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第51話 スローライフは美しい花畑の中で

ハイン王国東部地方。


“呪いの虚無地帯”という異名を持つ東部地方は、王国の首都であるハイン城とその城下町から東へ1000キロ以上かなたに位置する。


平原が多いハイン城周辺からこの地方へ入ると、途中から急激に狭隘な谷や奇岩が密集する地帯へと変わる。


平野はあるものの他の地域に比べて土地がやせており、開発に多額のコストがかかる奇岩などの岩山が多いこの地方は人口の他地方への流出が激しく、所々打ち捨てられた廃村や廃墟化した都市が点在するさびれた地方である。

人が去っていくのと並行してどこからか森林地帯には高レベルのモンスターが多く生息するようになったため人間はますますこの地方に寄り付かなくなった。


しかし、高レベルモンスターが多いとはいえ、現時点では魔王軍に呼応する魔物の勢力がいないこと、開発にも手間がかかることから、中央からはほとんど辺境地帯として扱われている。

城下町市民の関心も薄く、騎士団らにとっても左遷地帯として嫌われている。


表面上は。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



つけられている様子はない・・・。


旅商人の姿をした少女は軽快な足取りで森林から奇岩の密集地帯を素早く移動していく。



東部地方ブロッケン渓谷近く。


森や狭隘な谷間、岩山が連なるこの地域の道は山道か獣道に近い場所もあり、移動は容易ではない。


そんな中をショートヘアの旅の商人の服装をした少女が軽々と移動していく。


その速度と身のこなしは忍者の如く素早く軽快。


目にもとまらぬ速度ゆえ、魔界の樫の木を加工した殺傷力の高いビッグバットを持つレッドオーガや、魔力に長けたマジックスケルトンのそばを通っても彼らは彼女に全く気付かない。


“ブロッケン渓谷にはおぬしの目指すものがあるやもしれぬ”


先日の情報屋の言葉が彼女の頭をよぎった。


北部地方都市オホロシュタットで情報屋から得た情報を基に、第一級魔導士ベルリオーネはすぐに行動を開始していた。


俊足魔法シュネルを用い、徒歩でこの地までやってきた。


万が一つけられていることを考え、長距離連絡馬車は利用しなかった彼女だが、顔からは全く疲れを感じさせない。


第一級回復薬・冥界の泉。


魔法武器・防具と同額で取引されるほど極めてレアな回復アイテム。


それを3個、革製のカバンに入れて持ってきた。


俊足魔法でかなり魔力も体力も消耗していたが、この聖水は一瞬でそれを完璧に回復した。


だが、残るは後2個。


決して無駄づかいはできない。


マブクロを持ち歩けなかったゆえに所持品はカバンと金属製の杖くらい。

行商人を装うために背負っていたリュックは偽装目的で背負っていたがゆえになにも入れていなかった。

それは東部地方への国境地帯の森に捨ててきた。


!?


彼女は俊足魔法を解除し、すぐにそばの林に隠れた。


あれは?


そこは北部地方でもよくみる前線の駐屯地だった。

前線で討伐を担当する冒険者や騎士団が仮に住む前線キャンプ。

ベルリオーネにとっては須藤やスコットとともにこの中の宿屋に宿泊していたので特に珍しい物ではない。


だが、彼女の視線は所々にあるテントの屋根に向けられていた。


“あれは国内治安騎士団・・・・”


ベルリオーネが見たものは国内治安騎士団の紋章。


どくろに2本の槍をクロスさせたそれは警察部隊というよりも海賊旗を彷彿とさせる不気味なものだった。


「国内治安騎士団の任務は首都での治安業務のみのはず・・・・。なぜこんな辺境地帯で駐屯地を築いているなんて聞いたことがない・・・・」


頭の中にステータスをオープンさせ、気配や魔力が外部に漏れていないか確かめる。


ステータスオープンは熟練者になれば外ではなく完全に自身の頭の中でのみ表示させられる。

そこで自身の魔力や気配を、気配の類を消す魔法で完全に消せているか確認できるのだ。


“大丈夫か・・・。よし、では駐屯地の方はどれくらいいるか?”


ベルリオーネは駐屯地にどれほどの生命体がいるか探知魔法を極微量の魔力で発動させた。


よほど上級の魔導士でなくばごく微量なら魔法を発動させても逆探知はできない。


“誰もいない!?どういうことなの?”



