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第93話 魑魅魍魎内の思惑

南城門城壁内の広場でゴーレムを迎え撃ったハイン王国正規軍の2個中隊はバルカン砲などを装備したゴーレム209(ツーゼロナイン。須藤が命名)の前にほぼ壊滅した。


30mm機関砲弾や連装仕様の7.62mm汎用機関銃で穴だらけどころか肉体そのものを消滅させられたような死体の山の数々。


高い城壁の上に等間隔で建てられた石造りの監視塔は16連装220mmロケット弾の一斉射でほとんどが倒壊した。


重厚な石造りの高い城壁にもロケット弾が直撃したせいで所々崩落し、城壁の上から崩れ落ちた部分、穴が開いた部分もある。


「ひいいいいたすけてくれーーーー!!!!!!」


ズガッ!!!


「なっっっなんでえええ!!!!」


無慈悲に振り下ろされた両刃の剣に切られたのは正規軍兵士。


規格外のサイボーグと化したゴーレムが叩き込む死と破壊の嵐から逃れて城下町内部へかけこもうとする兵士を撫で切りにしたのは国内治安騎士団の督戦隊員だった。


前門のゴーレム、後門の督戦隊。


正規軍兵士に逃げ道はない。


「全員後方へ退避!もうじきゴーレムがこっちに来るぞ!」


督戦隊指揮官が号令をかけた。


逃走する兵士が多いにもかかわらず、一部正規軍兵士が必死でゴーレムに弓矢や急造の簡易爆薬を投げつけて戦う中、国内治安騎士団員は一斉に市街地へと後退していく。


ゴーレムが暴れる城門前の広場一帯には続々と正規軍の兵士たちが徒歩もしくは馬車で城門近くまで市街地から逐次投入されていく。


それと入れ替わるように国内治安騎士団員は後退していくが、通りをすれ違いざまにニヤつく国内治安騎士団員を正規軍兵士は誰もとがめられない。


督戦隊の一隊が市街地中央の広場にまで行くと督戦隊指揮官の前に突然、転移魔法の魔法陣が現れた。


「これは!?全員敬礼!!」


その中から現れた3名を見て指揮官以下国内治安騎士団督戦隊員が全員一斉に敬礼する。


「これはモールス局長にイーストマン団長!シュヴァルツ第一級魔導士殿も!」


小綺麗な貴族服に身を包んだモールスが髭を触りながら督戦隊を一瞥した。

「現状を報告せよ」


「はっ、30分ほど前に突如帰還した国内治安騎士団第521部隊所属の馬車より正体不明のゴーレムが次々と出現巨大化しました!そいつらはバルカン砲やロケットランチャー、汎用機関銃などの地球の近代兵器で武装しており、剣や弓、槍や中級クラスの魔法などしか使えない正規兵では歯が立ちません。戦線が崩壊して市街地中心部へ攻め込んでくるのも時間の問題化と・・・」


「正規軍どもにスコットが死んだ件は言っていないだろうな?」


「はい、我が督戦隊を除く治安騎士団全体にもかん口令を敷いていますが故、正規兵と城下町の下民どもには魔王軍の軍勢が奇襲してきたと伝えております」


「よろしい。で、一体誰が今回の襲撃の首謀者だ?」


「はい、行方をくらませていた冒険者・須藤兵衛と数名の女エルフどもがスコット様の部隊になりすまして城内へ侵入後、馬車の中から見たこともない金属のような外見のゴーレムを展開したとのことです!」


「あ~ありゃかなり凝った造りのゴーレムだねえ~。あんなの作る奴といったらあのボウヤくらいしか考えられないな~と思っていたら案の定魔力周波数もかすかにスドウちゃんとそれから誰かさんのモノを感じる!け・れ・ど~馬車からはスコット君の魔力周波数がする。何かの手段で彼の魔力周波数をコピーしたりしたんだろうね。スドウちゃんやっるう~♬局長さんの直感当たってたよ~♬」

遠隔魔法と透視魔法を併用して南城門の方を覗いていたシュヴァルツがウキウキ顔でモールスの方を見た。


「局長」


「なんだイーストマン?」


「かすかだが須藤の魔力周波数と他3体、計4体の強い魔力反応が急速に城の方へ向かっている。奴は恐らくまっすぐ女王の首を取る気だ」


「女王の首を・・・?そりゃ面白いことになりそうだ!このままスドウに女王を襲わせりゃ!」


「そうも言ってられない感じですぜ局長。情報では奴は急速に魔力を鍛えていやがる!おそらく魔力周波数の探知もできるはずだ!おまけにハイン城入り口のすぐ横には俺らの本部がある。多分ベルリオーネの存在に気づかれるぞ!あそこを落とされるとベルリオーネを奪還される恐れがあるし、機密文書が奴の手に落ちるとさすがにまずい!!」


