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神崎の軌跡 ①

駅から続く大通りを西に10分程進み、街の賑わいが落ち着き始めた辺りの中道を進んだ突き当りに古びたテナントビルがあった。

空白が目立つ店舗案内図を横目にエレベーターに乗ったアマネは三階のボタンを押してからスマホに視線を落とし息を整える。


ゆっくりと上昇するエレベーターの上昇音を耳に緊張を顔に貼り付けている理由はアンリ達の組織の幹部と会うからだ。


嫌だなぁ。ケンさんも陳さんもマナさんも『マトモ』じゃなかったから怖いなぁ。

そもそもザキさんが頭おかしい系だから仕方ないかもだけど常識人の私の胃に負担をかけない人だといいなぁ。


無理か。と諦めたように肩を落とし、到着した三階フロアに足を進め、目的の石田探偵事務所。と書かれた扉を見つける。


一度深呼吸をし気持ちを落ち着けたアマネは扉を開け探偵事務所へ入室した。





机に積まれた幾つもの資料や参考文献の束と共にPC作業を続けていた石田は扉が開く音に顔を向け入室してきた女性を見て時計を確認する。


「おはようございます。時間通りの行動大変素晴らしい。」

「あ、おはようございます。石田正人さんでしょうか?」

「名前で呼ぶのは止めてください。その名に相応しい仕事をしていないのだから。」


扉を閉め頭を下げるアマネに手振りで中へ入るよう勧めた石田は、来客用の机を示し未開封のペットボトルのお茶を置く。


「天童アマネさん・・・それとも次期ボスとして2代目と呼ぶべきですか?」

「い、いえいえっ!?次期ボスだなんて、そんな・・・。」

「神崎からそのつもりで扱うよう指示があったんですよ。」


ノートパソコンとタブレットを操作しながら居住地区の地図と日本地図をアマネに見えるように差し出す。


「自分は神崎との付き合いが組織の中ではサラさんの次に長く、雑務全般を任されています。その為、他の幹部が知らない事も知っており聞く立場でもあります。」

「えっと・・・。」

「自分が受けた神崎から命令は貴女の下につき雑務の補佐をしながら組織の長としての知識と経験の補完です。」


タブレット内の日本地図には岩手県から静岡県まで引かれた線とその所々に日付と事件が記されている。


「神崎夫妻はおよそ1年程前、岩手県の遠野物語に語られる神隠し伝承地域の周辺で発生した集団失踪事件が最初の目撃情報です。

その後、線上の地方都市で起きた事件時に目撃されながら南下し仙台に一時拠点を置いていました。」


ここですね。とタブレットを拡張した仙台市内には3ヶ月程の日程と複数の事件内容もその記事のURLが別途記されている。


「暫くし、東京、神奈川県にも一ヶ月ずつ滞在しこの街にて完全に動きを止め半年程となります。ここまでで質問は?」

「あ・・・なんでそんな詳しいんです?それとこの情報って知ったら殺されるとかは・・・?」

「次期ボスであれば彼等の軌跡を知る事で不要な厄介事を避け、近隣県の反社組織とも共存関係を築けますので。

勿論、不用意に他言すれば消されますのでお気をつけを。」


それと、と言葉を置き、スーツのボタンを外し、ベルトからシャツを引き抜き腹部から背への範囲に広がる赤黒い縮れた皮膚の修復跡を見せる。


「自分は元々は岩手で個人探偵事務所をしていました。

初めに伝えた集団失踪事件の遺族の一人から受けた依頼の調査をしていた所、神崎夫妻に捕まりこのような追い込み後に何故か気に入られまして今の雇用関係に至っています。」

「・・・因みになにされたらそんな傷になるんです?」

「あぁ、この範囲をガムテープで覆うように固定してからカッターで四角く周囲を切り、皮膚ごと剥がされました。

一時は筋繊維が剥き出しで人体模型みたいでしたよ。」

「すいませんすいません!?もういいですっ!?聞きといてアレですけど聞きたくないですっ!?」


興味本位で尋ねるんじゃなかった。と後悔するアマネは衣服を整えネクタイ位置を正し着席する石田に頭を下げる。


「あの、恨んでないんです?ザキさんのこと。」

「ハハ、神崎の仕打ちから五体満足で解放される幸運。あの夫妻との付き合いを重ねればそれが如何ほどの僥倖だったか身に沁みて理解出来ますとも。」


