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人身売買 ②

駅から吐き出された雑踏が進む列が横断歩道を埋め、その喧騒前に個人運送業のロゴ入りハイエースが信号が切り替わるのを待っていた。

その運転席にハンドルを握る男、陳は長袖の作業服を襟まで閉め帽子を深く被ったまま苛立ちを表情に浮かべている。


狭い国、小さい国、何処でも人多いね。


歩道側の信号が点滅したのを見てナビの示す先を確かめる。


恩人からの依頼・・でもあの人絡みの仕事は面倒多いよ。


信号が青になった事を確認しアクセルを踏み、待ち合わせである駅近くの立体駐車場に向かった。



青空が吹き抜け所々に点在する雲が晴天を示す屋上から一つ下の階層、商業施設を利用するには上階の為平日は疎らにしか駐車されていない閑散した階を一周し、問題が無い事を確かめた陳は、指定された駐車位置にハイエースを停め、タバコに手を伸ばす。

非常階段を除きこの階に来る者が使う唯一のエレベーターをミラー内に収めながらスマホを起動しアンリから送られてきたアマネの画面を写す。


・・・知らない奴。しかも若い。


自身の生業が死体処理関連である事から経験のない人間は邪魔にしかならない。と判断している陳は、不安と共に肺に煙を入れ燻らせた時、コンコン、と助手席側の窓がノックされる音に背筋を寒くし顔を向けた。


