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第54話 7.62mm弾を食らう前に魔法拳を打ち込めばよい

俺たちの目の前に現れたスケルトンどもはいずれもタダの白い骸骨ではない。


そいつらは骸骨の体を黄金にメッキするように輝かせている者、真っ赤に装飾した者、これまた複雑な模様を頭部や体などの全身の骨に描いている者などまさに派手としか言いようがない連中だった。

まるでメキシコの死者の日に飾る骸骨のような風貌である。


色とりどりの色彩に自らの体を染めた者、派手な模様を顔に施した者、俺が塔やダンジョンで見てきた骸骨スケルトンどもとは明らかに異質な集団。



そいつらは腰だめでフルオート射撃をしてきた後、AKの射手は銃床ストックを肩付けした状態ポジションに移行して素早く腰に付けたポーチからAKに特徴的なバナナ型箱弾倉を取り出し、素早く交換する。


PKMの射手は素早く金属製弾帯の入った箱を機関銃下部に付け変え、弾帯をセットしてコッキングハンドルを手前に引いた。ハンドルを前方に戻すときはやや押し込むように戻す。


AKを持つスケルトンが銃右側面にある大型のセレクターを一番下に操作してセミオート射撃に移行してきた。


スケルトンは指でリアサイトをつまみ300メートルの戦闘照準に調整してから引き金を絞った。


俺たちが隠れる岩へ正確な鉛の殺意が打ち込まれてくる。


AKやPKMの銃弾の貫通力は高い。


おまけに連中は反動を完璧にコントロールしており、射撃の腕はかなり正確。


ここも数秒で粉砕され、俺たちはミンチだろう。


「小僧、俊足魔法はできるか?」


俺と同じ結論に達していた魔女が一瞬で魔法を唱えた。


魔女の体が薄く青白い光を放った。


ほぼ同時に俺も同じことをしていた。


「無論だ!」


「二手に分かれるぞ!おぬしは左手の奴らの背後をとれ!!」


俺はAKを構える左手の連中を始末する。


魔女はマシンガンの方へと目にもとまらぬ素早さで銃弾をかいくぐり突撃する!



AKアサルトライフルとPKM汎用機関銃は、第2次世界大戦で激戦を交えたナチスドイツが開発した革新的な小火器であるSTG44アサルトライフルとMG34・MG42汎用機関銃の影響を受けて開発された。


ドイツ軍が開発したSTG44アサルトライフルは実際の歩兵の戦闘の大半が300メートル圏内で行われているという統計に基づき、当時のドイツ軍の主力ボルトアクションライフル・モーゼルkar98kで使用されていた7.92mm×57モーゼル弾を切り詰めた7.92mm×33クルツ弾を使用する歩兵用ライフルとして開発された。

7.92mm×57モーゼル弾は機関銃にも使用されることから威力は十分で弾薬を共有できる利点があったものの、反動が強いため歩兵用ライフルでのフルオート射撃には不向きであった。

そのため、歩兵に300メートル圏内でのセミオートでの命中精度を保証しつつ、フルオート射撃を可能にして近距離における制圧射撃を可能にすることで歩兵一人の火力を強化する目的で開発されたのがSTG44アサルトライフルである。


第二次大戦末期に大きな威力を発揮した本銃に対する評価はしかしアメリカとソ連で異なった。


アメリカは伝統的に遠距離での正確な射撃精度を重視する歩兵ドクトリンを採用していた経緯から弾薬の有効射程距離が短いSTG44に限定的な評価しか与えなかった。

また、第二次大戦で連合国、枢軸国双方で唯一セミオートマチックライフルであるM1ガーランドを全軍に配備することができたアメリカ軍はそれで戦争に勝利した成功例から遠距離射撃での正確な精度の方を重視する従来型の歩兵戦の認識を変えなかったとされている。

そのため第二次大戦後、従来型の機関銃や歩兵用小銃に使われていた30-06弾(7.62mm×63)とほぼ同じ7.62mm×51NATO弾を採用し、それを使用するM14ライフルを採用したため、ヴェトナム戦争では不意に近距離で遭遇する機会が多いジャングルや市街地でAK47やその中国製コピーである56式小銃を装備する北ベトナム軍や共産ゲリラの南ヴェトナム解放民族戦線ヴェトコン相手に不利な戦闘を強いられた。


一方、独ソ戦で凄惨な殺戮戦を制したソ連はゲオルギー・ジューコフ将軍やコンスタンチン・ロコソフスキー将軍の元、ドイツ軍と同様の平原における機甲部隊での戦闘ドクトリンを確立したことからドイツ軍の歩兵戦闘の思想に近く、STG44を評価して戦中の1943年の時点でドイツの7.92mmクルツ弾と同じく全長を切り詰めた短小弾薬7.62mm×39を使用するセミオートマチックライフルSKSを採用するなど早くから近距離での圧倒的な火力を重視していた。


その方針で戦後に銃器設計者ミハイル・カラシニコフが開発したAK47はシベリアの極寒地帯からアフリカや中東の砂漠、高温多湿な東南アジアにおいても確実に作動する信頼性の高さで知られている。

多民族国家でロシア語が限定的にしか通じない地域も多いソ連の各民族が30分程度の説明で即座に使いこなせるよう設計されたAKシリーズは、世界中の紛争地帯で必ず使用されるほど容易に使いこなせることで知られている。