傷跡の位置に服の上から触れ苦笑する。


「なにより金払いが良く他の役得も多いとなれば多少の恨みはね・・・。勿論神崎が落ち目となるまでは、の話だが。」


怖いなぁ。と思うアマネは先に進めても?と問われた声に頷く。


「神崎が過激派環境保護団体に加入したのは神奈川県に居を構えている時です。

横須賀米軍関係者の引っ越しアルバイトとして軍人、その家族との接触後に米国に拠点を持つ環境保護団体へ接触をしました。

またその際に素行不良軍人とパイプを作り、基地勤務者家族の引っ越し家財の内側に紛れ込ませる形で定期的な麻薬の入手、それを国内販売により得た資金を献金する事で瞬く間に環境保護団体の幹部に登りつめました。」

「凄い・・・ですね。」

「神崎は道義と倫理を無視した残虐性と決断力。そして異常な勘の良さを併せ持つ傑物ですから。

それは一般社会の枠では決して芽を出せなかった才能でしょう。」


そして、と続けた石田は傷跡に触れていた手を机に戻し言う。


「精神性の傑物が神崎であれば暴力の傑物がサラさんです。

神崎は短期間に多くの金を集めた一方、縄張りを荒らした事で複数の反社組織からマークされました。

さながら甘い蜜に虫が集るように金を持つ者には悪意が集う。それをサラさんが力でねじ伏せていく姿は言葉では嘘と疑われる程異質な光景でしたよ。」


思い出したのか僅かに青ざめた顔で両手を握り合わせるように震えを止める。


「それほど詳しいなら石田さんも2人を支えたんですね。」

「法や行政、情報収集等の雑務だけです。自分は今も昔も荒事に向いていない。」


ケン達からクスリ関連と雑務を任されている幹部がこの人だと聞いているアマネは内心で苦笑する。


ザキさんが信頼し情報を預け、開示を許すような人がこの業界が不向きとは思えない。

どう控えめに受け取っても謙遜でしょ絶対。


もしくはまだまだ試されている立場だから歩み寄られないだけなのかも、と思い苦笑を濃くする。


「組織の軌跡はわかりました。私は石田さんの下で何をすれば?」

「単純です。貴女の元ボス、斉村茂が影響力を深めていた地域の継承と支配。それを業務としましょう。」


PC上の地図が拡大され居住地区周辺が画面内に合わされる。


「空白地帯となった為この地域のゴミどもが活性化し始めました。

特に土屋率いる無頼連合は既成事実化も兼ね下の暴走族、旧車會を走らせ威嚇行動に移り始めています。」

「土屋総長・・・。」

「正直、緊迫した状況です。完全に縄張りを奪われてからの対応だと周辺組織にも当該地域住民にも反発される可能性が高まりますので早急な対応に移りましょう。」


頭に疑問符を浮かべオロオロするだけのアマネの前にタブレットを差し出し、自身にPCを引き寄せた石田は言う。


「該当地区で斉村さんが管理していた頃の顔役へ接触をはかります。

ご記憶にある名前や特徴を教えて下さい。」

「えっと、ちょっと待って下さいね。あ〜・・・。」

「これが最善で顔役と接触出来ない場合は次善の行動として、神崎に協力を要請し個人的な交友から武道派を貸してもらう事になります。

サラさんと並ぶ暴威が数人いるとの事ですが制御し難い性格とも聞いていますので穏やかな日々とはお別れを。」


両手を前に出しタブレット内の名簿に目を走らせるアマネは焦燥を噛み殺し記憶を探る。


ボスの支持で何度か顔を合わせたあの人達は・・・。

なんと呼ばれていたかを探るように虚空に視線を向けてから目を瞑る。


「ヤマです。他の人達にヤマって呼ばれていた半グレがチンピラを管理していました。」

「特徴を。」

「えっと・・・両腕のタトゥーと短髪。後は、馬鹿みたいにピアスの穴を拡張していました。」

「ハハ、山崎賢治ですね。住所は把握していますので接触しましょう。」


席を立った石田はPCを閉じると一度伸びをする。


「アマネさんが直ぐに動かせる資金はありますか?」

「え?えっとザキさんの所で頂いた報酬が・・・二、三百万円位・・・。」

「了解しました。神崎にも手伝わせます。」


言葉と共に石田はスマホに手を伸ばした。

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