の幹部さんですか?」

「えぇ、自身の備品を無くすと始末書や遺失物捜査と面倒なのでコレの本来の持ち主は別の署員だと思いますが。」


受信機に触れた石田は苦笑する。


「神崎は情報を重視する悪党ですので当然の備えといえますが、コレのおかげで夜間にこんな怪しい位置で待機していたとしても警察車両が近くに来る前に逃げられます。」

「あぁ、なるほど・・・ザキさんらしい備えです。っとそういえばザキさんはこの時間なにしてるんです?」


後部座席でクーラーボックス内の缶チューハイを選んでいたサラは氷水に濡れた手を服で拭いながら顔をあげる。


「今度カイネをこっちに連れて来るって事で血液検査等の病気関連について必要な調整と説明に行っている。」

「カイネさん、えっと・・・健康に問題が?」

「いや、あ〜この辺りの件はあまり言うと怒られるから聞くな。

ただ、カイネを呼んでアマネに射撃訓練をさせようって話になっただけだ。ついでに事業の中間報告とかも必要だしな。」


顎に指を当てていた石田は無線機の調整を終え小さく手をあげる。


「サラさん。その場に自分も立ち会う事はできますか?」

「あん?カイネに会いたいのか?」

「はい。そのカイネという方が神崎の本来の雇い主では?そうであるなら興味があります。」

「雇い主というかアンリを唆してこっちに派遣したクズ聖職者だな。

会うのは構わんが正真正銘の外道だから気をつけろよ。」


プルタブを開け一息で缶チューハイを空にしたサラは空き缶を手で転がしビー玉並の大きさまで潰す。


「お、お目当ての部屋から女が出てきたぞ。攫うか?」

「え?本当だ。サラさん目が良いですね〜。」

「そうだろそうだろ。常に私を褒めてくれ。」


小さく拍手をするアマネとサラのやりとりを無視して双眼鏡で女と部屋を確認した石田はタブレットを操作し情報と照らし合わせ頷く。


「あれは山崎が飼ってる性接待要員ですので価値はありませんからスルーで大丈夫です。」

「そうか。ならそろそろ部屋へ遊びに行くか?」

「いえ、普段通りならもう少しで夜遊びにでてくる筈ですので・・・そこをお願い致します。」

「わかった。私が攫ってくるから車を回してくれ。」

「はい。アマネさんは周囲の警戒と攫った後の所持品の押収と尾行確認をお願い致します。」


頷いたアマネは一度胸に手を当て、呼吸を落ち着けてからポケットのライフガードにも手を触れる。


仕事として割り切る。大丈夫私はやれる。


アマネが気持ちを固めている時間で想定される状況確認と移動ルート等の情報を聞こえてくる警察無線と照らし合わせていると目的の部屋の扉が開き男が姿を現した。

そのまま階段方向へ向かっていくのに合わせ車の移動を始めた石田は、ハンドルを強く握る。


「仕事を始めましょう。よろしくお願い致します。」

「はい。お願いします。」

「あぁ。さっさと終わらせて飲みに行こう。」


3人は事前の打ち合わせ通りに行動を開始した。

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