駐屯地や砦には誰もいないということが彼女の直感に違和感が増していく。


通常、駐屯地や占領した砦はそのまま魔王軍やモンスターの逆襲を防ぐべく王国の騎士団や冒険者たちが引き続き駐留する、または攻略した城などを冒険者や中古業者がアイテムを漁るのが常識だった。


また、駐屯地はそのまま入植地として長期に渡り住みつく人もいるのでそれ自体が一つの町として発展していくことが多い。


だが、この駐屯地には真新しい旗やテント、建物があるにもかかわらず人がどこにもいない。


簡易的な建物の間を一人の人影が走る。


爽やかな日差しが照らす中、それでいて誰もいないもの悲しさがかえって薄気味悪さを感じさせる無人の町。


ベルリオーネは駐屯地や物見やぐら代わりの塔をすべて調べたが、どこにも誰もいない。


やたら多くの倉庫。


馬車も大型の貨物用の物がざっと30台はある。


なぜこんな辺境地に?







その時ベルリオーネは何かを感じ取った。


森に微弱な魔力反応!?


あそこか!?


気付かれぬよう気配を消して薄暗い森へ入る。


全身を透明にする魔法を使い、慎重に素早く!


突然、森が開けた。


そこには。




暗い森から一瞬で視界が広がった。


美しい花々。


一面に咲き誇る白や赤、ピンク色の花々が爽やかな風に揺られていた。


「・・・これは・・・・・・!?」


そこでは誰かが花畑の中でせっせと農作業をしている。



ベルリオーネは茂みに隠れた状態で300メートルほど離れた彼らへ何かを探知する魔法を遠隔で測定する。


逆探知されて気づかれぬよう必要最低限まで魔力の出力を下げて放った。


ベルリオーネの視界に映った人々に関する各種データが彼女の脳内に次々と表示されていく。


あるデータが表示されたとき、彼女は口元を歪ませた。


“あの人たち認識改変されている!?”


“記憶が改ざんされている痕跡もある!”


“何を話している?”


探知魔法のボリュームを上げると、彼らがする会話の音声も彼女の脳内に聞こえてきた。


「今回の収穫は豊作だな、ミナ」


「ええ、これだけ“野菜”が収穫できれば町にも売れるし、自給自足には事欠かないわね」


「後は猪とかも狩れるし、モンスターの中にも食えるのがいるからマジで楽しい」


「そうよね、一時期は自給自足なんてどうなるかと思ったけど、やっと軌道に乗って来れてよかった」


「他のみんなは元気にしてるかな」


「大丈夫よ、みんな別の場所に転生してるだろうけど、私たちはのんびりスローライフしてのどかに過ごせばいいじゃない。テストも何にもないし、モンスター相手にたまに戦ってレベルアップできるスリルも楽しめていいじゃない」


「だな、飽き飽きしてきたらたまに他へ冒険行けばいいし、異世界最高!」


彼らから目を離して畑の端を見ると、何かを詰める金属製の缶が大量に積み上げられており、それを別の男たちが馬車へと積み上げていった。


皆、ごく普通の人間のようで、魔力などはそれほど強くない。


畑に隣接する空き地には多くの荷馬車が止まっていて、荷台に大量の金属缶を積み終わった馬車が次々とどこかへ出発していく。


畑から人々が去っていくまで、しばらくベルリオーネはその場に隠れることにした。


視認する限り、最後の人間が馬車に乗り込み、その場から去っていくのをカバンから取り出した双眼鏡で見たベルリオーネは素早く畑の中に入り、身をかがめる。


人の腹のあたりまでの高さまで育っているそれらの植物は白、ピンク、赤といった花々は色彩的にも美しく、中には青白いものまであった。


咲き誇るそれらを見るベルリオーネの目はしかし厳しい。


ベルリオーネは右腰に付けた短剣を抜き、それで花畑の中に入った。


美しい花々の中に花弁が落ちて緑色のボール状になっている茎が多数あった。


ベルリオーネはそれをナイフで傷つけた。


緑のボールから白い乳液が垂れ、ベルリオーネはそれをナイフの刀身につけ、左手で魔力を注いで成分を調べた。


成分の結果が彼女の脳内に表示される。


何かの薬学上の構造が表示され、彼女の表情が激しく歪んだ。


「・・・・やっぱり・・・・ようやく手がかりが見つかった・・・・!」



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