第99話 国内治安騎士団本部の死闘
国内治安騎士団本部地下。
「たっ、助けてくれーーーーーーーーーー!!!!!!」
「・・・・・・・・・・・・」
無言で背後から近づいたメイドがつぎ次と左手だけで兵士たちの人体急所を甲冑の隙間からすさまじい速さで突いていく!
右手でベルリオーネの体を肩に担いで支えている状態とは思えぬ速さに狭い通路に密集していた国内治安騎士団兵たちは恐怖のあまり失禁する者もいる。
国内治安騎士団員は正規軍とは仲が悪く、連携して事に当たることはほとんどない。
あるとしてもそれは正規軍兵士の逃亡を防ぐ督戦隊として監視することである。
国内治安騎士団員の王国での地位は正規軍よりも高く、無駄にプライドが高く高圧的な態度は正規兵から恐怖の対象であるととともに恨まれる存在となっている。
「ぐぼっ!!」
しかし、戦闘メイド・クラウディアの前にそのような虚構のプライドは影も形もなくなっていた。
すれ違いざまに血を吐きながら倒れていく国内治安騎士団兵士たち。
西洋風甲冑の隙間から的確に人体急所を刺して倒すクラウディアの技は戦国時代の甲冑武者が組み手で鎧どおしにより甲冑を着た相手を殺す技をよりスピーディにしたような恐るべきものだった。
もう片手でボロボロの服装のベルリオーネを抱えながら彼女は薄暗い国内治安騎士団本部の地下階廊下を走る!ベルリオーネは気を失っていた。
「いたぞ!早くしろ!」
クラウディアたちを発見した督戦隊指揮官の叫び声が狭い廊下に響いた。
「しかし、ここは地下です!危険です!」
「構わん!早く吐け!モールス局長たちにバレたらどうなるか分かってっだろ!!」
「わっ、分かりました・・・」
魔導兵の紋章バッジを身につけた兵士が口を開けた。
彼らの口に光が集中していく!
「ライトニングブレス!!」
国内治安騎士団督戦隊魔導兵が口から光り輝くブレスを吐く。
本来ドラゴン系のモンスターが放つ魔力を含む息による攻撃。
人間種が取得するにはレベルの高いドラゴンの肉を食する、血液を飲むなどの特殊な修行をしなければならないとされている強力かつレアな攻撃特技である。
だが、その息を宙を舞い上がって木の葉のようにかわすクラウディア。
それでいて一気に間合いを詰めた。
「ぶぎゅ!!!!!!!」
息を吐いている状態でガーバーマーク2特注仕様の鋭い切っ先が喉から口の中にかけて魔導兵を貫く。
声にもならない断末魔の叫びをあげる魔導兵からすかさずナイフを引き抜き、血が噴き出る状態で黄泉に旅立つ直前の魔導兵の体をクラウディアはうろたえて固まっている督戦隊の一般兵と魔導兵の集団へめがけて投げつけた。
死にかけの魔導兵の体を受け止めた督戦隊員数名がその勢いで倒れこんだ。
すると、死亡寸前の魔導兵の体が光り輝きだした。
「まじい!!ブレス吐いてる途中で無理やり止めたから!!」
「爆発するぞ!逃げ!!!!」
ドググオオオォォォォォォォォォ!!!!!!!!!!!!!!
ブレスを中途半端に止めた状態であったため、体内の魔力が行き場を失い、督戦隊員の集団の中で魔導兵は爆発した。
クラウディアはベルリオーネとともに瞬時に固い石造りの建物壁に隠れて無事だった。
“高度な尋問”をすることが真の役割である国内治安騎士団本部はそれ自体所々外部に音が漏れない防音魔法を施されているが、たまに魔力の供給や術式の更新が滞って外部に悲鳴などの音が漏れることがある。だが、それを差し引いても国内治安騎士団本部の建物は極めて頑丈に作られており、爆発くらいでは地下ですら崩落する気配すら見せないほどである。
妙に停滞した冷たい地下特有の空気。
蝋燭のおぼろ月のような光が薄暗い石畳の廊下を照らす。
ベルリオーネを抱えたままクラウディアは一気に階段を駆け上がった!