そこにはスマホの画面に映る女、アマネが会釈をしていた。


「・・・。」


ドアのロックを解除し車内に招いた陳は、緊張を表情に浮かべるアマネを観察し言う。


「こ、こんにちは。アマネ、天童アマネです。」

「陳ね。神崎絡みの仕事をしてる掃除人よ。」


煙草を消し携帯灰皿にしまいながら言葉を続ける。


「エレベーター、使わなかったか?」

「あ、はい。ザキさんに監視カメラを避けるよう訓練させられてまして・・・その、時間前に屋上で待機して非常階段で降りてきました。」

「・・・学びを行動に移せるはいいことよ。」

「あ、ありがとうございます。」


スマホを操作する陳は、Telegramにてアンリに合流した事と次のフェーズに移る報告をする。


「ここ出る。準備いいか?」

「は、はい。あの何処に?」

「もう1人の協力者の家ね。神崎から聞いてないか?」

「ザキさんは勉強してこい。としか・・・すいません。」


エンジンをかけた陳は額に手を当て数秒考えてから頷く。


「ヘマしたら神崎に尻拭いさせるよ。」

「それって処分じゃないですかぁ。」

「嫌なら俺の指示従う。いいね?」

「うぅ、わかりました・・・何かあったら責任おっ被せますからね。」


このクソガキが、と内心で舌打ちした陳は、従順よりはマシか。と思い直しアクセルに足をかけ車を走らせた。





30分程車を走らせた郊外、ビルや商店街から外れ閑散とした田舎道を走る車内は沈黙が支配していた。

職業柄社交的ではない陳と外国人相手に尻込みしているアマネ、互いに話題も契機を見いだせないまま時間だけが過ぎていく。

そんな不毛といえる時間の中、到着前に話を詰めなくては、と決心をしたアマネは意を決し口を開いた。


「あの〜。協力者ってどんな方か伺っても?とか言ってみたり・・・。」

「・・・ケンって呼ばれるニートね。神崎の指示で躁鬱病を装って生活保護受給しながら浮浪者や障害者の管理をしている男よ。」

「浮浪者達の・・・?」


言葉にしてから先日睡眠薬をもらった際の会話を思い出し、あぁ、と納得の声を洩らす。

納税や仕事の義務を果たさない生活弱者であっても手厚い保護とセーフネットを敷かれたこの国ではやり方さえ知っているならそれなりに豊かな人生を送れる。

重要なのは所得や貯蓄を隠す第三者名義の口座と転売により収入源となる病院で処方される睡眠薬や抗鬱剤等の強力な薬の定期的な確保だ。


多分ザキさんは、現代の錬金術とも称されるこの手法用に浮浪者や障害者を薬物確保班として通院させ処方された薬を支援の名目で買い取っている筈。


「ザキさん手広いなぁ。」

「神崎は金儲けならなんでもやるね。悪党の癖に検察庁で裁判の判決文を閲覧するの趣味にしてるよ。」

「うわ、新しい犯罪知識の入手ですか・・・勉強熱心だなぁ。」

「それもあるね。後は自分が捕まった時、無罪勝ち取った過去の判例に沿ったアリバイと供述造りよ。

ほんと失敗者にも成功者にも学ぶから神崎は強かね。」


嬉しそうな陳の表情から信頼してるんだな。と思うアマネは苦笑する。


「私、全然ザキさんの事知らないみたいです。もう少し聞かせて下さい。」

「当たり障り無い範囲のみよ。深く探るなら直接聞く方が安全。これお互いの為よ。」

「あ〜やっぱりその系統の人なんですね。」

「情報漏洩を許す甘ちゃんじゃないね。おっかない人よ。」


だから信用出来る。と言葉を重ねた陳は目的地が近くなった事でサイドミラーに視線を向ける。


「お喋りおしまい。尾行の確認。やれるか?」

「大丈夫です。私、特殊詐欺グループ出身ですので出し子の戦利品回収で鍛えました。」

「頼もしいね。任せるよ。」


大回りを重ねコンビニ、路駐と繰り返し目的地までの警戒を始める。






所々シャッターが閉まったままの閑静な商店街を抜けた先の3階建てアパートの駐車場に車を停めた陳は、アマネに周囲の警戒をさせつつ、スマホを操作する。

Telegramを用い幾つかのやり取りを終えてから帽子を深く被り直し、ウエストポーチを装着してからアマネに帽子を差し出す。


「305号室行くね。後ろからダンボールと荷物運ぶ。急ぐよ。」

「荷物ですか?」

「大手を振れる仕事違うね。世間様に見られない配慮必要よ。」

「は、はい!指示に従います。」


帽子を目深に被り助手席を出たアマネは、即座に後部座席ドアを開け手前に移動させていたダンボールを抱え階段に向かう。

その直ぐ背を陳が追う足音を聞きながら3階に駆け上がり角部屋である305号室のドア前に着いた時ゆっくりと扉が開き青年が姿を表した。


「お疲れ様。さぁ入って入って。」

「え?あ、はい?」

「さっさと入るね。見られらない、聞かれない、だから怪しまれない。これ常識よ。」


陳がダンボールで背中を押す圧に従い扉を潜ったアマネは招かれるままリビングに着く。


「荷物適当に降ろして寛いでね。」

「あ、ありがとうございます。ケンさんでよろしいですか?」

「敬称はいらないよアマネちゃん。」

「『ちゃん』はちょっと気恥ずかしいですぅ。」

「そう?まぁゆっくりしてよ。陳さんもお疲れ様。」


あぁ、と返事し置いたダンボールの開封作業に移る姿に肩を竦めたケンは苦笑する。


「開封作業は陳さんに任せて・・・まずは挨拶だね。はじめましてアマネちゃん。ボスに拾われてニートやってるケンだ。俺の担当は聞いてる?」

「陳さんから少し・・・生活保護者や障害者の管理と。」

「そうだね〜。彼等をクリニックに通わせ得た処方箋を買い取るアルバイトとネット界隈の監視と情報操作。後は陳さんと組んで自殺志願者の商品化活動をしているんだ。肩書はニートだけど働き者だろ?」

「は、はい。でも何故ニートを?」

「ボスの頼みだからさ。ネット社会で活動してると住所開示請求や訴えられる事もある。

でも生活困窮者を装って於けば差し押さえも何も出来ないから活動しやすいじゃない。」


所謂無敵の人だね。と笑うケンは言葉を続ける。


「ネット界隈を任されるからボスの仕事でも他幹部と一番接するから困ったら相談のるよ。」

「ありがとうございます・・・幹部?」

「そこの陳さんと俺、後は風俗業を仕切ってる高校の女教師と、クスリの販売兼雑務を引き受けている興信所のおっさんかな。」

「警察組織内にも1人いるね。引き入れても転勤すぐくる意味ないよ言ったのに。」

「あらら、内部情報が欲しかったのかな?今度聞いてみよ。

それとアマネちゃんもだね。特殊詐欺グループ出身でしょ?ボスの方針とは合わない事も多いだろうけど頑張ってね。」

「私もそうなんですか!?」


驚いた表情で自身を指差すアマネの姿に、あ〜。と声を伸ばしたケンは頷く。


「じゃなきゃ俺達と顔合わせしないって。

ボスにとって有能って判断されてないなら経験積みは、末端にやらせるような危険で割に合わない仕事から割り振られていたと思うよ。」

「神崎ミスは許す。でも手抜きは怒る人ね。

使い捨てに回されたくなければ肝に銘じるように。」

「は、はい!!気を付けます!!!」


大きい声はだめだよ。とケンの嗜めを受けたアマネは、すいません。と声も身体も小さくする。

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