第86話 運命の歯車は動き出す
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ベルリオーネこと冥龍穂香は改めて状況を理解した。
法眼らに説得など無駄だと。
冥龍穂香は通常レベルの洗脳ならば解除できる自信がある。
しかし、法眼ら“始原の暁”の組織の者は“解呪”できないとはっきり悟っていた。
“始原の暁”の洗脳は半端ではない。
どのような者、逆らう者をも変幻自在に篭絡し、時には“始原の暁”の弾圧に遭った者をも取り込んで自分たちの人形にしてしまう。
下手に洗脳解除しようと挑めば逆にこちらが奴らの術式に取り込まれて洗脳されてしまう。
だから“始原の暁”の洗脳の儀式で一度深層心理まで操作された人間に通常の解呪魔法は効かない。
倒す以外に方法はないのだ。
それよりもどうする!?
まずい、魔力が・・・。
冷静な表情とは裏腹にベルリオーネこと冥龍穂香は自分の魔力が減ってきていることに焦りを感じていた。
ここに来るまでに魔力を半分以上消耗していた上に、これほどの達人が2人も相手なら対峙するだけでいつもより魔力の消耗が激しい。
「そ・れ・に♬冥龍貞子さんはお元気にしているかしら♬」
「!!」
この場にその固有名詞を聞きたくなかった。
なぜその名を!?
「戸籍上は明治年間に死んだことになっているあんたの祖先・冥龍貞子さん。またの名を神冥の魔女。そして、あんたの御師匠さん」
「お前の大事なお方がどうなってもいいってのかな~♬」
「現住所は。既に魔力は弱り全盛期には程遠い。これじゃ私らの配下でも簡単にぴんぴんころりしちゃいそうねえ~♬」
「ぐっ、卑怯な!!!!!!!」
冥龍穂香が明らかに動揺したその一瞬の隙が命取りだった。
「!?しまった!!!!!!」
いつの間にか至近距離まで迫っていた殺気に気づくのが数秒遅れた。
冥龍穂香の警戒網から消えていた戦闘メイドが気配を一切消して間合いを詰めてきていたのだ。
アサシンクラス特有の気配を消す特技、それもクラウディアのレベルのそれは第一級魔導士でも計測が困難なほどの領域。
頭から血を流したヴィクトリアンメイドが冥龍穂香の視界に入った時、遅かった。
ドッッッッッッッッ!!!!!
彼女の右フックが冥龍穂香の腹を捉え、彼女を一瞬で悶絶させた。
「く・・・・・そ・・・・・!!!」
うつ伏せに倒れこもうとする冥龍の体をクラウディアは抱え込み、そのままガーバーマーク2サヴァイヴァルナイフ特注版の切っ先を冥龍の喉笛に突き立てた。
冥龍穂香の喉の皮が切られ、血が流れたその時。
「待てクラウディア!殺すな!このままベルリオーネを城下町まで連行しろ!治安騎士局で“高度な尋問”にかける!たっぷりと聞くことがありすぎるからな、簡単に死んでもらっては困るからねえ~♬」
「承知いたしました、シュヴァルツ様」
「おい!馬車を用意しろ!反逆者ベルリオーネをハイン城へ連行する!」
法眼夏美ことシュヴァルツが命ずると、人間とモンスターの兵士たちがそそくさと長距離馬車をどこからか回してきた。
重武装の甲冑兵も馬に乗って周囲を固める。
無機質なビルに中世風の馬車と騎兵の組み合わせはただただアンバランスを通り越していた。
そこに時代考証はない。
そこに人の匂いはない。
ただただ炎上する無機質な白いビルと森林地帯の不気味なコントラストの間には果てしない虚無の風が吹くのみ。
「はあ~、しぶとい奴だった」
法眼夏美はルンルンと鼻歌を歌いながらクルリとターンした。
スーツ姿が一瞬で真っ黒な魔女のスタイルに変化した。
所々くたびれた魔女帽を整え、懐からスキットルを取り出す。
「シュヴァルツ様、今は任務中です」
「いーじゃん♬マジ疲れたし、これからお楽しみの時間まで気持ちをほぐしとかないとね♬」
「でなきゃ
じわじわといたぶれないじゃん 」
「了解いたしました、ミス・シュヴァルツ」
黒き魔女は空間に切れ目を作り、そこから箒を取り出した。
それに跨り馬車の上空に舞い上がり、きつい匂いのウイスキーを飲んで気だるげな溜息を吐く。
クラウディアは馬車の中にある鉄格子のなかに気を失ったベルリオーネこと冥龍穂香を放り込み、直後に鉄格子に何かの札を貼った。
どんな強大な魔力の持ち主でも数時間だけ全能力を封じられるマジックアイテムの札である。
クラウディアが合図をすると、重武装の護衛が付く馬車が全速力でハイン城へ向けて動き始めた。




