第118話 妖艶なる魔犬
内容充実のため、第116話から第117話を再編集し、併せて第120話まで一気に投稿いたします。
放り投げられて女王の足元で開かれた状態で床に落ちた黒い手帳。
それは警察手帳だった。
それを見た女王の表情が明らかに変わった。
「そいつに見覚えはあるか?」
「・・・・・・さて、一体これは何でしょう・・・・・・?」
「スコットの遺品さ。正確には警視庁の猪頭徹のな」
明らかに歪む女王の口元。
平静を装っているがその表情から一切の余裕が消えたのが遠目にもわかった。
「俺はスコットがエルフの若い男女を狩ってどこかへ連れ去ろうとする場面に出くわした。
するとスコットは正体を現しやがった。奴はブラックオーガだった。そしてそれを倒すとそいつを持っていやがった」
「・・・・・・」
「奴は死ぬ前に白状した。奴の正体は日本の警察官、それも聞いたこともない部署の現役の警官だとな!!」
「それだけじゃない、得体の知れない異世界の主人公を気取った人間、それも俺が元居た世界・日本から来た若い風体の連中と数名出くわした」
「・・・・・・」
「そいつらは俺のいた世界で流行ってた異世界転生ものとかVRものとかの主人公の”設定“を吹き込まれて得体の知れない全能感を持っていた。俺とよく似た設定の主人公の役割をどうも与えられていたようだった。それだけじゃない。連中はみな、この世界の若いエルフたちを魔王の手先とか言って捕えて口では言えないことをしていたようなことを言っていた」
「・・・・・・」
「お前のところの国内治安騎士団の連中も同じだ。スコットは国内治安騎士団員の部隊を率いて同じようにエルフたちを狩っていた。それも地球へと連行されていったとここにいる俺の仲間たちは証言している」
「どういうことなんだ!なぜエルフを狩る!?答えろクソ女王」
「スコットに続きイーストマンを倒し、さらにはクラウディアまで従えているところを見ると我が臣下コンスタンチンまで退けたようす・・・・・・想像以上の増長を遂げたようだな須藤兵衛!!!!」
「はあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっっっっっっっ!!!!!!!!!!!!!!」
「すっ、スドウ!!すさまじい憎悪の気が!!!!!」
ルイーゼが発言した直後。
「ウオオオオオオオオオオオオオオオッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!」
女王の口調がすさまじい威圧感の咆哮に変わり俺たちに襲い掛かった。
瞬時に気合を入れなかったらそれだけで立ちすくんでしまうところだった。
ルニエールさんがかなりおびえている。
華奢な外見から想像もできない魔獣の雄叫び。
「よくぞここまで来た、スドウ。いや、須藤兵衛!さすがは10年以上にわたる脳波測定で危険人物と判断されただけのことはあるな!」
急に乱暴な男口調になった女王から明らかに魔力が上がった!
脳内ステータスでは数値がレベル120を超えている。
異常すぎる数値だ。
「くそっ、力がでない!」
「ふぁっはっはっはっ!!積んだな須藤兵衛!」
「どうしたのスドウ!!」
うずくまった須藤をエールが心配する。
「先ほどの我が咆哮はそれだけで体力を消耗させる。須藤!貴様、我が配下との戦闘で相当消耗してここまで来たようだな!!」
「どうやったかは知らんが、我がしもべたちをことごとく倒したことは素直に褒めてやろう!だが、魔法力はほぼない状態で私の元に乗り込んできたのは詰めが甘かったな!それが中学生の限界よ!!」
「犬っころ風情が何を!私たちの仲間を返せ!!」
「エルフの女戦士よ、そこそこの戦闘力と魔法力を持っているようだが私に通用するとでも思っているのか!」
強烈な威圧感を持つ怒号。
歴戦の女戦士エールも生まれて初めて足がすくんだ。
ルニエールがマブクロからRPG7を取り出し、タンデム弾頭を装填した。
「私たちの仲間を返せ化け物!!」
弾頭先端の安全キャップを外し、弾頭部分に棒状のロケット推進薬をねじ込み、ランチャーに装填した後、肩に乗せて撃鉄を起こし、引き金を絞った!
