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幹部 マナ

柔和な微笑みを浮かべ言葉を待つアンリは対面に座るスーツ姿のマナを一度つぶさに観察しながら言葉を待っていた。


本職は教師というのも頷ける程にサマになっているなぁ。

親しみやすい言動とは違い、礼節を身に着けた立ち振舞いや物腰、そして身なりから見て取れる雰囲気は本来、俺達のような半グレともマフィアともとれる反社カルテルに属する人では無いんだが・・・。


思考を進めながら確信をもっていえるのは、この人は方向性こそ違うが自身が知る悪女の極地に分類されるカイネやノイル、そしてラズと並べても遜色の無い悪党だという事実だ。



女子校の教職という立場を利用し、多感な年頃の生徒を導き信頼を勝ち取りながら進学の際に必要以上の額の奨学金を背負わせる事を布石とした手法。


それは輝かしい未来しか目がいかない当人では、必要以上に負わされた奨学金という重しの本質に気付けず、また学生時代に金融と契約の知識を身に着ける授業が無いから疑問を持つことも出来ない罠。


そして返済相手が国庫である為、契約にそった延滞以外の拒否行動が出来ず、その重責と長期に及ぶ返済期間が閉ざした未来を実感するのは社会人として行動を始めた頃となり、やがて返済に苦慮し相談に来た元生徒や高校卒業後、就職がままならなかった元生徒を自身の管理する風俗店に沈めるその鮮やかな手口は、現代の女衒師と称しても構わない程に悪辣で逃場が無い。


生徒に楔をうち青田買いとして将来の人員確保を本業を通じて行う素晴らしい才覚は驚嘆に値する一方で当然敵も多い。

風俗業自体が他店の引き抜きや客の揉め事が多い上、性産業に従事させている従業員からも恨まれているからこそ、構築した女衒システムと派遣型風俗店舗の維持にトラブルメイカーでありながら調停人として台頭し、縄張りを主張しないアンリを利用する為に自らコンタクトを取ってきた経歴がある。


油断できない人だ。と思うと同時に、とても優秀で得難い人だと認めている。だからこそ直接会いに来るという事は何かしらの厄介だと思うのだ。


「要件、という程でもないんですけど・・・。」


声に思考を止めたアンリは手振りで先を促す。


「1つ目は、斉村の失脚の情報と彼の縄張りとしてた領地の確保の提言を。

2つ目は、オイタをした従業員が出ましたので躾を兼ねた指導人員にケンさんの所の浮浪者を借りたい旨の連絡です。

最後はライバル店から従業員に対する引き抜き行為があったから対処のお願いを。」

「斉村さんの件は本人から聞いたし縄張り確保には動くから安心していい。

3つ目も店舗を教えてくれれば今日にでもサラを連れて遊びに行って話してこよう。

話し合いの様子は撮影しておくからきっと満足してもらえると思う」


ただ、と言葉を続け、こめかみに指を置いたアンリは首を傾げる。


「2つ目に関しては浮浪者の貸し出しは出来るが彼等に演技を求められても難しいよ?それに・・・女性に飢えている。」

「構いませんよ〜。脅しは真に迫る方が心を蝕みますので。なんなら男性恐怖症に陥る程のPTSDが望ましい位です。」

「そんな状態で性産業に従事出来るの?」

「怯える娘に興奮する、という男性は多いですよ〜。それにパニック障害を抱える程の男性恐怖症になれば他所でも他業種でも仕事できないでしょ?

心身を壊すまで薬とカウンセリングによる依存構築による誘導とか私得意なんですよ。ほら、教職なので生徒の進路相談とかやりますし。」


慈愛を湛えた微笑みに、生粋の悪女だなぁ。と納得したアンリは頷く。


「ガタイのいい人を見繕うよ。依存関係を築くなら救助役はマナさん?」

「はいはいそうです。何か道具とか貸してもらえます?」

「いいよテーザー銃がある。米軍基地の末端兵がお小遣い欲しさに横流しした軍用の物だ。」


席を立ち隣の部屋に移動したアンリを目で追っていたマナは皮のポーチを手に戻ってきた姿に会釈を返す。


「日本で所持も使用も認められていないから使う際は人目を気にしてね。」

「わぁ、ありがとうございます。」

「後、浮浪者の回収に陳さんに声をかけとくよ。それなら万一テーザー銃で死んでも問題ない。」

「配慮出来る上司って感じかっこいいですよ〜。後の問題は外さないか・・・だけですね。」

「心配なら催涙スプレーもあげるよ。使うと後始末が面倒だけどマナさんの身に何かあるよりはずっと良い。」


服の内ポケットから取り出し机に置いた小型のスプレー缶を手にしたマナは苦笑する。


「あの〜常に携帯してるんですか?」

「護身道具を手放せない小心者なんだよ俺は。」


またまた、と言葉をこぼしたマナは口元に手を当て苦笑を濃くする。


この人とサラさんの気配、雰囲気は小心者というより覚悟をしている人のソレ。

殺る事も殺られる事も日常とした雰囲気は、昔会った死線を潜った傷痍軍人に似ているなぁ。


でも、と言葉を胸に置き、首を傾げるアンリとその後ろでTVを見ているサラの背を視界に収め続きを思う。


それらの覚悟にも似た思考は司法に守られた日本で身に付くモノでは無い・・・戦地に近く命が軽い難民避難キャンプや劣悪なファベーラで数年過ごしたとしてもこうはならない気が・・・。


何かしら異常な状況に陥り順応した結果だろう。と結論出したマナは会釈と共に提供されたテーザー銃と催涙スプレーをポーチにしまう。


今の情報量から神崎夫妻を探るのは無理。今日は有能で油断ならない上司という事が再認識出来たからいっか。


「支援ありがとうございます。

迷惑かけないよう気を付けますが・・・なにかあればまたお願いします。」

「マナさんは本業もある身だ。こっち関連の面倒事は気軽に振ってくれて構わないよ。」

「いえいえ、頼り過ぎると怖いので。では・・・アマネさんにもよろしくです。」

「あぁ、今は陳さんの所で遊ばせているけど近々そっちにも向かわせる。その時は良くしてやってくれ。」


お辞儀と共に席を立つマナは扉に向かいながらサラにも会釈をする。


「サラさんもさよなら〜。今度店のプロフ刷新するのでモデルとかやりません?」

「おう、お土産ありがとな。モデルかぁ・・・気が向いたらいいぞ。」

「お、意外な返答ありがとうございます。勿論、お顔は出さなくて良いのでその御身体を何枚かパシャリと・・・神崎さん的には駄目です?」

「俺はサラの自主性を尊重する紳士、こっちに許可はいらないよ。

ただ、明言しておくとサラの身体に恥じる所は無い。

だから撮影の際は腕の良いカメラマンに頼んでその撮影データの複製をこっちにも送ってください。」


本当にお願いします。と手を合わせ拝む姿からはつい先程の悪党の雰囲気が感じられずその変わりように苦笑する。


「わっかりました。それではまた〜。」

「じゃあな。次はクラフトビールが欲しいぞ。」

「了解です。次のお土産にケースで持ってきますんでご期待を〜。」


深々と一礼をしたマナは、上機嫌に背を向け玄関に足を向けた。

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