薄暗い場所から一気に太陽の照る場所へ飛び出し、その光がベルリオーネのまぶたを刺激した。
「・・・あ・・れ・・・・ここは・・・?」
だが、ベルリオーネが目を開けようとする直前にクラウディアの足が止まった。
ベルリオーネはまだ頭が朦朧としているせいか意識を取り戻すようでまだ完全には起きれない。
「おっとお嬢さんたち。あんたたちのお相手はこっっちよん♬」
ベルリオーネを肩に抱えた戦闘メイドの前に黒い装束の魔女が本部中庭で待ち構えていた。
「あら~コンスタンチンさんとこのメイドさんじゃない。確か名前はクラウディアサンだっけ?」
「より正確には“戦闘人形”といった方が正確かしら?」
「・・・・・・・・・」
「あら、シカトするなんてひどい♬あなたはいつも丁寧に返事してくれるのに今日は超不機嫌なのかしら?」
クラウディアの目は紅茶色の美しい瞳をしている。
いつもと違うのはその目に光沢がない点だ。
焦点がなく、無機質な人形としか言いようがない。
「死にやがれ!!!!」
シュヴァルツとの会話の最中に背後から戦斧を振り回してきた門番の攻撃をかわし、片手だけで門番の背後から甲冑ごと心臓をガーバーマーク2特別仕様で貫く。
「うぶぷっ!!ごいず・・・、人間じゃねえ!!!!」
ドサッ!!
刃の血を振りはらい、ベルリオーネを抱えたままクラウディアは相変わらずシュヴァルツの質問に答えない。
そのまま彼女は階段を駆け上がる!
「おっと!逃げるのクラウディアちゃん!」
シュヴァルツの叫び声に耳を貸さず、追撃を振り切る!
そのままクラウディアは3階まで一気に階段を駆け上がり、その高さから本部の外に飛び降りた。
一気に門外の兵士も倒して脱出しようと思った時。
小綺麗な貴族、というか宗教者のような服装をした中年の男が葉巻をふかしながら市街地へ通ずる通りで行く手を遮るように立っていた。
「執事コンスタンチンが神性銀を改良して戦闘能力を高める実験をしているとは聞いていたが、確かに少しはできる奴を作り出したようだな」
「そうなのよ~モールス局長!クラウディアちゃんったら挨拶すらしてくれなくなったのよ~」
いつの間にかシュヴァルツがモールスの横にいた。
立ちふさがる2名の強敵。
だが、クラウディアの表情に焦りはない。
―――眼前の敵は2名。一人は第一級魔導士・通称セレーヌ・シュヴァルツ。正面から攻撃を受ければ即死は確実。もう一人は国内治安騎士団局長・通称モールス。戦闘力・魔法力ともに強大。対象者を抱えて逃走はまず不可。
ならば。
ベルリオーネをゆっくり地面に寝かせて、クラウディアはもう一本の手にガーターベルトに仕込んだ鞘からガーバーマーク2を抜き、武術家のような構えを見せた。
クラウディアの周辺から石やチリなどが浮かび上がっていく。
「!?」
余裕ぶった声が途切れ、シュヴァルツの表情が歪んだ。
――――戦闘人形の魔力が急上昇!コンスタンチンの野郎、わたしらもあずかり知れない神性銀の調合法を知ってるわね!
比例してシュヴァルツの脳内に映し出されたクラウディアの各ステータス値が急上昇していく。モールスも葉巻を投げ捨てて防御の構えを見せた。
異常なまでの戦闘力の上昇にシュヴァルツとモールスに焦りの表情を隠せなくなってきた。
「流れは水のごとし。移動は風のごとし。我、燦然と輝く水鏡の光のごとし!」
「秘剣、アーガスの血風!」