「クソッ!ベルリオーネもだが機密文書が取られるととたしかにまずい!!行くぞ貴様ら!督戦隊も俺に続け!!」


「はっ、はい!!」


「んも~♬スドウちゃんったらいきなりメインデッシュを私たちに食べろって言うの~♬」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


ハイン城城内玉座の間。


すさまじい爆発の轟音はこの玉座の間にも響き、城内はあわただしい雰囲気に包まれていた。


「失礼いたします!」


「入れ」


門の開閉係の使用人が豪華な扉を開くと、国内治安騎士団の紋章を胸に付けた騎士がいそいそと入室し、女王の前でひざまずいた。


「報告いたします!南城門が破られ、賊が城下町ヘと侵入いたしました!」


「何だと!?城門が破られただと!?何者じゃ!!」


「は、2週間ほど前にオホロシュタットへ出発して以降、行方不明になっていた冒険者・須藤兵衛です。他に3名ほど正体不明のエルフが須藤に随行しているとのことです!」


「ぐぬぬぬ!!!!何をやっておるのじゃ!!!!モールスとシュヴァルツは!?」


「彼らは国内治安騎士団本部地下にて現在反逆者ベルリオーネを尋問中です」


「何・・・!?ベルリオーネを捕縛した件は一昨日モールスから聞いていたが、もうこの城下町に到着して本部にまで連れ込んでおったのか!?そこまでは聞いておらぬぞ!!なぜ黙っておった!!」


女王は怒りのあまりグラスを床に投げつけた!


バリンと派手に割れたガラスがビロードのじゅうたんにワインのシミを作った。


玉座の間からサッと立ち上がると、報告に来た国内治安騎士団員の元にツカツカと速足で迫り、胸ぐらをつかんだ!


「なぜベルリオーネを本部へ連れ込んだことを報告しなかった!!」


「じょ、女王陛下!!申し訳ございません!!実はモールス局長から口止めをされておりまして!!」


「ええい!!もうよい!!!さっさとお前も賊の始末に行け!!」


「はっ、はい!!!!」


国内治安騎士団員が慌てて玉座の間から退出し、扉が閉じられたことを確認すると、女王は額に汗を流して狼狽した。


「口止めをされていただと・・・・!?ベルリオーネを尋問すること自体は問題ないが・・・・。さてはモールスめ!“桔梗”の一味に関する情報を一人占めするつもりか!?」


「まずい、あのたぬきめ!私を出し抜いて先に教祖様へ“桔梗”に関する情報を献上するつもりか!?」


「女王陛下」


玉座後方の幕間からの声に女王は即時反応した。


「コンスタンチンか!?」


「はい」


「聞いておったのか?」


「はい、心中お察し申し上げます」


「モールス、いや野黒のボケナスめ!!表向きは私にこびへつらっておったが、私としたことがたばかられたわ!!このままでは“桔梗”の情報を奴に独占されたら教祖様の寵愛がモールス側に行ってしまう!!」


「落ち着いてください女王陛下。私とクラウディアは陛下の味方でございます」


「ベルリオーネは“桔梗”の一味であると既に口を割った思うか?」


「我が配下の報告では20分ほど前にモールスとイーストマン、それにシュヴァルツらが国内治安騎士団本部から南城門方面へ向かったとのことでございます。日本とこちらをつなぐマジックゲートも開かれた反応は今のところありません。“桔梗”の情報を吐かせたならば真っ先に教祖様の元へ奴らは報告に行くはずです。マジックゲートが開かれた様子がないところを見る限り、まだベルリオーネこと冥龍穂香は“桔梗”に関することについては口を割っていないと考えてよいでしょう」


「クラウディアの様子は?オーバーヒートから修復は完了したのか?」


「あと30分で回復いたします。さらに彼女はベルリオーネを連行した際、確かに彼女を国内治安騎士団に連行したと睡眠の前に言っておりました。本部内部にまでは入っていないのでどの場所にベルリオーネが囚われているかは定かではありませんが」


女王はあごに指をあてて少し考えた後、真剣な面持ちでコンスタンチンへ告げた。

「・・・よし、クラウディアにベルリオーネを本部から奪還させろ。ベルリオーネ捕縛までは許容範囲だが、“桔梗”の情報を独占する腹積もりの野黒の行動は明らかな私への挑戦。クラウディアの暗殺者アサシンスキルなら本部の警戒網も突破できるはずだ。そして、彼女を捕縛後、横須賀第5支部へ移せ、秘密裏にだ!」


「御意に。何、私が女王陛下をお守りいたしますゆえ、ご安心を」



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