バシュンッ!!!という音と共に弾頭が発射。
ドンッッッッッッ!!!!!
ロケットモーターに点火して女王を直撃した!
だが、女王には傷一つない。
目にもとまらぬ早業で防御魔法、それも相当高位のそれを展開していたのだ。
「私にそんなものが効くと思ったか小娘!!」
何もできないベルリオーネは必死に声を上げる。
「す・・・、須藤様!!逃げてください!!!」
手かせをはめられたベルリオーネの声に須藤も反応したいが、できない。
「冥途の土産におしえてやろう。お前は脅威となりうるほど高い反抗数値が計測された関係でこの世界へ送り込まれたのだ。おおかたの推理の通りだとほめてやろう!!」
「あと一つ聞いておく。お前は“桔梗”の一味なのか?」
突然の女王の質問。
須藤は何を言っているのか分からなかった。
「“桔梗”だと!?そんなもの知らない!なんだそれは!?」
「そうか、ベルリオーネと組んでいたからにはお前も“桔梗”の一味かとも思ったがそれはさすがに知らないか?まあ当然のことだ。下民が一生知る必要はないからな!」
「お待ちください女王陛下!」
「お前はサナート副長」
「この少年たちは聞いたところエルフの人身売買に関する情報を告発する気でいるようです。私もこの国の騎士として狼藉は容認できませんが我が国に関わる重大なことを彼らは知っているようです。何卒彼らの告発をお聞きいただきたい」
「サナートさんよ、どうやらあの女王にそんな常識は通用しない感じだぜ」
須藤が叫んだあと、女王はニヤリと笑った。
「くっ、くふっ!くふふふふふふふうひゃひゃはひゃははひゃひゃ!!!!!!」
優雅なドレスを着た高貴な美しい顔。
それを醜悪に歪ませて下品極まる笑い声が玉座の間に響き渡る!
「おい小僧、消耗してるとはいえこの2週間ばかりでずいぶんとまあ魔法力と戦闘力を挙げたようじゃないか!今まで見てきたごくつぶしのガキや、クせえ中年野郎の中で別格!!すこしは嗅覚が発達したみたいね、そこは褒めてやるよガキ!」
「私はハイン王国女王・ミレオール・ハイン」
「とは仮の姿!」
「冥途の土産に見せてやるよ、私の真の姿をな!」
「これは!?」
何だ!?
さらに異常な威圧感が玉座の間に地響きを起こした!
須藤の脳内にステータスが緊急展開された!
もし強大な敵が現れた時に自動的に表示されるようにしてあったのだ。
女王のそれが異常に上昇していく。
すると女王のドレスが破れ、妖艶な裸体があらわになった。
見る見るうちに下半身に獣のような毛が生え、足が4本になり、獰猛な牙をぎらつかせる魔犬の頭が8つも瞬時に生えてきた!
まるでケンタウロスの魔犬版とでもいうべき異形!
上半身は素肌をあらわにしている。
8つの犬の頭、いや、狼のような牙を持った犬のバケモノの頭が5つ胴体から生える。
そこから腹より上の人間の胴体が生える形。
それより上は裸の女性。
しかし、妖艶な乳房がついたスタイルからは考えられぬ筋肉をその肉体部分も持ち、獣の足と人間の部分の手からはともに鋭いかぎ爪が生えた!
もしあれを喰らったら一発でひき肉にされるだろう・・・・。
目の前には凶暴な犬、いや狼といった方がいいのか・・・・。
8つの頭を持ち、上半身は女性という妖艶さと凶悪さを兼ね備えた化け物がそこにいた。
上半身は女王のまま、下半身がイヌ科オオカミのような姿に8つもの魔犬の頭をつけた怪物。
「おっ、お前は・・・・・・スキュラ!!!!!」
「さすがはベルリオーネ。ギリシャ神話もよくご存じの様ね!」
「我が名は殲滅のスキュラ!これが私の真の姿よ!!」