モンスターであっても多少の人間に関する知識と人間に準ずる腕が胴体についてさえあれば使いこなせるのも納得がいく。


どうやってこの世界に持ち込んだのかは不明だが、工業の発達していないこの世界では現実世界の第三世界と同様、構造が単純で誰でも使いこなせることは有利であることは間違いない。


有名な銃器研究家によると、アサルトライフルは機甲部隊に随伴する歩兵が素早く敵を制圧するために開発された火器であるということ、セミオートでの正確な射撃と近距離におけるフルオート射撃での圧倒的火力で敵を制圧すること、ライフルの延長線上ではなくサブマシンガンの延長線上である火器であることをアメリカは見誤ってしまったためとされている。


AKの7.62mm×39弾は口径の大きさと弾頭の重さから現在のNATO諸国軍で主流の5.56mm×45SS弾や、現在のロシア軍で主流の5.45mm×39弾といった小口径高速弾に比べて貫通力が強く、自動車のドアや簡素な土嚢、木や竹などが密集する藪などに打ち込んでもそれらを容易に貫通して弾道を損ないにくい。

ヴェトナム戦争ではM14がジャングル戦に不利とされて小口径高速弾5.56mm×45弾を使用するM16が採用された。

アメリカの銃器設計者ユージン・ストーナーによって設計されたM16は小口径高速弾の採用と独自の作動方式から反動が軽くセミオート射撃の命中精度に優れ、フルオート射撃がAKと比較してよりコントロールしやすく、弾薬が小型なため歩兵がより多くの弾薬を携行できる利点があった。

しかし、小口径高速弾は貫通力の点でAKの7.62mmには劣る傾向が強く、また通常のガスピストンなどを介して機関部を動かす方式とは異なり、機関部に直接発射ガスを吹き付けて作動させるリュングマンシステムと呼ばれるM16の作動方式は定期的なメンテナンスが必要とされるにもかかわらず、強化プラスチックを使用する近未来的な外見から自動でメンテナンスをするライフルであるという風説が広まったこと、また、高温多湿なヴェトナムの気候に合わない発射装薬を使用した弾薬が供給されたことから作動不良が続出した。

後にボルトが作動不良を起こした際にそれを強制閉鎖させるボルトフォワードアシストと呼ばれる装置が追加されたM16A1が登場し、適切なメンテナンスと弾薬の供給で問題は解決された。

改良を重ねてM16シリーズはAKシリーズと世界を二分するアサルトライフルである。


ただ、現実の戦闘は地形をうまく利用し、適切な戦術を駆使して状況を的確に判断できる有能な指揮官が勝利すると言われており、歩兵ライフルの命中精度は300メートル圏内での実用性があればそれほど問題にはならないとされている。




“銀龍の魔女”は一瞬でスケルトンどもの背後にまわった。


「オイタはあの世でせえ!!」


「ひょおおおおおおおおおおおお!!!!!!」


「アータタタタタタタタタタタタタタタタ!!!!!!!!!!!!!!!!」


魔女の拳にすさまじい魔力が宿り、それを振りかざしながら素早い移動でスケルトンの群れの中へと突入した!


すれ違いざまにスケルトンの顔面、頭蓋骨を魔力の宿った拳で粉砕していく。


派手な色彩が塗られたスケルトンの色とりどりの骨の破片が無残に周囲へ飛び散っていく。


へし折られた骨や粉砕された頭蓋骨にアンデッドの生命力はもはやなかった。


俊足魔法で人間の限界を超えるスピードを発揮しているとはいえ、おおよそ魔女とか魔導士とは思えぬ身のこなし。


それはむしろ武道家・モンクのそれだ。


魔法と武術を組み合わせた技は魔法拳とでもいうべき威力を誇っていた。


次々とスケルトンの背後を取り、奴らを拳で粉砕していく魔女。


俺も負けてはいられんとばかりに愛刀・北極刀アークティスクリンゲを抜いてスケルトンに斬りかかった!


奴らを袈裟斬りにたたき斬る。


さらに奴らの首を飛ばす。


さらには細切れになるまで斬った。


斬るというより骨を砕くような感じだった。


あっ、AKとPKMは後で役立ちそうだからすべて回収することにする。


あらかた片付いたとき、洞窟の入り口付近は粉砕された骸骨の破片と、剣で細切れにされた骸骨が所狭しと転がっていた。


俺は落ちているAKとPKMを弾薬や弾倉とともにすべて回収し、マブクロに収めた。

中には金貨と回復薬、さらにはコンパスや手りゅう弾も持っている者がいたのでそれらも回収した。


「光系の魔法はアンデッドによく効くとおぬしも知っておろう」


魔女は得意げな表情で拳を天に突き上げた。


彼女の拳はまだ魔力が宿り、白い光が炎のように揺らめいている。


「それ一体何の特技なんだ?魔女さん、拳法家なのか?」

「われは普通の魔法ではつまらぬ。戯れにげんこつと魔法を組み合わせただけじゃよ。魔法剣のようにな!」


「さあ、行くぞ小僧!」


俺は魔女とともに薄暗い洞窟の中へと侵入していく。



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